GL3戦目のカタール戦で先発に抜擢された市丸(17番)は、正確なパス捌きで「縦」にリズムを加味。この試合以降、ボランチで先発出場を続けている。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 今回のU-19アジア選手権で、日本は最も厳しい組と言われたグループリーグを突破し、準々決勝でタジキスタンを破って5大会ぶりのU-20ワールドカップ出場権を獲得した。勢いはとどまることなく、準決勝でベトナムを下し大会初優勝に王手をかけている。

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 久保建英(FC東京U-18)をはじめとする飛びぬけたタレントがいたU-16代表に比べると、前評判は決して高くはなかった。そう考えると、ここまで到達したことはある意味サプライズなのだろう。

 選手個々の成長ぶりも目を見張るものがあるが、なかでもグループリーグの3戦目以降、ボランチの一角に定着したMF市丸瑞希の躍進は、誰もが想像さえしていなかったに違いない。
 
 もともと、攻撃面における技術や戦術眼への評価は高かった。G大阪ユースからトップチームへ昇格した今季はJ1での出番こそないが、J3では主力として19試合に出場(10月28日現在)し、実戦感覚を磨いてきた。
 
 そんな市丸だが、今大会当初の位置づけはボランチの三番手。キャプテンとしてチームを統率する坂井大将(大分)、J1で着々と出場時間を伸ばしてきた神谷優太(湘南)には及ばぬ存在と見られていたのである。
 
 短期決戦となる今大会で、控え組としての行動を余儀なくされた市丸の心境は、端から察することができた。慣れない環境下で、ホテルと練習場を往復する日々。試合への出場が確約されているわけではない状況で、心身ともに疲弊してしまうのも無理はない。トレーニングに励んではいるものの、その表情はどこか冴えなかった。
 
 しかし、転機は突如やってくる。イラン戦で左膝を負傷した神谷に代わって、カタールとのグループリーグ3戦目で先発に抜擢されたのだ。
 
 この一戦で、日本は引き分けでも準々決勝進出が微妙な追い込まれていた。U-20ワールドカップの出場権獲得へ確実に望みをつなげるには勝つしかない――。プレッシャーがかかった重要な一戦だったが、市丸はその起用に見事応えてみせた。
 
 長短使い分けたパスで攻撃を構築し、隙あらばゴール前に侵入し積極的にシュートを放つ。それまでの2試合をベンチから見守っていいたなかで「もっと大胆にリスクを冒していい」と感じていたからこそ体現できたものでもあった。
 市丸のプレーぶりに対し、G大阪で同僚の堂安律は「瑞希くんが入ったことで、前へのリズムが出た」と称賛する。グループリーグ1、2戦を経て、日本の攻撃には「縦」の意識が欠けていた。それを芽生えさせた意味でも、市丸の存在感はひと際光っていた。
 
 カタール戦で急激に評価を高めたこと、さらに、神谷が戦線離脱したため、その後の立場は一転した。先発メンバーを大きく入れ替えたベトナムとの準決勝ではキャプテンマークを巻き、的確なパス捌きと先を読める動きの質で違いを見せながら攻撃を牽引。正確なプレースキックで先制点の起点にもなり、決勝進出を手繰り寄せた。
 
「日本の戦いができれば勝てる」――。選手、監督から口癖のように聞かれるこの言葉は、選手個々が戦況に応じた判断を共有しつつ、各々の持ち味が発揮されなければ意味をなさない。そのなかで、「縦」にリズムを加えられる市丸は、欠かせぬものになろうとしている。
 
取材・文:橋本 啓(サッカーダイジェスト編集部)