柴田大輔『聖域 関東連合の金脈とVIPコネクション』(宝島社)

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 2012年に関東連合メンバーが引き起こした六本木のクラブ「フラワー」襲撃事件から4年。久しぶりに関東連合にまつわる本が出版された。『聖域 関東連合の金脈とVIPコネクション』(宝島社)、著者は「柴田大輔」。おそらくこの名前を聞いたことのある読者はほとんどいないだろう。しかし、それが「工藤明男の本名」だといえば、アウトローに関心のある人なら「え、あの工藤の?」という反応を示すはずだ。

 関東連合をめぐっては、フラワー襲撃事件の少し後に、関係者によるさまざまな本や手記が発表されたが、その先陣を切り、もっとも大きな反響を呼んだのが、「元関東連合幹部・工藤明男」というペンネームで書かれた『いびつな絆 関東連合の真実』(13年7月刊/宝島社)だった。

 同書は、フラワー襲撃事件の首謀者で、現在も国際指名手配中の関東連合元リーダー・見立真一容疑者の歪んだ支配のやり方を批判し、その延長線上に事件が起きたと指摘。他にも、関東連合をめぐる複雑な人間関係や資金作りの手口、暴力団との関係などをこれでもか、というほど詳細に暴露していた。

 そのため、工藤は関東連合元メンバーから「裏切りもの」「仲間を売った」と糾弾され、事件の関係者からも「事件の本質を歪めた」と不満の声があがっていた。とくに、名指しで批判された見立容疑者に近い人間たちの怒りは相当だったようで、一時は報復の動きも噂され、工藤は警察による保護措置の対象となった。

 しかし、そんな状況にもかかわらず、工藤は関東連合に関する発言をやめなかった。14年7月に2作目となる『破戒の連鎖 いびつな絆が生まれた時代』(宝島社)を発表。そしてこの10月27日、前述したように第3弾の著書『聖域』が「柴田大輔」名で出版されたのだ。

 柴田は"S54世代"の関東連合リーダーで、警察からは「関東連合最大の資金源」と目されていた人物だが、ネットでは以前から「工藤明男は柴田だ」との指摘がなされていた。それがとうとう、自ら正体を明かしたというわけだ。

 しかも、内容は前2作よりもさらに踏み込んだものとなっている。例えば、見立容疑者のシノギの実態、関東連合内の金をめぐるトラブル、事件直後のメンバーたちとのやりとり、そして、海外逃亡直前の見立容疑者との会話......。こうした記述を読むと、『いびつな絆』以上のハレーションが起こるのではないかとさえ思えてくる。

 また、本書にはもうひとつ興味深い内容が記されていた。それは関東連合のメンバーたちが実業界や芸能界などに食い込んでいった経緯だ。

 すでに、柴田の前著やさまざまな報道で、関東連合が大王製紙の井川意高元会長などの企業経営者、広末涼子の元夫でモデルの岡沢高宏、伊勢谷友介、長澤まさみなどの芸能人と接点をもっていたこと明らかになっている。

 しかし、本書はこうした関東連合の表の世界への侵食がなぜ可能だったか、その原因について、こう分析している。

〈本来、交わることのなかったはずのエスタブリッシュメントと街の半グレをエマルションさせたのは、実はITだった〉

 関東連合がITというのは意外だが、柴田自身、ある時期からネット広告業に進出して大儲けしていた。広告主は、サラ金業者、出会い系サイト業者、無修正アダルト動画で、柴田によれば、ライブドアやサイバーエージェントも黎明期には同じようにグレーゾーンのビジネスに手を染めていたのだという。

 そして、もともとコンプライアンス意識の低かったITやベンチャー経営者たちが西麻布などで派手に遊ぶようになり、柴田のような関東連合系の経営者と接点をもつようになっていったということらしい。

 たとえば、同書には、楽天の三木谷浩史会長、サイバーエージェントの藤田晋社長、USENの宇野康秀会長、テイクアンドギヴ・ニーズの野尻佳孝会長、GMOインターネットの熊谷正寿会長などの錚々たるIT、ベンチャー長者たちが、当時、脱法行為に近いガールズバーを共同で所有していた話が書かれている。市川海老蔵事件で有名になったバルビゾンビルにあり、国際指名手配中の見立容疑者もしょっちゅう出入りしていたこの店にはプライベートフィルムが貼られたオーナーズルームがあり、IT長者たちは中が見えないその部屋で、夜な夜な女をはべらせ、宴に興じていたというのだ。

 同書には、他にも、堀江貴文と女性をめぐってトラブルになったエピソードや、あのグッドウィル・グループの折口雅博との生々しい交友の記録も出てくる。とくに折口をめぐっては、女子高生の制服など「悪趣味な写真」を収集する折口と、それをネタに多額の金を要求する元関東連合メンバーとの間に入り、柴田自身がスキャンダル潰しをした一部始終も克明に記している。

 まさに関東連合関係者だけでなく、さまざまなジャンルに波紋を投げ掛けそうな一冊だが、それにしても、柴田はなぜ、実名で改めて関東連合を暴露する本を刊行したのか。取材に対し、柴田はこう答えた。

「実名を出さないのは卑怯だと言われるのが癪だからです。すでにネット上でも人間関係でも工藤明男イコール柴田大輔、もしくは元関東連合というのは周知の事実ですからね。『いびつな絆』執筆時は、虚像とも言える肥大化された関東連合のイメージを等身大に伝えることで、フラワー事件における裁判が適正に行われることが目的でした。しかしまだその虚像に取り憑かれているのか悪用しているヤカラがいるので、関東連合ということを語ることすら恥ずかしいという風潮を作りたいと思い、『聖域』を実名で刊行することにしたのです」

 同書でも柴田は、〈幻想に次ぐ幻想で膨れ上がった「関東連合」の虚像を壊したかったのだ。「俺は関東連合だ」などと口にすることが恥ずかしくなるような風潮を作りたかったのだ〉と述べているが、同書は、柴田にとって関東連合やその関係者に対する決別状の意味合いをもっているようだ。

 事実、柴田は本書の刊行を最後に「元関東連合」の肩書きを一切使わないこと宣言しており、「執筆活動に関してはいわゆる関東連合もののノンフィクションは『聖域 関東連合の金脈とVIPコネクション』を最後にします」とも語っている。

 柴田は現在、TORという会社を経営し、『BlackFlower』『不良の花道』といったiOS、Androidアプリゲームの開発・運営をしているというが、今後について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「今後の展望はまず表社会にどうやって復帰するかという最大の課題があって。フィクションを描きたいという願望はありますが、それはもう少し人としての熟成期間が必要だと自分なりに思っています。とにかくここ数年アウトプットする作業が多すぎたのでインプットする充電期間が欲しいですね」

『聖域』の過激な内容を考えると、柴田にインプットのための穏やかな日が訪れるとはあまり思えないのだが...。
(編集部)