特別対談|森 達也と鴻上尚史が語る、現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

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今、メディアが劣化していると言われている。既存メディアの時代は終わり、真実はネットにあるという声もある。それに対しては、人それぞれいろんな見解があるだろう。ただ、メディアから流れる情報が過多になっているのは間違いない。溢れる情報と、私たちはどう付き合っていけばいいのだろうか。総務省は、メディアリテラシーのひとつを《メディアを主体的に読み解く能力》と定義している。自らが主体性をもって情報と付き合っていくために必要なこととは何だろうか。

鴻上尚史が作・演出した舞台『天使は瞳を閉じて』とロングラン上映が続いている森 達也のドキュメンタリー映画『FAKE』。共にゥ瓮妊アイ重要なテーマとして描かれている作品だ。この対談が行われたのは『天使は瞳を閉じて』東京公演の千秋楽の後だった。

舞台を観終えた森に、感想を聞くところから対談はスタートした。今のメディアに対する危惧を作品として描いてきた彼らが語るメディアと社会の関係性とメディアリテラシーの重要性。さらに情報を受け取る際に知っておくべきこととは何か――。

変化のきっかけは阪神淡路大震災とオウム事件だった

―鴻上さんは『FAKE』ご覧になりました?

鴻上:もちろん観ました。じつにいろんなことを考えさせられる問題作でした。

森:ありがとうございます。

『FAKE』

本当は聴こえているのか、曲は作れるのか――。森 達也がゴーストライター騒動を発端に、日本中から好奇の目に晒された佐村河内守の自宅に入りカメラを廻した。映し出されているのは、佐村河内の日々の生活だ。「悪いように扱いません」と出演交渉しにくるテレビ関係者、「指示書を書くことが作曲だと思っているのか?」と問う外国人ジャーナリスト・・・。佐村河内を捉えたカメラがメディアと社会が抱える病を浮き彫りにしていく。森達也、15年ぶりとなる監督作品。
全国順次公開中/©2016「Fake」製作委員会

―森さんは、『天使は瞳を閉じて』をご覧になっていかがでしたか?

森:初演の時(1988年)も原発が事故を起こして人類が滅亡するという設定だったんですよね?

鴻上:ええ。書いたのは、チェルノブイリの2年後だったんです」

森:あの時代に核で人類滅亡する設定を考えるなら、普通は核戦争を発想するし、実際にそういう作品もたくさんありましたよね。その時に原発の事故で人が住めなくなるという発想をしたのは先見の明なんだと思いますが、ずいぶん時代を先取りしているなと驚きました。

鴻上:今回観た方から、311があってこう変えたんですか?イ辰童世錣譴燭鵑任垢、ゥ船Д襯離屮ぅ蠅あったじゃないですかイ辰董F本人ってエピソードとしてはチェルノブイリを知っているけど、福島の事故のように人が住めなくなるという意識はなかったんでしょうね。

森:そうですね。あとは、閉ざされた空間の中で、メディアがどう機能して、どういう影響を与えるかということも描かれていますよね。そういう状況でメディアがどうなるのかっていうことはいろんなシミュレーションができると思うけれど、鴻上さんの場合はタ梨イ覆鵑世茲諭メディアって人だから。単純に映像がどうなるかとか、チャンネルが増えるとかっていうレベルじゃなくて、人がどんどん変わっていく。その変わった人たちによってメディアがどう変わるのか。そういった文脈が作られていて、現代批判やメディア政治学の観点からとしても面白かったです。

―僕もこの芝居からメディアに対するさまざまな見方を享受しました。作品中に「わかりづらいものは売れない」というような台詞が出てきますが、森さんもメディアが、本当か嘘か、善か悪か、というふうにわかりやすく二極化していることへの危惧をずっと話していますよね。

森:イ錣りやすさ瓩箸いΔ海箸埜世┐弌∪萋ちょうど鴻上さんと話してたよね。この流れは95年以降だって。

鴻上:阪神淡路大震災とオウムの事件(地下鉄サリン事件)があった95年を境に、芝居にもわかりやすさを求めるようになったという話ですね。それに追加して、森さんはウィンドウズ95が出た年でもある、と。

―震災とオウムがわかりやすさを求めることにどう繋がったのですか?

