ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件

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「ポーター賞」という賞をご存知だろうか? ポーター賞とは、競争戦略論の第一人者であり、長年にわたり日本企業に関心を寄せ、一橋大学との共同研究の歴史を持つハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授に由来を持つ名前で、製品、プロセス、経営手腕においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行し、その結果として業界において高い収益性を達成・維持している企業を表彰するため、2001年7月に創設され、毎年4社程度が選定されている。

 10月26日、2016年度 第16回ポーター賞の受賞事業として以下の4つの事業が選ばれた。(参照:「ポーター賞」)

・前田工繊株式会社 インフラ事業(土木資材製造販売業):インフラ構築・維持補修・防災減災・環境保護に使われる土木資材を提供する
・株式会社丸井グループ カード事業(クレジットカード事業):小売りを支援するクレジットカード事業を行う
・株式会社オープンハウス 戸建事業部(戸建住宅の製造販売業):都心を中心に戸建住宅を製造販売
・ピジョン株式会社(ベビーケア用品製造販売業):ベビーケア製品の製造販売

 ポーター賞は、独自性のある戦略によって競争に成功した日本企業や事業部に贈られる。ポーター賞が「独自性のある戦略」を評価するという点が、「品質活動による業務の効率化」を評価するデミング賞のような他の賞と大きく違う点である。

“日本企業は70年代と80年代における全社的品質管理(TQC)や継続的改善(カイゼン)運動を始めとして、世界における業務の効率化競争において、長年にわたりコストと品質面における優位を享受してきました。しかし、近年、この競争モデルには限界があることが、より一層明らかになりつつあります。日本企業は、品質による競争に留まるのでなく、戦略とイノベーションによる競争に移行するべきです。”としている。

 このように、ポーター賞は、日本企業を業務の効率性による競争から戦略による競争へと促すことによって、日本企業の競争力を強化することを目的に創設されたのである。

 ポーター賞の選定基準に関しては、一橋大学大学院国際企業戦略研究科国際経営戦略コース楠木建教授の著書『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)を読むと、よく理解できると思われる。楠木氏は同書において、優れた戦略ストーリーをつくるためには、本質的な顧客価値を捉えたコンセプトが何よりも重要であり、他社との違いを構成する要素に一貫性を持たせ、ストーリーをつくる事が競争優位につながるとしている。

 競合との違いをつくっても、それがすぐに他社に模倣されるものであれば、一時的な競争優位を獲得できても、すぐに違いがなくなり、競争優位性は持続しない。楠木氏は、競合から見ると非合理を持ちながら、ストーリー全体で強力な合理性を獲得する事ができれば、競争優位を長い期間、持続することができると主張する。「競合が自社を真似しようとしても真似できない。競合が自社を真似すると競合は自滅する」競争戦略が優れているとしている。

 ポーター賞もこの点を重視して選考されていると思われる。

 実際に、ポーター受賞企業・事業部レポートを読むと、過去の受賞企業がいかにして「競合が自社を真似しようとしても真似できない。競合が自社を真似すると競合は自滅する」、「一見非合理に見える要素が、後から見た時、ストーリー全体の中では合理的に」なっているかを知ることができる。

 2001年度、記念すべき第1回ポーター賞受賞のマブチモーターは、メーカーなどの注文に応じて製品を作るのが常識だったにもかかわらず、製品を絞りこみ、大量生産を選択した。2015年度、第15回ポーター賞受賞企業の婚活サービスのIBJは、オンラインサービスの強みである登録の手軽さを犠牲にするような入会時のハードルを設け、お見合いパーティでは、一開催あたりの集客数を犠牲にしても、個室型パーティ会場の自社運営を選択し、出会いの質を高めることで、顧客満足度を高め、成婚に向けて顧客維持を図るなど、個別サービスの効率性を追わない。

 もちろん、優れたイノベーション事例などは経営者にとっても一読に値するが、一般の投資家にとってもこの賞に注目すべき理由がある。それは、本賞受賞企業の株価パフォーマンスの良さだ。

 ポーター賞受賞企業の株価パフォーマンスは良い。今年のポーター賞受賞企業の株価パフォーマンスは、4社全て、過去5年で比較すると、TOPIX(東証株価指数)を上回っている。

 短期的には、EPS(一株利益)が伸びていきそうだから、株価も騰がるだろうと予想できる。では、5年後や10年後はどうだろう?5年後や10年後のEPSを予想するのは難しいだろう。しかし、ポーター賞の受賞企業は、「競合が自社を真似しようとしても真似できない。競合が自社を真似すると競合は自滅する」、「一見非合理に見える要素が、後から見た時、ストーリー全体の中では合理的になる」面白いストーリーを作ることにより競争優位性を獲得し、維持できることから、長期的な株価パフォーマンスも良いのではないだろうか?

 株式投資判断の一要素としても、ポーター賞については注目しておいたほうがいいかもしれない。

<文/丹羽唯一朗>