15年に公開された最新作『バケモノの子』のトークショーに出席した細田守

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第一線で活躍し続ける細田守の創作の軌跡を辿るアニメーション特集「映画監督 細田守の世界」。全7回にわたり開催されてきたトークイベントも本日10月30日が最終回。TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われたこの日は、『バケモノの子』(15)の上映後に、“日本絵画史から見た細田作品”をテーマにしたトークが展開された。

【写真を見る】同級生らしい親し気な空気の細田守監督と松嶋雅人氏

対談相手となったのは、東京国立博物館の学芸員であり、細田監督の母校・金沢美術工芸大学の同級生でもある松嶋雅人氏。その“日本絵画”という独自の解釈からは、一般的に認知されている“細田作品”とは違った表情が見えてきた。

■ 日本絵画との親和性が特に高い細田作品

まず前提として、日本のアニメーションと日本絵画とは親和性が高いことを解説した松嶋氏。「日本には“絵巻”という独自に発達した文化がありますが、これは物語を説明するのに最適なメディアなんです。絵巻というのは、本来、幅50cmくらいずつを繰り返して見て楽しむもので、物語が右から左へと進んでいくんです。この横長の画面形式は、いわば絵コンテではないかと」。そう切り出すと、なんと国宝(!)の「鳥獣人物戯画絵巻」をひょいと取り出して見せた松嶋氏。

これには「皆さんこれ、800年も前の国宝の絵巻ですよ!」と慌てつつも、細田監督は「この画面サイズは、ちょうどアメリカン・ビスタぐらいですね。僕も絵コンテを絵巻で描いたら、800年後に残っているかな(笑)」と冗談で切り返していた。

■ 浮世絵の手法と同じ!?細田作品の人物に影がない理由

次に、細田守作品における日本絵画的特色を具体的な事例と共に紹介。それは「人体の中に影を使わない」ということ。渋谷の街をリアルに再現した『バケモノの子』でもそれは顕著だという。

「これは浮世絵と同じ手法で僕は驚いたんです。人物に“影”をつけていない絵は細田作品ぐらいしか見たことがない」と語った松嶋氏。これは登場人物を“キャラクター化”し、物語世界に感情移入しやすい効果があるという。

宮崎駿作品に限らず、今の日本のアニメーションは、人物に影を施して立体感(=現実味)を出し、よりリアルに写実的な描写の作品がほとんど。この影に関する指摘に対し、細田監督は「『バケモノの子』も、例えば建物とか背景には影をつけてるんですけど、確かにつけてないね。(人物に影をつけないのは)1999年の『デジモンアドベンチャー』からかな」と同意していた。

■ 細田作品と歌川国芳との気になる共通点

このほか、今年大規模な展示会が行われるなど、改めて脚光を浴びた歌川国芳と細田作品との共通点にも言及。髑髏が描かれた有名な浮世絵「相馬の古内裏」や「宮本武蔵の鯨退治」といった国芳の代表作と見比べながら、『バケモノの子』の巨大な白鯨の登場シーンや、熊徹の疾走感あふれる立ち回りを解説した松嶋氏。「国芳の“動きの一瞬”を捉えた絵や、巨大な物体を描く時のスペクタクル感はまさに共通しているんです」。

次第にヒートアップする松嶋氏に対し、終始聞き役に回っていた細田監督だが、そうした独自の解釈をいずれも嬉しそうに聞いていた様子が印象的だった。

トークショーの最後を締めるかのように、「自分自身のなかではっきりしているのは、アニメーション映画を“絵を使って動かす”最先端の表現として僕は捉えているので、こうして絵画史の延長線上で解説してもらえるのはすごく嬉しい。アニメーション映画は時に、実写映画の亜流のように言われることがあるけど、それは違うんです」と語った細田監督。

本特集の初日(10月26日)、2018年公開に向けて次回作が進行していることを明かしていた細田監督だが、全7回におよんだイベントでは、その創作の源をあますことなく語り尽くした印象を受けた。「今日の松嶋先生の日本絵画の話に大いに刺激を受けました!新たな目標に向けてヤル気が出てきました」――そう言い残して、会場を後にした細田監督。今回の初の大規模特集を経て、細田作品がいかに変化していくのか?新たな軌跡の一歩を心待ちにしたい。【取材・文/トライワークス】