鴻上:95年を境に芝居の観客の反応が変わってきて、グ豌鶸僂討錣らない作品は失敗作ですイ箸、イ錣りにくい作品を書くあなたには才能がないと思います(18歳、高校生)イ澆燭い淵▲鵐院璽箸来るようになったんです。僕だけかなと思ったら、演劇界で何人か同時にそんなことを言う人がいました。ナンセンスコメディがまったく受け入れられないという人もいました。無意味であることに人々が耐えられなくなった。阪神淡路大震災やオウムの事件を見て、こんなに世界がわけのわからない状況なのに、無意味な(不条理な)芝居なんて観ている場合じゃないぞって多くの人が思ったということなんでしょうね。同時にSFが売れなくなり、推理小説ブームが始まった。イ匹鵑覆吠雑に見えても必ず正解があ
るイ箸いΔ發里魑瓩瓩襪茲Δ砲覆辰燭鵑任后

森:その背景を僕の語彙で言えば、生存への不安と恐怖を社会全般が持ってしまったから。

鴻上:それはネットによってですか?

森:ううん。直接的には地震があり、オウムの事件があったからです。いつ自分が愛する者が死んでしまうかわからないという不安感、恐怖感が刺激されて、みんなでまとまろうという空気になった。そしてソ乎腸除イ起きる。集団=群れですから、全体で動こうとして、同調圧力が強くなる。さらに、全体で動くためには単純な言葉をみんなが欲するようになる。その結果、マッチョな政治家をみんなが求めるようになった。そうした関連の中で複雑さを拒否し、よりわかりやすいものを求め出した。さらにネットが登場したことで、既成のメディアは競争原理をどんどん煽られてしまった。より市場原理が強くなった結果、刺激的でわかりやすいものをみんなが求めていく。そういったことが重なり、今の状況になっている気がします。

ド坩造閥寡沮イ紡亶海垢襪燭瓩涼寮=メディアリテラシー

鴻上:そうね。だから絶対にネットで炎上しない条件が3000字以上の記事だっていう。

―長いものは読まれないから?

鴻上:そう。3000〜5000字くらい長々と書くと反応がないらしいです。

森:僕、最近炎上しましたよ。

鴻上:それはどうして?

森:週刊プレイボーイのインタヴューで、参院選前に、選挙について若者に一言言ってくれと依頼があってね。僕が教えている大学の学生にイ匹海謀衂爾垢襦イ畔垢い燭蕁△世い燭い自民党だと言うんです。イ犬磴憲法は?イ畔垢とシ法はこのままでいいイ噺世Αだから、イ匹海貌れてもいいけど、しっかり知ってから投票すべきだよイ辰董その話をした記事が、ネットに転載されて炎上したんです。記事は長いんだけど、ヌだ年は選挙に行くなと森 達也が語るイ辰討いΔ泙箸疂をされて、ヌ閏膽腟舛鯣歡蠅靴討い襦イ搬臍ぎになったんです。

鴻上:長くても、まとめられちゃうとわかりやすくなりますからね。でも今の話を受けたうえでメディアリテラシーと絡めて言うと、不思議なのはズCっているようなことがなぜちゃんとみんなに届かないんだろう?イ繁佑六廚Δ鵑任后自民党の憲法草案を見れば、どれだけヤバいかわかるじゃないですか? それをいくら言っても圧倒的に自民党が勝っていく。つまり、リベラルと言っていいのかわからないけど、リベラル側の言葉がまったく無力なのは何でなんだろう? と。それに、リベラル側の発言はすぐに炎上するでしょ? 選挙中に、政治家の日本会議系の集会での映像がネットで出回ったけれど炎上しないし。それも何なんだろうなと思いますね。

―確かに、炎上って保守がリベラルを叩く構図が多いように思えます。

森:いろいろ理由はあると思うけれど、ネットは右との相性がいいんだろうね。

鴻上:そういう結論にしますか(笑)

森:つまり、短い言葉で人を罵倒しやすいんじゃない?

