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10月30日、羽田にて日米間の昼間便が就航となる。両国に10路線をどう振り分けるのか注目された中で、もうひとつの話題となったのはデルタ航空の動向だろう。デルタが進める戦略の核心を、航空会社創業経験もある航空ビジネスアドバイザーの武藤康史氏が日本支社長の森本大氏に迫った。

○ハブを基点に飛行機を乗り継ぐ文化

森本支社長:デルタの太平洋路線全体で、半分くらいは乗り継ぎのお客さまですね。特にアトランタやミネアポリスには国内路線が集中しており、直行便で終わりということは少ないです。日本人のお客さま、特にビジネスとして使われる方は乗り継ぎが非常に多いですね。アメリカは日本みたいに一極集中になっていませんので、企業立地も相当分散しており、デルタの路線網は高く評価されています。

森本支社長:デルタは中西部とか南部とかに強いのですが、国内外のメーカーが周辺都市に工場を設けていて、本社があることもあります。デルタしか飛んでいない地方空港などに本社があって、そこに何万人も働いているというメーカーも結構多いんですよ。ブラジルやメキシコなどの南米やカナダへのニーズも高く、乗り継ぎの良さは非常に大切になってきます。

武藤氏:南米は日本からの需要が伸びているとのことですが、北米経由の他、欧州や中東経由もあります。北米であるがゆえに、競争力の面でメリット・デメリットはありますでしょうか? 乗り継ぎビザの問題とか。

森本支社長:日本人の場合、ほとんどの国で米国での乗り継ぎビザは必要ありません。レジャーは別ですが、仕事で南米に行く方は北米にも立ち寄る必要があることが多く、そのような方に選んでいただいています。ただ、南米の人が北米経由で南米に帰る場合、確かに乗り継ぎビザをとるのに時間と手間が必要なので、それを避けるという方はいるでしょう。

○観光整備に対する意識

森本支社長:10月30日に新規就航した羽田=ミネアポリス線については、ビジネス需要のに加えレジャー需要の喚起にも力を入れています。例えば、オーランドやマイアミへの乗り継ぎなど。国内線の出発時間を羽田便の到着時間に合わせて変更するなど、さまざまな調整をしています。

今では個人旅行者も増えてはいますが、それでも旅行会社の存在は大きいですね。遠くになればなるほど想定外なことが起こるので、ホテルの選択ひとつとっても安全がしっかり確保されているのかとか、旅行会社はちゃんと先回りして整備してくれています。

ハワイ、グアム、サイパン、パラオなどのリゾート路線については特に、デルタも地元の政府や観光局、ホテル、空港と連携して観光のための環境整備に努めています。旅行会社向けにディスティネーション・セミナーや研修ツアーを実施したり、空港からホテルまでのアクセスや安全面など、相当緊密に話をしています。

―対談を終えて(武藤氏)―

○"日本離れ"ではなく現実的なアジア戦略

基本的な考え方は前段に行われたプレス向けの説明でカバーされていたが、成田からの羽田移行を含む5路線や関空からのグアム線の運休で、「デルタは日本を軽視し始めたのでは」との巷間の声にきちんと対応し、今後のために早いうちに誤解を解いておきたいとの意向が強く感じられた。

デルタは今後、成田ではなく羽田を日本=米国間の流動のメイン基地としていく方針に舵を切ったわけだが、そこには"日本離れ""成田離れ"と言ったエモーショナルな発想ではなく、ネットワークキャリアとしての現実的なアジア戦略があることがうかがえる。つまり、「米国とアジアを結ぶネットワークを自社構築するよりもコードシェア中心に再編」する方向に転換したということだ。その背景には、日本の大手2社のようなアジア地域へのネットワークを構築できる提携相手がいない以上、成田・羽田経由でのアメリカ人のアジアへの移動を(その逆も)支えることは困難、という現実への対応となっているわけだ。

