「悔しいですね。ちょっと慎重になりすぎたのかな、と思います。動きは悪くなかったので、その流れを使えなかったのかなという反省点はあります」

 羽生はこう言って微かに笑みを浮かべた。

 フィギュアスケートグランプリ(GP)シリーズのスケートカナダ、10月28日(現地時間)の男子ショートプログラム(SP)。79・69点で4位発進となった羽生の演技は、1カ月前のオータムクラシックの再現のようになってしまった。

「踏み切るまでは大丈夫だと思っていましたけど、跳んだ瞬間に『アーッ』と思って。ギリギリまで軸を締めましたけど、そのまま締めていたら痛い転び方をすると思って本能的に(体を)開いてしまいました」

 そう羽生が言う最初の4回転ループは、ダウングレードになって右膝を着いてしまった。そして、次のサルコウは3回転になったうえにセカンドジャンプを付けられなかった。その影響もあってフライングキャメルスピンはスピードに乗れず、レベル3でGOE加点も0・43点に止まった。

「4回転ループの失敗で気持ちが動揺したわけではないです。どういう風にミスをしたかというのをパッと思い浮かべて、(4回転)サルコウはこういう風にしようと切り替えはできていましたけど、いろんなことに注意し過ぎたかなと思います」

 昼の公式練習は、モチベーションが上がってくるのをあえて抑えているような、本番へ気持ちを溜めようとしているような練習だった。演技前の6分間練習では、4回転サルコウ+3回転トーループをきれいに決め、着地が少し乱れた4回転ループも次はきれいに決めて練習を終えていた。ジャンプを跳んだのは5回だけだった。

「やっぱり緊張はしましたね。でもそれは不安ではなく、順調にいっていたからこその緊張でした。6分間練習や自分の演技順を待つ間、氷上に上がってからもすべてが順調だったので、そこにちょっと意味づけをしてしまったのかもしれません。今日は昼から気持ちにはすごく余裕があったし、ショートは自信を持ってできていたので、それで少し自信が過剰になっていたのかもしれません」

 意識してしまったのは気持ちではなく、技術的なことだという。「こうやって跳べば跳べる」「これとこれをやって跳べば跳べる」ということを全体的に意識し過ぎたのかもしれないと言う。だが「その意識がうまくハマッてくれた」後半のトリプリアクセルは、GOE加点2・71点をもらう羽生本来の出来だった。

「後半に関していえばシットスピンやステップ、最後のスピンも明らかに良くなっているという感触があります。最初のループのパンクというのは思い切り跳んでいるので、思っている以上に体力を使いますし......。その体力の消耗はありましたけど、スピンだけではなくステップも加点をもらっていますし、レベル4を取れているのでそこは良かったと思います」

 ステップに関していえば、9月の公開練習で見せていた直線的なキレと力強さが前面に出てくるようなものには、まだなっていない印象だ。羽生はこのプログラムを「わりとクールなイメージがあったので、自分の中ではあまりグイグイいくのではなく、ちょっと抑えて、ということを意識していました」と言っていたが、曲調自体は感情を込めて情熱的に滑るという彼が得意とするジャンル。

 だからこそ、練習では9月の時点で何度もノーミスの演技ができるまでになっていたのだろう。だが、そのために自分の完成形のイメージが早くでき過ぎてしまい、試合前から細部にこだわりすぎるようになってしまっているのかもしれない。

「明日のフリーに関しては燃えるというか、本当に高い点数を出せるジャンプがいっぱい入っていますから、演技構成点も重要ですけど、そこが何よりも重要だなと、ショートを終えてあらためて実感しています。冷静に何をすべきか、何をしてどう跳ぶかということをしっかり考えたいです」

 ポジティブな発言をする羽生は、一度吹っ切れる演技をすればすべてが好転するはずだ。今の彼の演技や表情からは、そんな雰囲気を感じる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi