金正恩氏

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北朝鮮の首都である平壌では、今年3月から大学研究者向けの住宅や公共施設が入る「黎明(リョミョン)通り」の建設が始まった。70階建てのタワーマンションを含め40数棟、2800戸の高層マンションと、60数棟の公共建築からなる大規模な建設事業だ。

過去には橋崩壊で500人死亡も

金正恩党委員長が建設の指示を下したこの団地。当局は工期優先で安全無視の北朝鮮版やっつけ仕事「速度戦」で取り組んだものの、資材不足、労働者の逃走などで、工事は思うように進んでいなかった。北朝鮮の建設現場では、こうした悪習が一向になくならず過去には悲惨な大事故が起きている。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

こうした中、降って湧いたのが台風10号の甚大な被害。

当局はチャンスとばかりに「黎明通りの建設労働者を水害復旧現場に送り込む」と大々的に宣伝。ところが、実際は水害被災地の復旧工事そっちのけで、黎明通りの建設を進めていたことが明らかになった。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局のプロパガンダとは異なり、水害被災地に送られた労働者は半分にも満たない。さらに、被災地へ送られたのは掘削作業が終わり暇を持て余していた労働者だけだった。

また、国営の各貿易会社は相変わらず黎明通り向けの建設資材の輸入を大々的に進めている。金正恩氏が指示した「1号建設事業」であるため、水害被災地の住宅建設よりはプライオリティが比べものにならないほど高いというのがその理由だ。

金正恩氏のセコい手口

情報筋は、黎明通り建設を進める金正恩氏の意図を次のように説明する。

「金正恩氏は、国際社会の視線が集まっている水害復旧現場を、体制の宣伝用に利用しているだけで、本当に力を入れているのは黎明通りの建設だ。人民のことより、業績づくりを重要視している。だから水害被災地の住宅建設は進んでいない」

朝鮮中央通信などの北朝鮮国営メディアは「1トンのセメント、1キロのコメ、1ウォンの資金も被害復旧前線に送ろう」と煽り立てているが、当局は人員を送るだけ。それだけでなく、実にセコい手口で現地住民の不満を買っている。

同じ台風10号による甚大な被害を被っても、北朝鮮とは対照的な対応をしているのが、お隣の中国だ。

住民見殺し

吉林省の延辺朝鮮族自治州の延辺日報によると、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市と国境の豆満江を挟んで向かい合う龍井市三合鎮で、被災者向け住宅69棟の建設が完了し、19日に被災者に引き渡された。

家の鍵を受け取った村民のリ・スンギさんは「洪水で家が潰れ、食べ物もなかったが、党と政府は食べ物と生活用品、臨時住宅も提供してくれた。新しい家にも40日あまりで入居できた」と喜んでいる。

中国では、災害に適宜に対処できなければ政権への不満が高まる。そのため、当局はインフラ復旧や住宅建設を急ぎ、国営メディアを使って実績を強調する。一方、最優先課題を間違えただけでなく失政をプロパガンダで覆い隠そうとする北朝鮮当局と金正恩氏は、民の恨みを買い続けている。