(左から)佐野和宏、寺島しのぶ、福間健二監督

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 詩人や映画評論家としても活躍する福間健二監督の最新作「秋の理由」が、10月29日公開する。60代を迎えた作家と編集者という男ふたりの友情、作家の妻との三角関係、そして書けない作家の葛藤を描く。人生の秋を生きる登場人物たちの、年齢を感じさせない情熱と青春の物語だ。福間監督、佐野和宏、寺島しのぶに話を聞いた。

 作家の村岡正夫は、代表作「秋の理由」以降、何年も新作を執筆しておらず、精神的な不調から声が出なくなっていた。長年の友人である宮本守は村岡の才能を信じていたが、同時に村岡の妻である美咲に好意を寄せていた。そんなある日、「秋の理由」を何度も読んだという少女ミク(趣里)が現れる。伊藤洋三郎が編集者の宮本、咽頭ガンで声帯を失った佐野が作家の村岡を、寺島が村岡の妻を演じる。

 原作は、福間監督が2000年に出版した詩集「秋の理由」。劇中では、せりふやミクの朗読として福間の詩が引用され、登場人物が生きる現実と福間のつむぐ言葉の世界が、秋の街並みを美しく切り取った映像の中で行き来する。

 「僕は秋になると何か寂しくなって、詩が書けるんです」という福間監督。映像という形で新たに表現した理由は「秋って寂しいねっていうのをひっくり返してみたいという思いが、まず詩の段階であった。誰かが泣いているから秋が来るわけではない、と。僕の詩は、簡単にはわかってもらえない一方で、誰でも感じられるような唐突な率直さもあると言われます。映画で役者さん、スタッフと一緒にそこにたどりついてみたかった」と語る。

 長年のスランプで、声が出なくなった村岡を、佐野が筆談器をつかって演じる。文字で表現される声なき作家の声は、作家の葛藤と言葉の持つ意味の強さをよりいっそう感じさせる。佐野は、90年代にピンク映画界を代表する監督として活躍するも、2000年代に空白の時期を過ごし、昨年18年ぶりに「バット・オンリー・ラヴ」で映画界に復帰した。「自分自身がなかなか書けない人なので、やりやすかった」と役柄と自身を重ね合わせ、「意味のわからないことも、何か心に残る取っ掛かりが持てるような作品」と評する。

 寺島が演じる美咲は、新作が書けず声が出なくなった夫を、母親のような寛大な愛情で支える一方で、夫の親友から恋心を抱かれるという、大人の女性でなければ演じきれない役柄だ。

 「一読しただけではわからない台本というのは、すごくいいなと思いました。今の映画の世界はなぜか、わかりやすいものを作ってしまいがち。ヨーロッパだと映画を見終わった後、作品について数時間も話ができるような文化がありますが、60代を描く映画なんて、日本にはあまり無いので、そういう大人を描いた映画に参加できるのはとてもうれしかった。こういう映画をゆっくりスクリーンに向き合って見て欲しいです」

 佐野とは筆談でコミュニケーションをとっていたそうだが、「何シーンかやっていくうちに、何をおっしゃってるのか良くわかって、筆談器が必要なくなったんです」という。「本当の夫婦ではないですけれど、何を求めているのかを感じ取れたので、人と人との“気”みたいなもので通じ合えたような気がします」と振り返った。

 インターネットやSNSの普及で手軽に言葉が拡散していく時代に、言葉と真摯に向き合う福間監督。若い世代の観客に、こうメッセージを寄せた。

 「僕の詩は、普通の人が生きていく中で、もしかしたら言いたいけれどちょっとうまく出せない言葉を出しているつもり。映画も普通じゃないことを要所に仕掛けながら、流れは自然になるようにした。村岡に声がない、ということで、言葉とはどういうものなのかを考えていく感じになったかもしれません。人は一人で生きていないのだから、他人のことも考えなさい。でも、一人で生きている自分も大切にしたい。この作品が自分を見つめるきっかけになってくれたら」

 「秋の理由」は、10月29日から新宿K's cinemaほか全国順次公開。