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日本では、多くの機関車が前後対称の形状になっている。運転台が両端にあったり、車体の中央に運転台を設けた凸型だったり。しかし蒸気機関車は向きがある。巨大なボイラーの端で操作するため、煙突が前、運転台が後ろ。そこで転車台を使って方向転換する。小さな支線用蒸気機関車の場合は逆向きのまま走っているけれど、違和感がある。運転士さんも体をひねって前方を見ているようだし、たいへんだ。

たとえば大井川鐵道の場合、2011年まで転車台は千頭駅にひとつだけだった。それもあまり使われず、下りSL列車は蒸気機関車が前向き、上りSL列車は蒸気機関車が後ろ向きだった。2011年、島田市が支援して新金谷駅に転車台が設置され、下り・上りともに蒸気機関車を前向きで運転できるようになった。各地で蒸気機関車を運行しているけれど、その条件のひとつが転車台だ。やっぱり蒸気機関車は前向きに走ってほしい。

ところで、伊予鉄道の「坊っちゃん列車」は蒸気機関車が小さな客車をつないで走る。蒸気機関車といっても形状だけで、実際はディーゼルエンジンだ。この列車は伊予鉄道が軽便鉄道だった時代を再現したレプリカ。愛媛県松山市を舞台とした夏目漱石の小説『坊っちゃん』で、主人公が乗った当時の列車を再現している。

「坊っちゃん列車」はディーゼル機関車の牽引だけど、蒸気機関車の形をしているから前後がある。しかし「坊っちゃん列車」はいつも前向きだ。いつも前向き。良い言葉だ。小説の主人公そのままだ。でも、じつは不思議な現象である。なぜなら伊予鉄道には転車台がないからだ。列車の向きを変える方法としては、「デルタ線」といって線路を三角形に敷いて走らせる方法もある。しかし伊予鉄道にはデルタ線もない。

「坊っちゃん列車」の機関車はどのように方向転換しているのだろうか。実際に見てみよう。道後温泉駅に到着した「坊っちゃん列車」は、乗客を降ろしたあと、そのまま奥の留置線に進んでいく。そして、車体の下から柱が伸びてきて接地し、そのまま車体を浮き上がらせる。ジャッキアップだ。

車輪がレールから離れたら、乗務員が車体の端を押して、くるりと反転させた。そして車体を降ろし、車輪をレールに載せる。これで方向転換は完了。なんと「坊っちゃん列車」の機関車は、車体に転車台の代わりになる装置を内蔵していた。この方法なら、線路側に転車台はいらない。いつでもどこでも機関車の向きを変えられる。

「坊っちゃん列車」の機関車の「空中反転」は松山市駅や古町車庫でも行われる。最も見やすい場所が道後温泉駅の留置線で、線路脇の道から見物できるし、1日の作業回数も多い。松山市駅ではのりばの目の前で反転作業が行われるため、こちらも見やすい。

ちなみに「坊っちゃん列車」の実物の蒸気機関車は、伊予鉄道高浜線梅津寺駅そばの梅津寺公園で保存展示されている。実物の客車は松山市駅そばの子規堂の敷地内にあり、客室にも入れる。12月9日には、伊予鉄道本社1階に「坊っちゃん列車ミュージアム」もオープンする予定だ。この機会に伊予鉄道の訪問を「前向きに」検討しよう。

(杉山淳一)