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アニメ「サウスパーク」は過激な描写や痛烈な社会風刺を含みながらも、エミー賞を受賞するなど高く評価されている作品。アニメの中には過激な表現が問題になることで時をへるにつれて過激さがなくなる作品もありますが、サウスパークはその逆で、アニメが始まった当初よりも表現が過激になっています。なぜサウスパークは過激になっていくのか、サウスパークの中で使われる「言葉」と「検閲」の関係についてムービーが公開されています。

South Park - Language and Censorship - YouTube

サウスパークを作ったのはこの2人。トレイ・パーカー氏とマット・ストーン氏。この2人は大学で知り合い、その後一緒に映画製作を行うようになります。



2人は1992年と1995年に「The Spirit of Christmas(クリスマスの精神)」という同じタイトルの別のアニメーションを製作しました。



1992年の映画は4人の少年が雪だるまと幼児化したイエス・キリストとの戦いを目撃するというもの。





そして1995年に公開されたアニメはサンタクロースと成長したイエス・キリストがクリスマスをめぐって決闘するものでした。このアニメはYouTubeが出現する前のバイラルヒット作品となりました。





このヒットがきっかけで、パーカー氏とストーン氏は、コメディーを扱ったテレビ局「コメディ・セントラル」に雇われることになります。



そして1997年8月13日、サウスパークの記念すべき第1話「Cartman Gets an Anal Probe(カートマン、お尻から火炎フン射)」が放送されます。当初アニメは、静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしカメラで撮影するストップモーションで製作されましたが、その後、サウスパークは3Dアニメとして作られるようになります。



サウスパークの製作で使われているのはMayaというソフトウェア。最初に厚いパルプ紙をスキャンし、Mayaでモデルを作っていくという手法でキャラクターが作られていきます。



この独特の製作スタイルのおかげで、サウスパークにはシンプソンズなどの一般的なアニメとは違い、カクカクとした動きのチープとも言える雰囲気がかもしだされているわけです。



サウスパークという作品の特徴の1つに、あらゆる問題を「批判すること」が挙げられます。1つの問題に対する批判は特定の方向から行われることが多いのですが、サウスパークの場合は、とにかくあらゆる方向から批判します。



パーカー氏とストーン氏が創り上げる世界は、2者あるうちのどちらかの味方につくということはなく、アジェンダも存在しません。ただユーモアと率直さだけが存在します。



例えば政治について言うならば、彼らのターゲットが保守党だけに留まることはなく、保守・民主・右寄り・左寄り・その中間、とにかく全てがターゲットになるのです。



また、サウスパークは現実に起こっていることを単純化することで、問題を理解しやすいフォーマットに変換しているのも特徴。





そして、4人の子どもの目から世界を見ることで、若い視聴者たちに、これらの出来事を「自分と関係のあること」だと感じさせています。



サウスパーク連邦通信委員会(FCC)から「MA(成人向け)」と初めて指定されたアニメとしても知られています。



FCCは検閲が議題に上がったときによく話されるワード。しかし、FCCは基本的に会員制コンテンツを取り締まらないので、衛星放送やペイ・パー・ビューのコンテンツは自局のスタンダードと慣習によって自主規制を行うことになります。



各テレビ局のスタンダードや慣習が検閲を受けるのは、主に、コンテンツに放送禁止用語などがあることを理由に、広告主からのプレッシャーがあったときのみ。



この時、基本的にファミリー・フレンドリーなコンテンツの方が広告効果は大きくなるので、広告主はそれらのコンテンツに対して広告を出したがります。



しかし、そこには例外も存在します。



1997年、コメディ・セントラルで最も高額な広告枠は7500ドル(約79万円)でしたが、サウスパークが放映されて数カ月後には、サウスパークの広告枠は3万ドル(約316万円)にまで跳ね上がりました。