アジア地域から日本に運航しているスカイチームのエアラインは限られており、中国、台湾、韓国以外では、ANAとの資本提携を機にスターアライアンスへの傾斜が予想されるベトナム航空と、ガルーダ・インドネシア航空の2社しかない。羽田の更なる増枠が実現されたとしても、米国からアジアへの乗り継ぎ機能を東京で構築することは物理的に難しい状況と言える。

オープンスカイ以前の規制時代に存在した、「フルライトキャリア(インカンバントキャリア: 路線開設の自由な権利を持つ航空会社)」であったノースウエスト航空が築いたアジア各国への自社運航ネットワークの意義も薄れた、と考えたのではないだろうか。そこで、中間ハブ機能は仁川と上海(大韓航空、中国東方航空、中国南方航空)に任せ、以遠権による自社運航は営業的に不安定な路線から順次撤退することにしたというのが、今回の成田=バンコク線運休の背景と思われる。

大韓航空はここ3年、アメリカン航空やJALとの提携濃度が増すなどしていたが、アトランタ線の開設・コードシェアの実施で、どのようにデルタとの関係を築くことになるのか。また、中間ハブからの運航便の大半が韓国・中国の航空会社となることで、アメリカ人の自国エアライン選択(嗜好)への影響は出ないだろうか。今後の推移を注視したい。

○ニューヨーク線運休に代わるミネアポリス線の役割

他方、今後は欧州路線と同じようなpoint to point色が強くなる日本路線を見た時、成田=ニューヨーク線という旗艦路線からの撤退は意外だった。デルタは韓国、中国との間もニューヨーク線は運航していない。

自国内のネットワークは、東アジアからの大圏コース(地球儀の上では最も距離効率のいいルート)上にあるミネアポリスやシアトル経由のフィーダーで米国内をカバーし、競争が激しいpoint to point(ニューヨーク経由で米国中・西部に戻る人はいない)の事業リスクを嫌ったと見るのが妥当な気がする。森本氏も、「ミネアポリス経由ラガーディア空港行きは、JFKの混雑等を考えるとさほど不便ではない」と強調していた。

また成田=関空線の運休は、関西に中部のトヨタのような大きな顧客となる企業がないこと等と相まって、デルタが米国向けのビジネス需要にある程度見切りをつけたものと感じさせる。観光需要は引き続き東京経由で拾うことが可能だが、デルタが関西を含めた地方市場に取り組むためには、旅行会社だけでなくどこか新たな提携先を見つけることが必要となってこよう。

○パートナーの不在が日本戦略に大きく影響

話を戻すと、今回の対談で日本市場(日本支社)としては羽田線への移行により、販売ボリュームとイールドが増加・改善することや、そもそも米国エアラインには"成田縛り"がなかったことなど新しい発見があり、楽しく意味あるものとなった。

また、支社と本部の間では乗り継ぎ時間の短縮・効率化を図るためにかなり細やかな米国内のスケジューリングの交渉が行われていること。デルタ全路線のロードファクターを高く保つため頻繁に季節変動に合わせた機材変更が行われており、全社平均利用率が90%レベルにあること。これらのことは、筆者にとっての意外な現実として印象に残った。

そして最も感じたのは、日本での提携相手がないことがデルタの日本戦略に大きな影響を与えているということである。このことは、アジア(ハブ)戦略に直接の影響を与えているし、日本側とのジョイントベンチャーによる日米間のフリークエンシー=便選択の利便性を上げることも不可能な中で、日本路線の休廃止の判断材料にもなっているだろう。

デルタとしては対談にもあるように、日本の航空会社とのパートナー関係は引き続き粘り強く追求していくことになるが、日本側の地方中堅会社やLCCの多くはJALやANAと資本・提携関係にあり、大々的な協業は難しい状況にある。他方、中堅・LCCにしても国内や近距離国際路線の拡大余地が頭打ちになってきている現状もある。地方活性化の観点も持ちつつ、自社利用率・収益性の改善につながるフレキシブルな提携関係を、デルタとの間でも考えていいのではと思う。

(松永早弥香)