9月にコロンビアで開催されたフットサル・ワールドカップで、世界に衝撃を与えたのはベトナム代表だった。ベトナムは2012年のAFCフットサル選手権(アジア選手権)で予選敗退に終わり、2012年W杯タイ大会への出場を逃していた。しかし、自国開催となった2年後の2014年アジア選手権ではチーム史上初の決勝トーナメント進出を果たし、準々決勝まで勝ち上がった。

 さらに今年2月、W杯予選を兼ねた2016年アジア選手権では準決勝まで駒を進めて4位。初めてW杯の出場権を勝ち取った。そして、そのW杯ではグループステージでグアテマラから勝利を挙げて、見事にW杯初出場で決勝トーナメント進出を果たした。

 そのベトナムの驚異的な躍進を支えたのが、ブルーノ・ガルシア監督である。プロフットサル選手として活躍した経験を持つ42歳のスペイン人は、5歳から20歳までフットサルと並行して柔道をやっており、2段の腕前を持つ。現役引退後は、スペインの複数クラブで指揮を執り、最優秀監督賞も受賞。その後、中国のクラブやペルー代表を率いたのちに、ベトナム代表の監督に就任した。

 フットサル日本代表も、ブルーノ監督が率いるベトナム代表に苦杯をなめさせられた。ベトナムが4位となった今年のアジア選手権・準々決勝で、大会2連覇中だった日本はPK戦の末にベトナムに敗退。その後、5位決定プレーオフでもキルギスに敗れ、3大会連続で出場していたW杯の出場権を逃してしまったのだ。

 W杯の出場権を獲得していたら延長する予定だったミゲル・ロドリゴ監督との契約は、このアジア選手権をもって任期満了となり、日本代表の監督は空席となった。この歴史的な敗退を重く見た日本サッカー協会は、フットサル委員会のなかに技術部を立ち上げ、次期監督を慎重に選考していった。そして、30人以上の候補者リストのなかから3名に絞り、選考や交渉を続けた結果、ブルーノ監督に白羽の矢を立てたのである。

 W杯コロンビア大会で大成功を収めたブルーノ監督はベトナムサッカー協会に辞意を表明し、10月21日に日本代表監督就任が発表された。就任記者会見の席でブルーノ監督は、「日本が本来いるべき場所に立ち返るために」全力を尽くすことを約束した。

 監督就任わずか3日後の10月24日から26日には、ブルーノ体制で初となる日本代表候補トレーニングキャンプが愛知県名古屋市のオーシャンアリーナで行なわれた。本来であれば監督が選手選考をするのだが、今回に限っては来日直後に合宿を行なうスケジュールとなっていたため、技術部が18名の選手を選び出した。

 トレーニングキャンプに初めて招集された5選手に関して、ブルーノ監督はまったく知識がなかったという。だが、アジア選手権に出場していたメンバーだけでなく、過去に代表に選出された経験のある選手のほとんどについては、名前や利き足はもちろん、プレースタイルもかなり詳細まで知っており、メンバーをセレクトした技術部の人たちを、「ここまで日本のことを把握していたのか」と驚かせた。

 名古屋キャンプの初日、宿舎に集まった選手たちに向けて監督は、「毎回の練習から100%以上の力を出すこと。それが、新チームのコンセプトだ」と、声を掛けたという。フットサル日本代表の合宿は、月曜日の午後から水曜日の午前まで、4度のトレーニングをするというのが通常だ。選手の多くは日曜日にFリーグの試合をこなしているため、月曜のトレーニングはリカバリーに充てられることが多い。

 ところがブルーノ監督は、初日からかなり負荷のかかるトレーニングを行なった。FP(フィールドプレーヤー)星龍太(名古屋オーシャンズ)は、「ある程度はハードにやるかなと予想していましたが、それを上回る内容だったので驚きました」と話す。

 最初のセッションで強度の高いトレーニングを行なったことには、理由があった。W杯予選に敗退した日本代表は、今年4月にもベトナムと国際親善大会で対戦している。このとき、木暮賢一郎監督が率いた日本はベトナムに7−0と圧勝しているのだ。W杯予選というもっとも大事な一戦でジャイアントキリングを許した日本だが、両国の力の差は依然として明確にある。

「毎回のトレーニングから100%を出すこと。それが、試合にも表れる」

 初日の練習を終えてそう語ったスペイン人監督は、日本が自分たちよりもランクの劣る相手に対して全力を出し切っていない印象を持っていた。そうした甘さを根絶するためにも、練習から持てるすべての力を出し切ることを要求した。

 また、ブルーノ監督の戦術的な要求も、選手たちのハードワークを促した。最初のトレーニングを始める前に指揮官は、「プレッシングのかかった状態というのは、対峙している相手を手で触れる距離にいる状態だ」と明確に示した。

 目の前の相手がボールを持っているとき、選手はその距離まで詰めなければならない――。この前提があるうえで、日本はゾーンで守備をする。そのため、プレッシングをかけに行ったファーストディフェンダー以外の選手は、ファーストディフェンダーの動き、ファーストディフェンダーがプレスをかけに行った相手の状態、自分が見張らなければいけない相手の状態、さらに他の味方の状態を判断したうえで、ポジションをとらなければならない。

 簡単に言えば、身体だけではなく、常に頭も動かさなければならないため、消耗が激しいのだ。

 それでも、日本代表での経験が長い選手たちは、そのやり方に素早く適応していった。FP皆本晃(府中アスレティックFC)は、「ミゲル監督のときから完全に新しいものをやっているわけではなくて、強調するところが変わってきた。経験のある選手は、どう動けばいいかが分かるので、早く慣れていき周りに伝えていきたい」と、細部の調整の重要性を話している。

 初めての合宿を終えたブルーノ監督は、「3日間を通して非常にいいトレーニングができた」と、充実の表情を見せた。屈辱的なW杯予選敗退から約8ヶ月、フットサル日本代表は2020年のワールドカップに向けて、ようやく始動した――。

河合拓●取材・文 text by Kawai Taku