つまり、ケーブルテレビチャンネルで放送され、広告枠に非常に価値があるサウスパークの暴走をとどめるものは何もないわけです。



そのため、今から振り返るとシーズン1〜2の内容は比較的「おとなしめ」だったとのこと。ステージに立つ女性が……



聴衆に向けて足を開きピンポンを打ち出します。



しかし、前から見るとこの通り。特にぎょっとすることのない健全なシーンでした。



しかし、時をへるにつれ、サウスパークはどんどん過激化し、同じように女性が足を開くシーンにはモザイクがかかるようになります。



今から見るとおとなしめだった初期のサウスパークには、テレビで許容される言葉の範囲を徐々に広げてきたという側面もあります。例えば「Pussy(猫/女性の陰部)」という単語について。



2014年、「コメディ・セントラルで『dick(ペニス)』という言葉は言えるのに『pussy』が言えないのはおかしい」ということで、pussyがコメディ・セントラルの行う検閲対象から外されたということがニュースになりました。



しかし、それに先立ち、サウスパークでは1998年・2001年のエピソードからpussyが連呼されていました。



時代は変わり、今ではCNNニュースでも「pussy」という言葉が使われています。一般の人々の言語に対する感覚は常に進化していますが、サウスパークは下品なコンテンツに対する人々の許容レベルを押し上げてきたと言えます。



また、アニメから、検閲対象となった言葉の変動を見ることもできます。例えばあるエピソードでカイルが発言する「Goddamn(クソッ)」という言葉は数十年前はタブーでしたが、アニメの中では当たり前のように発言されています。



一方で、同じエピソードでは、「shit」というタブーワードが取り上げられ、ストーリーの中であえて何度も発言されるという形が取られました。これは2001年のエピソードなのですが、shitが放送禁止用語だったのはその2年前である1999年までのことでした。



また、「f○○king shit」というように伏せ字にされていた「fuck」という言葉が……



時の流れとともに連呼されるようにもなりました。



一般大衆に許容される言葉の変化をここまで見ることができる番組はほとんどありません。その意味でも、また、言葉に関して視聴者を成熟させるという意味でもサウスパークは最も重要なテレビ番組の1つと言えるとのこと。



時々、「サウスパークは鋭さを失った」と言われることもありますが……



これには、サウスパークを見ている社会が成長した、という側面もあります。昔は過激とされていたことが、人々の許容レベルが上がることで過激には見えなくなったわけです。



1952年、女優のルシル・ボールはテレビで「妊娠」という言葉を使うことを禁じられました。妊娠という言葉が下品であると見なされたのです。しかし、現在では「何に対して人々が不快になるか」というスタンダードが変化したため、妊娠という言葉が下品だと見なされることはありません。これと同じことがこれからも起こるはず。



FCCの報告によると、消費者からの苦情や要望は減少する傾向にあるとのこと。なお、以下のグラフで2004年だけ突出しているのは、ジャネット・ジャクソンがスーパーボウルのハーフタイムショーに出演した際に、乳房を露出したため。



全体として言えるのは、サウスパークは視覚的・言語的にもどんどん許容範囲が広がっているということ。「WHERE HAS MY COUNTRY GONE?(私の国はどこにいったのか?)」というエピソードは……



カナダの大統領になったドナルド・トランプがギャリソン先生にボコボコにされ、レイプされ、最終的に死を迎えるという内容でした。



かなり過激な映像が許されていたのですが、一方で、後に事件のことを口にするキャラクターの発言では「fuck」という言葉が自主規制音で消されています。



冒頭であったように、サウスパークはチープな雰囲気がある独特なアニメになっており、性行為の動きも現実とはかけ離れています。そのため、映像ではかなり過激なことが許されているのですが、一方で「fuck」という言葉はアニメだからといって形が変わるものではありません。ゆえに言葉の方には規制が行われているというわけです。



かつて「妊娠」という言葉が禁止されていたように、これまで「cunt(女性の陰部)」「dick」など、多くの言葉が否定されてきました。しかし、検閲は子どもを守ってくれません。「それが何か」という本質を知らされずに知識を得た子どもは、「もっと知りたい」と思うもの。子どもから悪い言葉を離すための検閲は、子どもにより好奇心を持たせるだけ。



それは、サウスパークの少年たちを見るとよくわかるはずです。