北朝鮮の地方都市の市場

写真拡大

計画経済を一言で説明すると、何をどれだけ作って、どう売るかなどを、あらかじめ国が決めた計画に従って行うものだ。旧ソ連、中国などかつての共産圏で採用されていたが、気候変動や人間の心理、流行などをまったく考慮せずにお役人が立てた計画通りに経済が回るわけがなく、失敗に終わった。現在、計画経済を公式に標榜している国は全世界で北朝鮮しかない。

しかし、その北朝鮮でも計画経済は建前だけで、国営の工場、企業所は国の指示ではなく、消費者のニーズや市場のトレンドにに合わせて動くようになっている。生産に必要な設備や資材も国から与えられるのではなく、市場で購入するようになった。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、そんな北朝鮮経済の最新事情を語った。

「『社会主義計画経済体制』は今は昔。工場も企業所も独立採算で動いている。工場のイルクンは、国内市場の状況を見て『経済打算書』を作成、それに従って生産を行っている。国から年間生産目標が下されるのは、鉱山や製鉄などの国家基幹産業だけだ」

かつて、生産に必要な資材、設備などは平壌の資材供給委員会から配給されていた。工場の担当者は必要なものがあれば平壌に出張し、手配していた。

しかし、今では市場で購入するか、ブローカーに注文して届けてもらう。市場の入口には、資材や機械の部品などを専門的に扱うブローカーが待機している。今では市場に行けばなんでも揃うようになった。

「お上もかつてのように、資材の供給ルートを握って生産過程のすべてを牛耳ろうとはしていないようだ」(情報筋)

一方で当局は、市場に対しては管理、統制しようとする意思を捨てていない模様だ。

道の人民委員会(道庁)など各行政機関は、市場の商品価格の統計を平壌の行政部署に報告している。そのため、市場を回って裁縫道具から電化製品に至るまで、ありとあらゆる製品の価格を記録して報告している。

また、各部署に「集金員」「収金員」を置き、地域の工場や企業所を回らせ、事実上の税金を徴収している。中でも、資金の潤沢な外貨稼ぎ企業からは「地方維持税」を徴収し、地方財政に当てている。

しかし、市場を完全に解体する動きは見せていない。それは過去に痛い経験をしているからだろう。

金正日政権時代だった2009年、当局は市場と地下経済を根絶やしにし、経済の主導権を国の手に取り戻すために「貨幣改革」を行った。貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミを実行した。

デノミは、旧紙幣から新紙幣への交換にあたって一世帯あたり10万北朝鮮ウォン(当時のレートで30ドルほど)の上限額が設けられ、残りは強制的に銀行に預けなければならない「事実上の没収」だった。

人々は財産を失うまいと米ドルや中国人民元を求めて市場に殺到した。物資は不足し、ハイパーインフレが起きた。北朝鮮ウォンで資産を蓄えていた住民は、財産のほとんどを失い大打撃を被った。

国は大混乱に陥り、餓死者まで出した。爆発寸前まで至った人々の不満を抑えるために、金正日氏は、朴南基(パク・ナムギ)前労働党計画財政部長を銃殺にし、事態の収拾を図った。金英日(キム・ヨンイル)総理は、平壌に全国の人民班(町内会)の班長を集めて、「事前準備も、事後の結果への考慮も十分に行わず、無理に進めたことで人民に大きな苦痛を与えたことを心からお詫びする」と謝罪した。

これにより、北朝鮮ウォンはもちろん、国そのものが国民からの信用を失う結果となった。いくら最高指導者と言えども、市場を統制することはもはや不可能だったのだ。