ドラマ通の4人が「今クールの全ドラマの中でベスト」という「黒い十人の女」

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「週刊ザテレビジョン」44号(10月26日発売)の特集「秋ドラマ“ホントの評判”」では、ドラマ評論家&ライター4人が10月クールの連ドラ注目作10本について座談会を実施。今回はWEB限定特別編として、誌面には収まりきらなかったトークをノーカットで公開!! 第2弾は、バカリズム脚本の話題作「黒い十人の女」(日本テレビ系)について、4人が熱く語ります!

【写真を見る】バカリズムは今、最も注目されるドラマ脚本家の一人

木村隆志:僕は「黒い十人の女」を今期ベストに推します。船越英一郎が演じるドラマプロデューサーに9人の愛人がいるという、市川崑監督の同名映画をバカリズム(※注)の脚本でリメークしたもの。まず文句なく面白い。

上甲薫:私も同じく今クールのベストかな。この役を船越さんが!というキャスティングが最高だし、楽しんで見ているんだけれど、視聴率が予想よりずっと低いのが気になる。

木村:この読売テレビ制作枠としてはそんなに悪くないと思うよ。

小田慶子:私も脚本家としてのバカリズムが大好きで、「かもしれない女優たち」('15年フジテレビ系)を見て、芸能界を舞台にした高度なメタフィクションをやれるのは彼しかいないと興奮しているけれど、数字は取れないんだよねぇ。「かもしれない女優たち」は第1作も、最近放送された第2作も視聴率ひとケタ台。

上甲:どうしてなのかな? めちゃめちゃ面白いのに!

木村:連続ドラマの「素敵な選TAXI」('14年フジテレビ系)が平均10%ぐらいだったね。脚本の技術としては、「素敵な選TAXI」に比べて、「黒い十人の女」では目覚ましい成長を感じる。

上甲:そう。すごく成長している。何本かの線が絡み合って同時に進行していくとか、私たちは、一人の脚本家の目まぐるしい成長をリアルタイムで見届けている。

成馬零一:僕にとってバカリズムは、良くも悪くも今どきの脚本を書く人。これからどうなるか様子を見てから評価したいかな。これがもし宮藤官九郎や古沢良太だったら、何かやってくれるって第1話の時点で確信が持てるんだけど。

上甲:そことは次元が違うというか、比べちゃいけないのでは。

成馬:逆に言うと、そのレベルまで行ってほしい。お笑いからドラマに進出してきたからには、新機軸を見せてほしいし、革命を起こしてほしいんだけど、どうも本人にその気がないんじゃないか。どの作品も“くすぐり芸”というか、かゆいところには手が届くけれど、かきむしって心に傷跡を残す感じにはならないという感じ。

木村:そう言うけれど、彼は「脚本家になるつもりはないし、ずっとコントを書いていく」と言い切っているよね。

小田:もしかして物語作家として自分の中に内包しているテーマはないのかも。

成馬:そうかなぁ? この人は絶対、何かを抱えているはず。現時点ではそれを出さないと決めているだけでは。

木村:そういえば、初期のコントは暗いネタばかりだったね。

成馬:いつかドロドロしたものを出すと思うし、むしろ出して破綻してほしい。「かもしれない女優たち」を見ていても、なんかキレイに収めたなという印象で、物足りない。

小田:確かに、途中までは女優たちのコンプレックスや嫉妬心が面白いんだけど、最後はみんな仲良しでハッピーという結末に。結局きれいごとで終わっちゃうという傾向は、朝ドラ「とと姉ちゃん」('16年NHK総合ほか)の西田征史と共通しているかも。

木村:今はドラマ制作者から来る注文に応えようとしている段階なんだと思うよ。脚本家として首位打者にはなれなくても、手堅く3割は打つというようなポジションになるのかも。

上甲:バカリズムにとって「黒い十人の女」は“課題曲”だと思う。ひょっとしたら野木亜紀子のようにアレンジャーとしての才能があるのでは?

成馬:でも、そんな中でも、バカリズムならではの何かがさく裂していくといい。「『黒い十人の女』でバカリズムは変わった」と言われる作品にしてほしい。

木村:終盤に向けて期待できると思うよ。原作からは、主人公がプロデューサーという設定と9人の愛人がいるという基本的なフォーマットだけを生かしたらしい。きっと終盤に向けて盛り上がるオリジナルのプロットを出しているはず。

上甲:じゃあ、原作とは結末も違うかも?

成馬:今は、テレビがスター脚本家を求めている時期。坂元裕二や野島伸司といった世代が大御所になってしまって、いまや宮藤官九郎あたりが中堅どころ。でも、結局ヒットを飛ばしているのは「真田丸」(NHK総合ほか)の三谷幸喜だったりして、下の世代の脚本家が育っていない。

木村:40代ですら、宮藤、古沢の他にはスターがいない状況だからね。

小田:バカリズムは'75年生まれで、宮藤&古沢とほぼ同世代なのね。ただ、「黒い十人の女」は読売テレビ制作で、最初に「素敵な選TAXI」で連ドラ書かせたのは関西テレビだったので、活躍の場は着実に広がっているはず。

木村:プロデューサーがバカリズムを奮起させるような企画を振れば、彼も本気になるかもしれない。

成馬:テレビ東京の深夜ドラマで「勇者ヨシヒコ」シリーズの福田雄一が台頭したように、新しい才能はそういう実験枠から生まれるものだから。やっぱり印象としては三谷、宮藤が出てきたときと…。

上甲:近い! 脚本家としての才能は抜きん出ている。

小田:むしろ女性描写については、三谷や宮藤より鋭いかも。「黒い十人の女」でも、佐藤仁美や水野美紀が演じる愛人たちがとにかく自分勝手で、女性を容赦なくシビアに描いているけれど、なぜか同性としても嫌な感じがしない。

上甲:そう。ここまで女性の本質をつかまれてしまうとね。その点も期待できるし、やっぱりバカリズムは数字的にももっと評価されるべきだと思います。

[構成・文=小田慶子]

(※注)バカリズム=お笑い芸人。'11年「ウレロ☆未確認少女」(テレビ東京系ほか)で脚本にも参加しはじめ、「素敵な選TAXI」('14年フジテレビ系)で本格的に脚本家デビュー。スペシャルドラマ「かもしれない女優たち」('15年フジテレビ系)、「かもしれない女優たち2016」('16年フジテレビ系)、「桜坂近辺物語」('16年フジテレビ系)でも話題に

〈座談会メンバー〉

●木村隆志:ドラマ解説者。毎月20本強のコラムを執筆。テレビ番組のコメンテーターや芸能人専門のインタビュアーも務める

●成馬零一:ライター、ドラマ評論家として活躍。単著に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある

●小田慶子:ドラマライター。出版社に勤務後、ライターとして活躍。雑誌「LDK」(晋遊舎)やWEBでドラマコラムを連載中

●上甲薫:エンタメライター。テレビ情報誌の記者を経てフリーに。「日経エンタテインメント!」(日経BP社)などで執筆