鴻上:ただ、68年の学生運動の時代にネットがあったら、僕は右翼がバッシングされていた気がするんです。ダこΔ燃很燭起こるのが当たり前じゃんイ辰董

森:なるほど。

鴻上:その時代にもしあればね。今は無意識に右に振れている感じがする。それも何でなのかな? と思いますが。

森:僕はやはり不安と恐怖だと思いますけどね。それがずっと拭えないから、ザいものに守ってほしいイ箸ド雋錣ほしいイ箸になってしまう。

鴻上:でも、実際に不安と恐怖はあるでしょう?

森:もちろん人間だからあるけれど、例えば中国がどうだ、とか。

鴻上:そっちの恐怖ね。

森:例えば安倍晋三首相が、集団安全保障法制の記者会見(2015年5月14日)でゼ衛隊機の緊急発進、いわゆるスクランブルの回数は、10年前と比べて実に7倍に増えていますイ噺世い泙靴拭そう聞くとグ汰簡歉禊慙∨,変わって当たり前だイ辰道廚辰討靴泙Δ任靴隋でもここにはトリックがある。10年前は、戦後最もスクランブルが少なかった。増えたのは第一次安倍政権の時期です。そもそも冷戦期には、今よりもスクランブルは多かった。ところがそうした細かな要素が消えてしまう。わかりづらいからです。わかりやすい敵を政治権力は提示するし、メディアも乗っかってしまう。そのほうが、数字が上がるから。そうした状態が続いているからこそ、多くの人が見えない敵を可視化したいと思う。見えないから怖いわけだから。可視化したら、この場合、敵は中国や北朝鮮になりますよ。これに対してイい筺中国、北朝鮮は危なくないよイ箸いΩ斥佞砲倭瓦説得力がない。

鴻上:それはわかりますよ。わかるけれど、結局、根本に生活の不安や経済的な不安があるからこそ、恐怖の煽りに乗っかりやすいわけでしょう。それこそ、経済的に右肩上がりだった時は、中国の恐怖を煽ってもイ修Δもしれないけど、民間レベルでビジネスをやっていれば大丈夫イ辰道廚辰討い燭錣韻如だから、中国と北朝鮮に対する不安と恐怖には、リベラルは応えられないかもしれない。だけど、生活とか経済的なものとか、いわゆる未来に対する若者の支えのなさに対しては何かできる気がしますけど。

森:そうですね。

鴻上:昔、リベラルには、ジ弔箸靴洞くなれイ箸いΕ瓮奪察璽犬ありましたよね。僕も演劇でずっとやっていたけど。ジ朕佑箸靴洞くなれイ辰討いΔ里蓮△弔泙蠎らの不安や恐怖に向き合える強い人間になりましょうってことで。その方法は、知性をつけることしかない。そのジくなることイ、つまりメディアリテラシーをつけることだと思うんです。要は、メディアを見る時に複数の視点を持つという意味で賢くなることで、不安と向き合おうとしたんですよ。

映像が持つ影響力とリテラシー教育の可能性

―じゃあ、その犖くなること瓠瓮瓮妊アリテラシーを養うためにはどうしたらいいのか、っていうことですよね。

鴻上:森さんの映画『A』と『A2』を観て、ゥメラがどっち側に立つかによってこんなに印象が違うんだイ辰討いΔ海箸すごくよくわかった。つまり、イ匹辰舛忙訶世鮹屬かで見方は変わるイ函言葉では誰にでも言える。でも、いざ映画でオウム施設内部から外で抗議をしている人を映すだけでここまで印象が違うというのを映像で見ることは、すごく大きいと思うんです。

森:映像の影響力は大きいです。5年ほど前に、車に轢かれて路上に倒れている幼女の横を多くの通行人が素通りしていくという映像が、ネットで拡散されました。場所は中国の地方都市です。確かテレビのニュースなどでも紹介されたんじゃないかな。当然ながらネトウヨはッ羚饋佑寮蟻里鮓たイ搬膣遒咾靴泙靴拭

鴻上:ありましたね。

森:でもこの映像は、実はトリックです。この監視カメラの映像を紹介した中国のテレビ局のディレクターが、映像の明度を思いきりあげて明るくしていたことが後にわかったんです。本当は夜なんです。だから、通行人は見て見ぬふりをしているんじゃなくて、暗くて気づかなかったということらしい。

鴻上:何のためにやったんだろう?

