「パラサイト・シングルの子」に介護される親の“悲劇”

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■パラサイト・シングルの子に介護される親が増加中

「パラサイト・シングルの増加が社会問題として取り上げられるようになってずいぶん経ちますが、介護現場で仕事をしていると、そういう人たちが親の介護をする年齢を迎えていることを実感します」

そう語るのはケアマネージャーのIさんです。在宅介護のサービスを利用する家族にパラサイト・シングルの人が目立つようになったそうなのです。

パラサイト・シングルとは、親と同居する未婚者のこと。

通常、結婚すれば家庭生活を維持するために金銭的負担をはじめとするさまざまな苦労を背負い込むことになります。しかし、結婚せず親との同居を続ければ、そうした苦労を味わうこともなく、働いて稼いだお金のほとんどは自分のために使える。その方が気楽だという人たちです。

また、バブル崩壊後、長く続いた不況期は大量の非正規雇用者を生み出しました。賃金が安く、立場の安定しない非正規雇用では「とても結婚なんかできない」ということでパラサイト・シングルの道を選ばざるを得なかった人も数多くいます。

パラサイト・シングルのくくりには、こうした仕事をしている人とは別に、職に就かず生活のすべてを親に依存している、いわゆるニートも含まれます。学校でいじめに遭ったことがきっかけで引きこもりになり、それが大人になっても続いている、あるいは就職したものの会社の人間関係や仕事に馴染めず退職、心を病んで社会に出られなくなった、といった事情があり親元で暮らしている人たちです。

非正規雇用のため結婚を諦めた人たちと同様、社会の歪みから生み出されたパラサイト・シングルがかなりの数にのぼるわけです。

総務省ではパラサイト・シングルの統計を取っていて、たとえば35〜44歳の「親と同居の壮年未婚者」は300万人超。この働き盛りの年齢層の16.7%(2014年)に当たり、現在も増え続けているそうです。国はこの年齢層を「壮年」とし、パラサイト・シングルの増加を課題としてとらえているわけですが、言うまでもなく、もっと高齢のパラサイト・シングルもいます。そうした人たちが今、親が要介護になる年齢を迎え始めたとIさんはいうのです。

■介護離職した子の生活の支えは「親の年金」

「介護生活はどんな家族でも例外なく大変なものですが、なかでもパラサイト・シングルの人が介護を担う状況は、見ていてつらくなることが多いです」

Iさんの説明によると、こんな状況です。

まず、仕事を持っている人。同居しているわけですから、介護の負担をすべて背負い込むことになります。親元から独立し結婚という苦労が伴うことを避け、気楽に暮らすことを選んだ人にいきなり介護の苦労が押し寄せる。精神的に追い込まれますし、仕事と介護に両立は難しいと受け止め離職する人も少なくありません。

仮に離職すれば当然収入はなくなる。介護生活は親の年金と貯えが頼り。将来の展望が描けない日々が続くことになります。そして介護が終わった時、つまり親を看取った時点で、貯えはほとんどなく、しかも高齢で仕事が見つからない現実に直面して途方に暮れるといったケースが少なくないわけです。

「利用者さんのなかには、そうした不安を切々と語られる方がいますが、聞いていてつらくなりますよね。ただ、この状況になったのは親御さんのために介護を頑張ろうという思いがある。親子の“情”が介在している分、我々も気持ちを汲んで対応できるのですが……。対応の仕様がなく、親御さんがいたたまれない状態になるのが、ニートの方が介護するケースです」

ニートが介護すると何が問題となりやすいのか。

第一の障害として、ニートの人は、ケアマネージャーをはじめ介護サービスを提供する人たちとの接点を持ちたがらないそうです。

「SOSを出す状況にもかかわらず、我々が訪ねて行ってもなかなか家に入れてくれないわけです。社会に対して閉じてしまっているというか……。対人関係が築けないからニートになったのかもしれませんが、介護に関しては、そんなことを気にしている場合じゃないと思うんですけどね」

それでも根気強く説得して接点を持ち、介護サービスの必要性を説明しても、次なるハードルが待ち構えているといいます。お金の問題です。

「親御さんが要介護になると、金銭の管理は子であるニートの人がすることになります。そのお金の使い道は自分優先で、介護サービスをはじめ親のためには極力使いたくないという態度を示すんです。話を聞いて必要と思われるケアプランを作って行っても、こんなサービスはいらないから削れと言われてしまう。結果的に、親御さんは劣悪な状況に置かれることになります」

■「排泄の処理は、2日に1回に減らせ!」

Iさんの経験では次のようなケースがあったといいます。

「親御さんが元気なうちは食事を作ってもらっていたが、要介護になってそれが難しくなった。自分が作る努力をすればよさそうなものですが、そんなことはせず食事は外食かコンビニ弁当。親御さんにはそのついでに買ってきたおにぎりなどを与えるだけなのです。また、そうした食事の心配さえ一切せず、親御さんが不自由な体を引きずるようにして買いに行くケースもありました」

排泄の処理に関しても問題を抱えることがあるようです。

「通常、排泄処理を自分でやろうという人はほとんどおらず訪問介護のホームヘルパーに頼るしかないのですが、その出費が嫌なのでしょう。毎日来なくていい、2日に1回に減らせなどと言われるんです」

Iさんの話を聞いて、ふと疑問を感じました。

さまざまな事情があり他に行き場がなくて今の生活があるのかもしれませんが、同居という状況を受け入れているのだから、どこかに親子の情はあるはずです。収入のない自分の面倒を見てくれた分、せめて介護ぐらいは頑張ろうと思ってもおかしくありません。また、もし、そうした情がなかったとしても、親の存在は自分にとっての命綱です。亡くなったら年金はストップし、今の生活は立ち行かなくなる。それを考えると親には少しでも長生きしてもらった方がいいわけで、しっかり介護をしなければと思うのではないでしょうか。

その疑問にIさんは、こう答えました。

「これはあくまで私が経験した事例であって、ニートの方でも親御さんをいたわる気持ちを持ち、真面目に介護に取り組んでおられる方もたくさんおられるでしょう。しかし、世間の常識とはかけ離れた感覚のまま介護をされる方が増えている危うさを感じますね」

そうした経験からIさんは、「ニートのお子さんと同居している親御さんは、ちゃんとした介護をしてくれる、などと期待しない方がいい」と言います。

「そういう方は元気があるうちに最期まで面倒をみてくれる施設を見つけ、家を売って入所することを考えた方がいいと思います。そうなればお子さんだって、生きるために社会に出ざるを得ないですし、自立するきっかけになるかもしれません。ただ、その決断は難しいかもしれません。ニートの方がいる利用者さんを見ると、親御さんに甘さを感じます。子離れできていないのです」

介護現場で働いている人と話をすると、このような話を聞いてため息をつくことが少なくありません。しかし、相当数いるパラサイト・シングルが親の介護をする年齢を迎えようとしている今、こうした問題が増加することは確実です。

「ただ、介護行政や関係者は、そんな状況を見過ごしているわけではありません。保健所など多職種が連携を取って介護者の精神面のケアを行なうなどの対応をし、そうした悲劇を少なくしようという努力をしていることは解かってください」

(相沢光一=文)