<中国ニュースの理解でもときおり"ずれ"が起き、誤解が広まる。先日、北京で約1万人の退役軍人がデモを起こしたが、日本での受け止められ方にひっくり返りそうになった> (写真:10月11日の退役軍人デモ)

 まったく同じ表記なので日本語と中国語では意味が異なる言葉がある。たとえば「手紙」は中国語だと「トイレットペーパー」、「愛人」は「妻」を意味する。同じ漢字文化圏だから筆談でだいたいの意味は通じるだろうと思っていると、「愛人に手紙を送った」が「妻にトイレットペーパーを送った」と誤読される可能性もあるわけだ。

 これは中国語学習者の頻出小ネタなのだが、言葉だけではない。ニュースの理解でもときおり"ずれ"が起きる。たとえば中国の強制土地収用だ。政府が暴力的に農民の土地を召し上げ、抵抗する農民たちとの紛争になるという話をすると、「わかりますよ! 先祖代々の土地を死守するのは農民にとって当然の願いですよね」という反応が来ることがしばしば。成田闘争や沖縄の基地問題から連想すると、そういうイメージを持っても不思議ではないだろう。

 だが実際のところ、中国では土地を"死守"しようとする農民はまずいない。抵抗の目的は補償金の引き上げにある。前近代から農地の売買が盛んに行われていた歴史があるからか、社会主義時代に土地の分配が行われたからか、ともかく自分の農地に固執するという意識は薄いのだ。政府が土地を召し上げること自体には変わりがないが、「一所懸命! 土地は絶対死守」なのか、「補償金たくさんもらえるように戦う」なのかではずいぶんと違う話になっている。

【参考記事】歴史的改革の農業戸籍廃止で、中国「残酷物語」は終わるか

「北京で約1万人の退役軍人デモ」の誤解とは何か

 先日、北京市で起きた退役軍人デモのニュースでもやはり"ずれ"が目立っている。

「退役軍人デモのニュースを見ました。中国では定年後の軍人がひどい処遇を受けているようですね。軍の支持を得るのは独裁政権にとっては最優先の課題なのに、それすらできないとは中国経済はもはや崩壊寸前ということでしょうか」

 この言葉を聞いて私はひっくり返りそうになった。実情とは全然違うからだ。退役軍人デモについて日本メディアの報道を端的にまとめると次のようになるだろうか。

「10月11日、中国人民解放軍のシンボルともいえる北京市中心部のビル『八一大楼』を、迷彩服姿の男たちが取り囲んだ。その数はなんと約1万人に達したという。男たちは元軍人だ。退役後、苦しい生活を迫られていることに不満を覚え、待遇改善を訴えて直接行動に出たのだった。退役軍人が軍中枢を包囲するという異例の事態となった」

 この文章は決して間違いではないのだが、多くの誤解を生む種が隠されている。というのも、中国の退役軍人は"みんな"ひどい扱いを受けていると思ってしまいがちだ。ところが実際には引退した軍人はみなそこそこの生活を送っている人が多い。軍人用の住宅購入補助から年金、医療支援と一般の中国人以上の生活水準を保っていると言っても間違いではないだろう。

 ではデモの参加者はいったい......という話になる。実は退役軍人という言葉がくせ者だ。というのも中国では小平以来、軍の定員削減を繰り返している。退役軍人というと、だいたいにおいて兵員削減のあおりを食って軍人をやめさせられた士官を指す。定年した軍人という意味ではないのだ。

高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)