先日行われた日比首脳会談の席上でフィリピンのドゥテルテ大統領は、「南シナ海問題」について「いずれ語る」と言葉を濁しましたが、「ときが来たときには日本側に立つ」と明言、安倍総理を安心させました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、この首脳会談は成功だったとし、訪中の際のドゥテルテ大統領の態度を責めなかった総理の対応を絶賛しています。

安倍、ドゥテルテ会談の結果は?

皆さんご存知のように、安倍総理は10月26日、フィリピンのドゥテルテ大統領と会談しました。結果はどうだったのでしょうか?

総理、中国ーフィリピンの関係改善を「歓迎」する

10月26日付、時事通信から。

首相は、南シナ海問題について「地域の平和と安定に直結する国際社会全体の関心事項だ」と指摘。先に大統領が訪中したことに触れ、「中国との関係の改善に尽力していることを歓迎する」と伝えた。

「中国との関係の改善に尽力していることを歓迎する」。安倍総理、立派です。中韓の政府高官は、外国の首脳に会うと、必ず日本の悪口をいいますが、安倍総理、そういう大人気ないことはしませんでした。

日本がフィリピンに対し、「中国との関係改善を歓迎する」というのは、いくつかの面で非常に重要です。

1つは、アメリカの「バックパッシング」(責任転嫁)の罠にはまらないため。リアリストの大家ミアシャイマーさんは、「大国は、バックパッシングを好む傾向がある。なぜならその方が安上がりだからだ」と断言しています。つまり、アメリカは中国を潰したいが、自分で手を汚すのは嫌だ。だから、「日本と中国を戦わせるのが安上がりでいい」となるかもしれない。ですから日本は、中国をアメリカ以上に挑発してはいけないのです。

第2に、ドゥテルテさんを苦しい立場に追いやらないため。ドゥテルテさんは、「チャイナマネー」が欲しくて、中国に接近している。もし安倍さんが、「一緒に中国を批判しましょう!」と誘導し、ドゥテルテさんが一緒に中国批判をすれば? 習近平が激怒してチャイナマネーが来なくなるかもしれない。チャイナマネーが来なくなれば、「なんのために俺は、オバマを『売春婦の子!』」と罵倒したのか?」ということになります。

第3に、安倍さんがドゥテルテさんに中国批判を展開すれば、習近平も反撃に出るでしょう。アメリカは喜ぶかもしれませんが、日本は困ります。

というわけで、「中国との関係の改善に尽力していることを歓迎する」という言葉は、とても賢明でした。

南シナ海の教訓

ドゥテルテさんは、中国との争いの元になっている南シナ海問題について、こんなことを言いました。

大統領は「南シナ海で紛争があれば、平和裏に解決する価値観を基に、(日本と)緊密に協力する」と表明。「私は日本側に立つつもりだ。法の支配に向かって努力することが大切だ」と強調した。先に訪中した際、大統領は中国の主張を退けた仲裁裁判所判決を事実上、棚上げする姿勢を示していた。26日は「判決の範囲外の立場を取ることはできない」と述べ、当事者に対して拘束力を持つとの認識を示した。

(同上)

南シナ海問題。中国とは「棚上げ」で合意したが、紛争になれば「仲裁裁判所の判決を根拠に戦う」ということですね。当然です。しかし、「棚上げ期間」に中国は、ますます実効支配を強化していく。フィリピンと中国で、領有権問題がある地域、仲裁裁判所は、「中国の主張には根拠がなく、フィリピンの方が正しい」という判決。しかし、「事実上」中国領になってしまいそうです。

このことは、日本に大きな教訓を与えています。北方領土も竹島もそうですが、「実効支配」を許したら、後が本当に厳しい。交渉しても帰ってくる可能性はほとんどなく、取り戻したければ戦争するしかない。だから日本は、尖閣諸島防衛についても、真剣に決意を固めるべきです。中国が尖閣に上陸したら、即日排除しなければなりません。「困った困った。まずアメリカに相談しよう。次に国連安保理で相談して」などと言ってたら、アメリカ軍でも「もうムリです」となるでしょう(たとえば、アメリカは、ウクライナがクリミア半島を取り戻すために、ロシア軍と戦う気はない)。

日本は、アメリカとフィリピンの仲を取り持つ

皆さんご存知のように、アメリカとフィリピンの関係は、相当悪化しています。ドゥテルテさんは、オバマさんのことを、「売春婦の子」と呼んでいる。そして、「アメリカとの軍事演習は今年が最後だ!」と言う。訪中時には、「グッバイ、アメリカ!」と宣言し、習近平を大喜びさせました。これは、中国と問題を抱える日本にとって、極めてマズイ事態。今回の首脳会談では、どうだったのでしょうか?

首相は、大統領が先に「決別した」と言及した対米関係について説明を求めた。これに対し、大統領は「米国と外交関係を断ち切るわけではない」と釈明した。両首脳は、南シナ海問題の平和的解決や日米、米比同盟の重要性を確認する共同声明に署名した。

(同上)

「日米、【米比同盟】の重要性を確認する共同声明に署名した」。

これも重要ですね。ドゥテルテさん、オバマさんのことは嫌いでも、安倍総理が間に入ったので、こんな共同声明になったのでしょう。

総理は、ちゃっかりフィリピンの防衛力を強化する

さて、フィリピンと中国の和解を歓迎するといった安倍総理。その一方で、ちゃっかりフィリピンの防衛力を強化しました。

安全保障分野では、フィリピンの海上対処能力を向上させるため、大型巡視船2隻の供与や、海上自衛隊練習機「TC90」の貸与で合意。

(同上)

これは、中国の脅威に怯えるフィリピンが最も欲しいものでしょう。安倍、ドゥテルテ会談の結果は、こうなりました。

大統領は首相のフィリピン訪問を招請し、首相も快諾した。

(同上)

というわけで、首脳会談は成功だったようです。安倍総理、オバマさんを見習って、ドゥテルテさんを冷遇することもできました。しかし、アメリカとは正反対で、ドゥテルテさんを引き寄せた。日本外交も、少しずつ自立に向かっている気すらします。

image by: 首相官邸

 

『ロシア政治経済ジャーナル』

著者/北野幸伯

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出典元:まぐまぐニュース!