森:話題性と視聴率でしょうね。当然ながらディレクターは処罰を受けました。これほど世界的に騒がれるとは、彼も思っていなかったみたいですが。だから、中国の人たちの多くは、この一件がやらせだったと知っている。ところが日本では、実はトリックだったとの情報が流通していない。情報として面白くないと判断されたのかもしれないし、かつて大喜びしたネットユーザーの多くにとっては、あまり喜ばしくない情報だからかもしれない。ウィキペディア
日本版では今も、犹件の背景には、中国の刑法や罰金制度に欠陥があり、社会道徳の欠如が指摘されている瓩箸いΔ泙箸疂をされています(「中国仏山市女児ひき逃げ事件」8月27日現在)。こうして多くの人たちは今も、中国の一般人はとても冷酷だと思っている。つくづく映像って怖いなと思いました。

―そうですよね。

森:もうひとつ、ヨルダンのパイロット、(ムアズ・)カサースベ中尉がISに火あぶりにされた映像がありますよね。ネットで公開され、その報復としてヨルダンはISに空爆をはじめた。要するに、有志連合に空爆する大義を与えてしまったんです。でも、考えてみたらISは基地を持っているわけではないから、有志連合の空爆によって一般市民にも相当なダメージを与えているはずです。住居が崩れ、そのなかで火がついて、たくさんの人がカサースベ中尉のように焼け死んでいる可能性は高い。じゃあ、なぜ多くの人は、一般市民の被害に対しては反応しないのか。そこにカメラがないからです。映像の力で世界の世論が簡単に変わってしまうし、それによって取り返しのつかない過ちも起こしかねない。というか、過去に実際起こしている。特に映像は、情感を刺激するから。

鴻:そうなんですよね。

森:文字と違うところはそこでしょう。だから映像の影響力が強くなるのは、非常に危険なことです。だからこそ、さっき鴻上さんが言ったように、逆を見せればスイッチできるんだろうけど。

鴻上:どうしたらいいんですかね。

森:やっぱり映像も含めたメディアリテラシーを、もっと早い段階から教育することが必要なんでしょうね。欧米では結構やっているけど、日本ってほとんどないじゃない。先ほども言いましたが、日本人は集団化しやすい。ということは、影響を受けやすいということですから。本当は日本こそ、リテラシーを子供の頃からやるべきなんだけど、政府や行政にそういう発想はないみたいだし・・・。もちろん、それだけで解決するとは思えないけれど。

鴻上:中学校くらいに観せるためのイ海辰疎Δ蓮⊆造狼佞ら映したらこうなっているんですイ箸いΔ茲Δ紛戯爐あるだけで随分変わると思いますけどね。

森:ただ、同時に、鴻上さんが言ったとおり、そういった教育を受けてもなかなか実感はできないんじゃないかな。イ悗イ辰討阿蕕い砲靴ならない。もっとドラスティックなものがないと。

鴻上:うん。それは作家に頼まなきゃいけないかもしれないですね。最初にイ劼匹ぅ筌弔世放イ辰討いΡ覗を観せておいて、実は全部事情があって、彼がこうしたのはこういう理由があったからなんだっていうような、かなり衝撃的なものがないと。たまに、『思わず泣ける話』みたいな感じで、ゼ造呂海譴砲倭管瑤海鵑瞥由があったんだイ辰討いο辰鬚泙箸瓩娠覗がYouTubeで広がったりするけど、そういうものをちゃんと見せていかなきゃダメだと思いますね。本当に、視点が変われば違うんだっていうことを伝えることがいちばん重要な気がします。

ゥ瓮妊アの嘘イ鮓抜くことはできない

―映像だけではなく、メディアにおける言葉のトリックもありますよね。例えば、安保法案の採決の際に使われていたジ緤支援ァ政府は、英文ではlogistics(ロジスティックス)イ班週していますが、本来、日本語に訳すとナ若譛イ任后だけどナ囚イ箸い字はイメージが悪いから使わず、後方支援という言葉がメディアで拡散されましたし。

