福田正博 フォーメーション進化論

 日本サッカー界にとって明るいニュースが続いている。

 9月にインドで行なわれたU-16アジア選手権で、森山佳郎監督率いる日本代表がベスト4に進出。来年8月から9月にかけてインドで開催される、FIFA U-17W杯に2大会ぶり8回目の出場を決めた。

 そのU-16アジア選手権の前回大会で、準々決勝の韓国戦に敗れたひとつ上の世代も雪辱を果たした。10月にバーレーンで開催されたU-19アジア選手権において、内山篤監督率いるU-19日本代表は鬼門の準々決勝を突破。来年5月のU-20W杯への出場権を獲得した。

 日本のU-20代表が世界の舞台に立つのは、実に5大会ぶりだ。前回の出場は2007年カナダ大会。その時のチームで活躍した、内田篤人、香川真司、太田宏介、槙野智章、柏木陽介らが、その後のA代表を支える選手になった。2020年の東京五輪世代である今回のU-20代表からも、2022年W杯カタール大会でA代表の中核を担う存在が出てきてほしいところだ。

 ユース年代の活躍は、日本サッカーの明るい未来を予感させてくれる。その中心にいるのが、今回のU-16日本代表の一員である、久保建英であるのは間違いない。

 これまで、バルセロナのユース育ちという話題が先行していたが、U-16アジア選手権がテレビ中継されたことで、彼のプレーを初めて目にした人も多いだろう。コンディションの悪いグラウンドでも、ボールをしっかりとコントロールできる圧倒的なテクニック、広い視野と高度な戦術眼。世界のトップクラブが熱視線を送る理由は誰の目にも明らかだった。

 15歳の久保くんは、9月にFC東京でトップチームに選手登録されたことで、中学生Jリーガーとなる可能性がある。出場が実現すれば2004年3月の森本貴幸(当時・東京ヴェルディ)以来となり、注目度も高まっている。だが、私は彼がすぐにJリーグでプレーすることには慎重論を唱えたい。

 U-16アジア選手権でも森山監督が久保くんを2戦連続でスタメン起用しなかったことからもわかるように、圧倒的なテクニックを誇るとはいえ、まだまだ身体は成長期でフィジカルはできていない。

 世界との戦いを見据えた時に、体格やスピードに差がある相手との試合経験を積むことも重要ではあるが、それは日本国内で育った選手の場合だろう。バルセロナのカンテラ(ユース組織)で技術を磨いた久保くんは、日常的に体格差のある選手たちとプレーしてきたことで、体の大きな相手をかわしたり、いなしたりする技術がすでに備わっている。

 注目度が高い中でのプレーは、自分でも気づかないうちに強い負荷を肉体へかけるもの。彼のような才能溢れる選手を育成するうえで、一番怖いのはケガだ。10代のときに負った故障によって、その後の成長曲線が低くなるケースはよくある。Jリーグでのプレーは、身体が成長して、フィジカルを強化してからでも遅くはない。

 久保くんは、2年後のロシアW杯のころに17歳、2020年の東京五輪で19歳、2022年のW杯カタール大会で21歳。さらに、その先までも見据えて、順調に成長を続けてほしい逸材だ。

 また、久保くんや、レアル・マドリードのユースに所属する13歳の中井卓大くんらの存在によって、日本国内の「原石」への注目度も高まっている。彼らのような才能を持った子どもたちが、日本にもまだ埋もれているかもしれない。ただ、そんな選手がいたとしても、順風満帆のキャリアを築けるかといえば、国内では難しい状況もまだまだある。

 日本サッカー界は、これまで育成システムに力を入れて発展を遂げてきたが、まだ途上にあり、課題も数多くある。その障壁のひとつといえるのが、サッカーを「教育の一環」として捉える考えが根強いことだ。

 強化という観点から考えると、教育の一環としてとらえることは、グローバル・スポーツであるサッカーにおいては、マイナス要素になる側面があることは否定できない。

 たとえば、ブラジルサッカーには「マリーシア」という言葉がある。日本語で「ズル賢い」という解釈をする人が多いが、私自身は、試合展開の中で状況を見極めた上で勝利するために「賢くプレーすること」だと考えている。

 ブラジルの選手たちが戦況を見極めながら瞬時の判断でマリーシアを実践できるのは、子どもの頃からファウルをしてでも相手を止めることを、テクニックとして磨いているからだ。なにも、審判にバレないようにファウルをすることをマリーシアと言うわけではない。

 しかし、日本サッカーの指導では「ファウルはしてはいけないこと」として教えられることがほとんどだ。そのため、ときにはわざとファウルをして相手の攻撃の流れを断ち切り、「賢く戦う」判断や戦術が磨かれることはあまりないといえる。日本人同士の対戦なら問題は目に見えないが、欧州や南米のチームと対戦した時、そうした判断基準の違いが、弱点にもネックにもなってしまいかねない。

 昔とは異なり、今は小学校に入る前からスクールに通ってサッカーを習う子どももいる。そこでは、学校教育と同じように、トレーニングメニューについてこられない選手を作らないようにする練習に身を置くことになる。その中から優秀な子どもたちがプロ選手としての道を歩んでいくことになるのだが、どうしても「ファウルをするのはいけないこと」と教えられる「日本人的な感覚」が刷り込まれてしまうのは避けようがない。

 サッカーという競技は、チームスポーツではあるものの、個の力も重視される。それはつまり、自由で柔軟な発想のもとで生まれる「型破りなプレー」や、ときには「相手の裏をかくプレー」が必要になるということだ。

 しかし、現在の日本では、そうした規格外の選手、型破りな選手の能力を伸ばす土壌が、まだまだ不十分だと私は思っている。日本サッカーの明るい未来のためにも、国内で久保くんのような才能が育つ環境を築いていく必要があるだろう。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro