写真提供:マイナビニュース

写真拡大

今回は、身近なところにあるのだが、意外と見落としがちな細々した機器・品物についてまとめてみよう。

○オーディオサービスと映像サービス

業界ではIFEという言葉も出てくるが、これは一般的にはIn Flight Entertainmentの略。要するにオーディオサービスや映画などのことだ。実は、情報通信技術の発達による恩恵を多く受けている分野でもある。

オーディオサービスは座席ごとに配線が来ていて、備え付けのイヤホンを使って聴くことができる。もっとも、コンテンツの内容はエアラインのお仕着せだから、自前のオーディオプレーヤーを持ち込む人も多そうではある。

映画は以前、フィルムを持ち込んで映写機で客室前方のスクリーンに投影していたが、今はそんな大掛かりな仕掛けはいらない。スクリーンに投影するところだけは変わっていないが、元データはデジタル化され、それをプロジェクターで投影する。これで構造簡素化と信頼性の向上、そして小型軽量化を実現できた。

ただ、これだとすべての乗客が同じコンテンツを見ることになってしまう。だから今では、座席ごとに小型のディスプレイを設けて、そこで乗客が好みのコンテンツを選択できる方法が主流になった。

観たいものを観たい時に観られるのでありがたいが、腰掛が複雑かつ重くなり、配線が増えてしまう難点はある。また、故障する可能性がある部位が増える難点もある。知人が某エアラインで「自席のIFEが故障していた」という目に遭い、しかも14時間の長丁場だったので往生したそうだ。

ちなみにタレス社のAVANTというシステムだと、ディスプレイ装置がただのディスプレイではなくAndroidが動作するコンピュータになっているそうだ。これなら映像の表示だけでなく、ゲームなどにも応用できるわけだ(タレス社では、この仕組みをInFlyt Experienceと称している)。

オーディオにしろ映像にしろ、コンテンツはデジタル・データ化して機内のサーバから配信すればいいので、コンテンツ供給手段が大きく、重く、複雑になることはないと思われる。インターネット経由の動画配信サービスと、理屈は似ている。

○ビデオ用ディスプレイ

日本の国内線だと、わざわざ映画などの上映を必要とするほどの飛行時間はないが、機内に小型のディスプレイ装置は付いている。離陸前に「安全ビデオ」を放映したり、飛行中に現在位置に関する情報を表示したり、離着陸中に前方のライブ映像を放映したりしている。

ボーイング767や777だと胴体直径が大きいから、ディスプレイは通路の頭上に固定設置されている。ところが、胴体直径が小さいボーイング737で同じことをやったら頭をぶつけてしまうから、こちらはオーバーヘッド・ビンの下、読書灯などと並べる形で折り畳み式のディスプレイが付いている。

このディスプレイ、必要な時だけ出てきて、用がない時は折り畳んで収納するようになっているのだが、故障して閉まらなくなった場面を見たことがある。何回か開けたり閉めたりを繰り返したが、当該ディスプレイだけいうことを聞かず、とうとう客室乗務員が手で強引に閉めていた。ひょっとすると駆動用のパーツが壊れて交換になったかもしれない。

ちなみに離着陸時のライブ映像は、首脚のところにカメラを取り付けて実現している。脚上げ後も下方の映像を見られるから、脚柱にカメラが付いているわけではなさそうだ。

機種によっては、写真を見ると機首下面に小窓らしきものが付いているので、これかもしれない。軍用機の電子光学センサーなら話が違うが、民航機の実況用なら、そんなに大きなサイズのカメラが要るわけではない。

○酸素供給と不活性ガス供給

その、頭上の読書灯や(機種によっては)折り畳み式ディスプレイが並んでいる区画には、非常用の酸素マスクも納まっている。離陸前の安全ビデオでは必ず出てくる項目だから御存じの人も多いだろう。

本連載の第3回で与圧の話を書いたが、その与圧が効かなくなってしまった場合、当然ながら機内の気圧が機外の気圧と同じになり、高度が高ければ酸素不足を起こす。だから酸素マスクが必要になるわけで、客室だけでなく操縦室にも、もちろん備えがある。正確に言うと、酸素マスクを真っ先に必要とするのはパイロットである。パイロットが失神してしまったら大変だ。

普通、酸素マスクに供給する酸素は酸素ボンベを使用しており、液体酸素か気体のままの酸素を保管している。ところが、軍用機では違う方法をとっていることがある。それが「機上酸素発生装置(OBOGS : On-Board Oxygen Generating System)」だ。

戦闘機は民航機と違って酸素マスクを常用しているから、酸素の供給も常に必要である。そして酸素ボンベを使う方法では、機体がミッションから戻ってくる度に酸素ボンベに酸素を補充する作業が必要になる。ということは、地上側で酸素ボンベを用意しておかなければならなくなり、補給上の負担が増えるし、再出撃のための準備にかかる時間が増える。

そこでOBOGSを導入すると、大気中の酸素を抽出して供給するので、酸素の補充作業が不要になる。具体的に言うと、沸石(zeolite)を使ってエンジン抽気から窒素分子を取り除き、高濃度の酸素を得る仕掛けになっている。ちなみに、F-22・F-35・タイフーン・JAS39グリペンなどはハネウェル社製のOBOGSを、F-16はコバム社製のOBOGSを使っている。

数年前にF-22ラプターが事故を起こした時、当初は原因としてOBOGSが疑われた。ところが最終的にまとめられた報告書では、OBOGSは直接の原因ではないという結論になった。

抽気システムの不具合が発生すると、F-22の機上コンピュータは火災防止のために停止を指令する。すると、酸素の供給や機内の与圧などが停止する。それに伴う緊急事態からの回復に際して、予備酸素発生装置(EOS : Emergency Oxygen System)を作動させようとしている間に空間識失調に陥ったのが墜落の原因だという判断になった。

ちなみに、F-22も含む軍用機では、OBOGSに加えて「機上不活性ガス発生装置(OBIGGS : On-Board Inert Gas Generating System)」も載せている場合がある。用途としては、燃料タンクなどの爆発を防ぐために空間に大気中から抽出した窒素を送り込む場面が挙げられる。気化した燃料と酸素が混ざると爆発の原因になるからだ。

(井上孝司)