国内で栽培の大麻草はTHCをほとんど含まないが……(shutterstock.com)

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 10月に起きた2つの「大麻騒動」。その顛末を見ていこう――。

高樹沙耶ら3人を大麻所持容疑で逮捕

 まず、高樹沙耶容疑者の医療大麻事件からだ。厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部は、沖縄県石垣市の自宅で乾燥大麻数10gを隠し持っていた元俳優の高樹沙耶(本名・益戸育江)容疑者ほか3人を大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕。大麻の入手ルートなどを調べている。

 自宅から大麻を巻く紙や吸引用パイプが押収され、吸引用パイプを使った形跡があったために、乾燥大麻を使用する目的で所持していたと見られる。押収された乾燥大麻は、「バッズ」と呼ばれる大麻の花穂(かすい)の部分で、葉や茎よりも幻覚作用などが約4倍も強いとされる。

 高樹容疑者は1982年に女優デビュー。2012年に大麻草検証委員会の幹事就任後 、「大麻女優」のスキャンダルで芸能界を引退。今年7月、新党改革から参院選東京選挙区に立候補。医療大麻の研究推進を主張したが、落選した。

 落選後もブログやツイッターで「医療大麻を知ってもらうために、市民運動を続ける。医療大麻は、認知症の予防やアンチエイジングにも役立つ。お酒、たばこ、チョコレートよりも安心・安全で多幸感が得られる」などと書き込んでいた。

鳥取県智頭町が大麻で「町おこし」!?

 次は「大麻で町おこし」事件だ。10月4日、厚生労働省麻薬取締部は、鳥取県智頭町(ちづちょう)で2013年4月に大麻栽培者の許可を受けて「大麻栽培による町おこし」に取り組んでいた「八十八や」の代表上野俊彦容疑者 と従業員2名を、大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕。

 大麻の栽培許可を得た大麻栽培者が大麻取締法違反で摘発されたのは全国初だ。

 上野容疑者は乾燥大麻88gを所持。「他人から譲り受けて吸うために所持していた」と容疑を認めた。上野容疑者が県の栽培許可を得ていたのは、薬理成分をほとんど含まない栽培用大麻だが、逮捕時に所持していた大麻は、栽培用大麻と異なると見られている。

 町おこし支援をしていたものの、会社ぐるみで町を裏切られた寺谷誠一郎町長は、記者会見で「大麻栽培の支援は二度としない!」と怒りを表明し、関係者に非礼を詫びた。

 このような「大麻騒動」は、性懲りなく何度も起きている。なぜだろう? 社会の大麻への誤解と大麻取締法の盲点。この2つの問題点が横たわっているように見える。

認可を受けた大麻栽培者は現在は33名

 まず、日本の大麻栽培の状況を知ろう。

 大麻は、クワ科の一年草で中央アジア原産の植物だ。古代から戦前まで、日本人の生活文化を支える天然素材として全国で栽培され、衣類(麻糸・麻布)、神事(連縄)、漁具(魚網)などに活用されてきた。1934年の全国の栽培面積は約1万ha以上もあった。

 だが、戦後は化学繊維との競合の激化、GHQの意向(アメリカの大麻栽培者の経済権益の保護)を背景に施行された大麻取締法の規制が強まったため、大麻栽培者は激減した。

 2016年現在、都道府県知事から許可を受けている大麻栽培者は33名。栽培面積は約5haにすぎない。最大の栽培地である栃木県のシェアはおよそ50%。繊維を採取する精麻は90%以上が栃木産だ。

 夏場の過酷な収穫作業、加工の労力と高コスト、要求される高い技術などのハンディのため、大麻栽培の後継者不足や担い手の高齢化が進んだ。神事に使われる精麻は年々高騰し、外国産の精麻や化学繊維の模造品に販路を奪われている。

 しかも、追い打ちをかけているのが、社会の大麻への誤解だ。

大麻への誤解と取締法の盲点とは?