森:ド雋鑞⊇仍宛饗イ磅ニ姫卅備移転三原則イ般松里鯤僂┐泙靴拭I雋錣繁姫卅備では受ける印象はまったく変わります。中身は何も変わっていないのに。全滅を玉砕、撤退を転進と言い換えた大本営そのままです。こういう時こそ、メディアがグ属廚淵ぅ瓠璽諺犧遒呂笋瓩逵イ範誠悗鯆イ襪戮なのに、その力はほとんど働かない。メディアの政権監視、権力監視をする力が急速に衰えているのは確かです。今、メディアは自信がなくなってる。同時に、競争原理が煽られている。権力の監視をしたところで、みんな見てくれないし読んでくれない。社会全体がそうなっているから、いちいち抗っても仕方がないという風潮になってしまった。だから三つ巴、四つ巴で絶望的な状況になっている。

鴻上:ただね、みんなのメディアリテラシーは、少しずつ上がってると思うんだ。ツイッター上でもゴ蔽韻縫螢張ぁ璽箸垢襪戮じゃないイ辰討いΔ里鬚茲見るようになった。つまり、イ海い弔鵬イ蕕譴泙靴頗イ箸個人の顔写真を晒したツイートが出ると、必ずゾ霾鵑不確かなものをリツイートすべきじゃないと思いますイ辰討海箸鮟颪人が出てきた。それなりに意識が上がってきているとは思うんだよ。ただ、さっきの中国の幼女の映像じゃないけども、どこまでフォトショップが使われているかっていうのは、僕らにはわからないじゃない。これはフェイクなのか、真実なのか。CGかどうかっていうことになると、本当に手も足も出ないですよね。

森:一応、僕は映像のプロですけど、CGで加工されたものに関しては、ほとんど判別できない。結局は作った側の自己申告しかないんです。さっきの中国の話は、たまたま現場にいた誰かがイ△譴鰐襪世辰頗イ噺世辰燭海箸筺▲妊レクターがプロデューサーに漏らしたことなどで発覚したらしいけれど、本人が言わない限り絶対にわからない加工なんて、いくらでもありますから。よくメディアリテラシーについて、ゥ瓮妊アの嘘を暴くイ箸タ慎兇鮓抜くイ箸みたいなことを言う人がいるけれど無理です。それを前提にするなら、リテラシーなんて不可能だと思ったほうがいい」

鴻上:ケ海鮓抜くのは無理ですイ辰討いΔ里蓮俺はいいと思うな。見抜けはしないんだけど、メディアは嘘をつくんだという意識があるかないかは、すごく大きいと思いますね。

森:その前提を自分が持てるかどうかですね。あとは、嘘といっても、自覚的な嘘と自覚のない嘘がある。表現自体がそもそも嘘なんだとも言えるし。そもそも視点が違えば、ある人にとっては真実かもしれないけれど、違う人にとっては嘘になる場合もいくらでもある。つまり真実と嘘という二分法が間違いなんです。

―鴻上さんが過去の舞台『トランス』で書いたタ深造和減澆靴覆ぁ2鮗瓩世韻存在するイ箸いβ羯譴蓮▲瓮妊アと接する際の大事な視点なのかなと思いました。

森:ニーチェですね。それがメディア論の本質だと思います。だから、そういったいろんなバリエーションを含めての嘘があると解釈すべきだと思うんです。僕は、メディアが自覚的な嘘をつくことはめったないと思う。だってハイリスク・ローリターンすぎるもの。

鴻上:それは思いますね。

森:これだけネット社会になってしまったらね。じゃあ、なんでメディアが同じ過ちを繰り返すのかというと、それは彼らに嘘をついている自覚がないから。そういった意識を持てば、相当メディアへの接し方が変わると思います。

規制メディアを変えるインターネットの可能性

鴻上:僕は、ネットはテレビに対する可能性としてすごく積極的に捉えたいんだよね。だからメディアリテラシーを成長させるのも、ネットしかないなと思っていて。ゥ謄譽咾任笋辰討い燭海譴榔海穿イ箸イ笋蕕擦覆鵑穿イ箸っていうことを暴いて、本音を語れるのはネットしかないじゃない。ネットはマイナスのほうに働くこともあるけど、ちゃんとプラスに働くシステムとして存在してくれたらいいと思うんだけど。

