ビートルズで英語の「アウトプット革命」

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経済のグローバル化が進む中、いわゆる「グローバル人材」に注目が集まっている。

英語力が大切なことは言うまでもないが、多くの日本人が、英語力については「足りない」という感覚を抱いているのが現状だろう。実際に「足りない」という気持ちは、知っている単語数(ボキャブラリー)にも裏付けられる。

中学校の英語で必要とされるのは、少なく見積もって1000、多く見積もって2000程度だろうか。大学入試では、3000から6000程度。これだけ覚えるだけでも大変だ、という人も多い。

それに対して、英語のネイティブ話者は2万5000から3万5000程度のボキャブラリーを持っていると言われている。つまり、大学入試でトップレベルの実力を誇る人でも、それからかなりの勉強を続けないとネイティブ話者には追いつけない。

このような現状を見ると、英語力が「足りない」という気持ちになるのは、無理もないような気もする。

英語力が足りない、という感覚が一番影響を及ぼすのは、「表現」においてである。話したり、書いたりしようとしても、自分の実力が十分でない気がして遠慮してしまう。そのために、英語の実力を高めるのに必要な「アウトプット」の経験値が、なかなか上がらなくなってしまう。

実際には、たどたどしい英語でも、表現しないよりもしたほうが絶対に実力は上がるのだが、日本人特有の羞恥心や、完璧を求める気持ちから、ついつい、アウトプットをためらってしまうのである。

そこで、ボキャブラリーなどの英語力が足りないから表現をためらう、という心根を一新したい。発想を変えて、乏しい英語力ならばそれなりに、話したり、書いたりするという表現行為を楽しめるようにしたい。

そのような「アウトプット革命」のために、お勧めしたい教材がある。それは、ずばり、ビートルズの5番目のアルバム、『ヘルプ!』(邦題『4人はアイドル』)である。

『ヘルプ!』は、若くて勢いのあるビートルズの名曲がたくさん入ったアルバムで、表題作「ヘルプ!」はもちろん、代表曲の1つ「イエスタデイ」や、「涙の乗車券」などの、誰もが知っている曲がたくさんちりばめられている。

そして、アルバムを通して聴いて驚くのは、使われている単語がほとんど、日本で言えば「中学校レベル」のものだということだ。嘘だと思ったら、歌詞を参照しながら通して聴いてみてほしい。

言うまでもなく、『ヘルプ!』は、音楽の歴史に残るバンドの代表作の1つである。シンプルで強く熱いメッセージに満ちた楽曲は、これからも聴き継がれて、古典として残っていくだろう。

そのような高い芸術性を持つ楽曲が、中学校レベルのボキャブラリー、文法で表現できるというのは、日本人にとっての1つのインスピレーションではないだろうか。心を動かすためには、何も難しい英単語を、高度な言い回しで使う必要はないのだ。

『ヘルプ!』の中にあるのは、多くが恋の歌である。人生で一番「真剣勝負」のコミュニケーションは、他のさまざまな状況での会話の、1つの模範ともなる。

『ヘルプ!』を聴いて、英語で表現する勇気を持ってほしい。「ほんものの英語」は、思っているよりも身近にあるのである。

(茂木 健一郎 写真=Photofest/AFLO)