 国内で主に栽培されている大麻草(トチギシロ)は、品種改良によって大麻の薬理成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)をほとんど含まないので、薬物乱用につながる恐れはない。栃木県では他の農作物と同様、防護柵などを使わずに栽培されている。これが大麻栽培の実態だ。
 
 「大麻騒動」の背景にあるもう1つの問題点は、大麻取締法の盲点だ。

 1948(昭和23)年に制定された大麻取締法によると、大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。「大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の種子及びその製品を除く」とある。「大麻取扱者」とは、「大麻栽培者」と「大麻研究者」をさす。

 山口政貴弁護士(神楽坂中央法律事務所)によれば、大麻を所持したり、譲渡したりすると、大麻取締法によって5年以下の懲役(営利目的は7年以下)を受ける。ところが、大麻の使用に罰則規定はない。

 つまり、大麻を使う行為は罪にならない。覚せい剤なら、所持、譲渡のほか、使用も10年以下の懲役になる。なぜだろう?

 先述のように、大麻の栽培や利用は、古くから行われてきた。たとえば、七味唐辛子に入っている麻の実は大麻草から採られ、神社にある注連縄は大麻草の茎が原料だ。薬理成分があるのは花や葉なので、大麻草の実や茎には薬理成分はないため、七味唐辛子を食べても健康を害することはない。

 ところが、都道府県知事の免許を受けて繊維や種子を採取し、大麻草を扱う大麻取扱者(大麻栽培者と大麻研究者)は、栽培・研究の過程で微量の花や葉の粉末を吸引する恐れがある。

 しかし、大麻取扱者(大麻栽培者と大麻研究者)の栽培・研究を阻害しないために、あえて「使用」は罰則規定から削除したのだ。

 つまり、「大麻で町おこし」事件のように、大麻取締法は「大麻栽培者の保護」を隠れ蓑にした犯罪に悪用される盲点がある。したがって、今後、大麻の栽培や研究の規制強化が進むかもしれない。
高樹容疑者の逮捕は、医療大麻への誤解につながらないか?

 懸念はまだある。高樹容疑者の医療大麻事件は、医療大麻への誤解が拡散するリスクを指摘する声がある。

 沖縄タイムス(10月26日)よれば、沖縄県の南部病院緩和ケア内科の笹良剛史医師は「世界中で、がん患者への医療用麻薬や医療大麻の処方が推奨され、患者は痛みから解放されている。今回の事件が発端になり、麻薬や大麻への悪いイメージが浸透し、医療用麻薬や医療大麻へのネガティブキャンペーンが起きないかと懸念している」と語り、マスコミは正しい報道をしてほしいと強調している。

 世界を見渡せば、大麻の合法化を進めている国々が少なくないが、合法化には様々な見解や仮説が交錯している。

 しかし、日本の大麻は、大麻取締法によって規制を受ける。THCは麻薬及び向精神薬取締法によって、医療目的であっても使用・輸入・所持は、原則的に禁止されている。

 ただ、2013年に大麻の茎や樹脂から生成したカンナビジオール (CBD) を含むオイルが輸入され、医療効果に期待が集まっているのは事実だ。

 また、東京大学医学部附属病院では、合成カンナビノイドの類似作用をもつテトラサイクリン系のミノサイクリンが、神経障害性疼痛への鎮痛剤として第III相臨床試験を進めている。

 さらに、米国科学誌『Journal of Neuroscience』(6月30日)よると、大阪大学大学院医学系研究科解剖学講座(分子神経科学)の木村文隆准教授らは、大麻の薬理成分であるカンナビノイドの摂取が大脳皮質の神経回路を破綻させ、脳の発達にダメージを与える事実を世界で初めて実証。

 カンナビノイドが脳損傷や認知症の機能回復に臨床応用できる道を開いている。

 「医療大麻の推進」も「大麻で町おこし」も空しく頓挫した。大麻に近づけば近づくほど、底なしの沼のような誘惑に引き込まれる。それが、人間の宿痾なのか、罪業なのか?
(文=編集部)