森:僕も同意見というか、それしかない。日本の場合は匿名性とかネガティヴな意味で繋がってしまっているけど、本来ネットには、もっともっと使い方があるはずだし、それこそアラブのジャスミン革命は、現在の評価はどうあれ、SNSではじまったわけでしょう? 結果的にあれがよかったかどうか別としても、本来そういうポテンシャルがある。けれど、日本ではなかなかその方面で使われていることはないからね。みんなが正しく理解すれば、可能性は絶対にあるはずだし、他に既成メディアに勝てるものなんてないですよ。テレビや新聞は絶対に変わらないから。徐々に衰退するだけで、構造的に、自分たちで変えることは100%ありえないから。僕らがネットによって意識を変えて、それによって既成メディアが変わる。その手順しかないと思う。

ニュースのプライオリティを決めているのは誰か

鴻上:ただね、ネットのニュースを書く人もあんまりリテラシーが高くないっていうかね・・・。いわゆる大新聞に比べて、ネットのほうが圧倒的に記事量が多いでしょ。だからすごくたくさんの人が書いているわけじゃない? この前、ネットニュースで、ポケモンGOが問題だという記事を読んで笑っちゃったんだけど、20代とみられる男性が、熊本城の案内人に『ポケモンGOをプレイしたいから、立ち入り禁止区域内へ入りたい』と言った。案内人が危険であると説くと、男性は立ち去ったイ世辰董これって、すごくまともなことじゃないですか。これがニュースになっていたんですよ。

森:つい数日前、高校の保健体育の教師が教卓に試験問題を置き忘れ、生徒が撮影して試験前にLINEで流していたことが発覚したので試験をやり直した。これが全国ニュースになりました。テレビでも報道されたようです。でも要は、地方の一高校の期末試験で起きたカンニングです。それが全国ニュースになっている。プライオリティがおかしくなっている。

―ニュースのプライオリティについてはどう考えたらいいのでしょう? 取り上げられるかどうかって、起きるタイミング次第ですよね。

森:つまり、ニュースには毎日トップがあり、新聞には一面がある。ただ、そのトップニュースが毎日同じ質量かっていえば、もちろんそうじゃない。日によってはニュースになるようなことが少ない日もあるわけだから。そういう時は、普段なら4、5番目のニュースがトップに来る。そういう構図がわかっていないと、すべて等価になっちゃうよね。

―ええ。

森:それと、たぶんメディア自身、ニュースのプライオリティがわからなくなっているから、期末試験のカンニングが全国ニュースになっちゃうようなことが起きているんじゃないのかな。

鴻上:先日は、グ打楴鸛蝓⇔さ△褝イ辰討いΕ縫紂璽垢テレビで延々流れていましたけど(笑)。僕もラジオ番組をやっていた時に思ったけれど、取り上げたいニュースがたくさんある週と、あまりなくて困ったなっていう週がある。なくてもニュース番組の場合はイ海譴トップニュースかよイ辰討いΔ發里鮗茲蠑紊欧襪靴ない。そういうカラクリを知っているだけでも、すごく大きいですよね。要は、ちゃんとした基準があって決まるものじゃない。

森:いちばんの根源は、メディアも人がやっているってことです。天から指示が降りてくるわけでもないし、コンピュータが絶対的な計測をしているわけでもない。スタッフが集まって、ズFのトップは何にする?イ箸イ海辰舛里曚Δ、数字がとれるイ箸言って作っているものを、僕らは見ている。そこを理解すれば、だいぶ見方が変わると思いますよ。

鴻上:あと、日本は同じニュースを延々とやりがちですよね。他局と横並びになっていることもありますけど。この前フランス帰りの人と話していたら、ジ園で遺体が見つかったというニュースを一日中ずっとやっている。パリだったら、もっと大事なことがたくさんあるから、少しやるだけだよ。日本はどのチャンネルを見ても同じニュースばっかりやってるよねイ辰董それは同調圧力で、横並びのことをやらなきゃいけないことと、みんなが同じ話題を語りたがるっていうのが合ってしまった結果だと思うけど。日本のメディアってそういうものなんだなってわかっておくだけで、随分違うと思いますよね。

森:日本は事件報道の割合が、世界でもトップクラスです。世界一かもしれない。殺人事件とか起きようものならこぞって記事にするけど、ヨーロッパやアメリカではそんなに大きな記事にしない。そもそもアメリカなんて、よほどじゃないと報道しないですよ。きりがないから。

鴻上:確かに。

森:この国はものすごく治安がいいからね。これもおそらく世界一です。ところが、事件報道も世界一なのは、すごくねじれていますよね。だから、不安や恐怖をみんなが持ってしまう。でも、なぜメディアがそれをやるかっていうと、事件報道をみんなが観たがるからです。

鴻上:ますます加速していきそうな気がしますね、この傾向は。

森:止まる理由がないから。

イ錣らないことの豊かさイ鮹里

―今回、鴻上さんは『天使は瞳を閉じて』を再演するにあたって、意識的に変えたところはあるんですか?

鴻上:冒頭の演出だけですね。前回この作品を上演したのは、2011年の8月だったんです。311の5ヵ月後くらいだったから生々しかったけど、今回は風化しているというか、イ△譟 みんな終わったことだと思ってない?イ辰討いΦせちがあって。それで以前の公演の冒頭は文字だけだったんですが、今回は防護服を出演者に着てもらったんです。

『天使は瞳を閉じて』

舞台は、放射能に汚染されて人類が滅亡してしまった近未来の地球。ふたりの天使が透明な壁に囲まれた街を見つける。そこはかつて原発事故によりナ射能汚染区域イ忙慊蠅気譟∧射能を漏らさないために作られた壁で覆われていた。皮肉にも、その壁が街の人々を守ったのだった。それなりに楽しく暮らしていた街の人々は、やがて壁を壊して外に出ようとする。そんな彼らを天使はそっと見つめ続けていた――。1988年、29歳の時に鴻上が書き第三舞台で初演。今回、1991年、1997年、2003年、2011年に続く6度目の再演となった。
2016年8月5日〜9月4日に上演

―確かに。原発事故にしても、なかなか続報が目に入らないじゃないですか。新しいことを伝えないといけない部分はあるかもしれないけれど、過去に起こったことの追いかけ方にも問題があるんじゃないかなと思う部分はありますね。

森:お芝居にもあったけど、放射能物質を微量摂取した影響力って、厳密には誰にも証明できないわけです。だけど、ゥ瓮妊アはわかりませんイ箸聾世┐覆ぁ8世┐覆い里覆蕁▲淵靴砲靴舛磴うっていうことで取り上げない。それは、今回の原発の報道でもたくさんあった。メディアがわからないと言えないのは、ゲ燭任錣らないんだイ辰道訥絢圓籠票圓怒るから。もしくはチャンネルを変えてしまうから。でもね、もう少しだけダい涼罎呂錣らないものなんだイ辰討いΠ媼韻鬚澆鵑覆持ったほうがいいと思う。あるいは、わからないことの豊かさ、面白さ。そっちに引っ張っていけるといいなと思うんだけど。

鴻上:いい話ですね。わからないことは豊かなんだよ。確かに、そこに持っていかないとダメなんだよな。わからないことは単に恐怖や不安なだけじゃない。豊かで楽しいことなんだっていうのを、うまく表現できたらいいなと思います。

森:たかだか人間がわかることって、本当に少ないと思うんです。単純化されているからわかるだけで、本来、世界はそんなに単純なものじゃない。そういう意識を持つことが大事だと思いますね。

ローリングストーン日本版 2016年10月号掲載
特集:現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

SHOJI KOUKAMI
鴻上尚史 1958年、愛媛県生まれ。劇作家、演出家。81年、劇団「第三舞台」を旗揚げ、以降、作・演出を手がける。岸田國士戯曲賞、紀伊国屋演劇賞、読売文学賞などを受賞。2016年11月10日〜12月4 日、「KOKAMI@network vol.15 サバイバーズ・ギルト&シェイム」紀伊国屋ホールにて上演。
http://thirdstage.com/

TASTUYA MORI
森 達也 1956年、 広烏県生まれ。映画監督、作家。86年にテレビ番組制作会社に入社後、報道やドキュメンタリー番組の作品を手がける。98年、オウム真理教のドキュメンタリー映画『A』を発表。現在、単独監督作品としては15年ぶりとなる新作ドキュメンタリー映画『FAKE』が上映中。
http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/