18億詐欺のワルどもに“学ぶ”自尊心の捨て方

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■手口は? わずか2時間半で18億詐欺

今年5月、17の都府県のコンビニATMから、海外の偽造クレジットカードを使って、18億円を超えるお金が一斉に引き出された。それも日曜日の早朝、100人以上が、わずか2時間半という短時間で犯行を行うという類まれな事件であった。

9月末に、兵庫県警と大阪府警により、ATMから20回以上の金を引き出していた男らが逮捕されるなど、徐々に犯人逮捕が進んでいるが、いまだ犯罪組織の全容解明にまでは至っていない。

なぜ、これだけの大規模な犯罪を行うことができたのか。

こうしたカード犯罪のウラには、海外の犯罪組織が関与しているケースが多い。今回もATMに不正カードとして検知されたものに、中国の焼き肉店カードがあったことからも、その関与がうかがえる。

ただし、現金の引き出し役を準備して、海外のクレジットカードが使えるコンビニ店などの場所を的確に指示し、カードのキャッシング枠10万円分から金を何度も引き出させるという用意周到な犯行は、海外の犯罪組織単独ではなしえないものだ。

振り込め詐欺においても、高齢者宅に「あなたのカードが不正に使われています」と嘘の電話をかけて、銀行関連の職員を装った男に訪問させて、キャッシュカードをだまし取り、出し子といわれる存在を使いATMから金を引き出すという手口がある。今回も似たような金を引き出す手口を使っていることから、出し子などのノウハウがいかされているとみて間違いない。

すなわち、今回の事件は海外の犯罪組織と振り込め詐欺や暴力団など国内の反社会的勢力とのつながりによって引き起こされた犯行と考えてよいだろう。ここにあるのは、いわばシナジー効果を利用したものといっていいかもしれない。

ご存知の通り、シナジー効果とは2つ以上のものが互いに作用し合うことで、これまで以上の効果や結果を生み出すという相乗効果のことである。ハッキングしてカード情報を得た組織と、金を引き出すのに卓越したノウハウを持つ組織が手を組んだことにより、これだけの犯罪が行えたといえる。

■頭のいいワルとワルはいかに手の組むのか?

シナジー効果はもちろん、一般のビジネスでも十分に可能なものだ。

企業同士、あるいは社内の部署同士が手を結んで、互いの技術力を組み合わせながら新商品を開発したり、生産性を高めたり、マーケットをうまくシェアしながら売上げを倍増させるという効果を生みだせる。

ただし、烏合の衆が手を組んだからといって、必ずしも効果があるわけではない。

互いにとって一番のウィンウィンの関係になるためには、対極にいるような立場の者同士のスキルを組み合わせた時に、大きな結果が出てくる。たとえば、テレビドラマにもなった小説『下町ロケット』のような町工場の老練な技術と宇宙開発や海底探査機開発などの最先端科学との共同開発は、その好例といえるだろう。

そのために、まず自らの強みと弱みを知る必要がある。

よく用いられるのがSWOTによる分析の方法だ。SWOTは、

「Strengths」の強み(S)
「Weaknesses」の弱み(W)
「Opportunities」の機会(O)
「Threats」の脅威(T)

の頭文字をとった言葉で、上記4つの範疇を使ったマトリックスを使って分析する。

そして自らにある強みを知り、それを生かし、弱い部分を把握して、どう克服するか考える。さらに、外的な要素である機会を考えて、今後、訪れるであろう脅威をどう排除していくべきなのかを考えることで、新たな戦略を立てられる。

今回の18億のATM詐欺事件をSWOT分析にかけると、その巧さがみてとれる。

日本の犯罪集団の「強み」は、なんといっても振り込め詐欺に見られるような現金引き出しのノウハウだ。そして一気に金を引き出せるだけでなく、人集めのノウハウも持っている。しかし、クレジットカードの偽造知識は乏しい。こうしたカード犯罪を行うのは、もっぱら海外犯罪組織である。そうした弱みを克服するために、日本の犯罪組織は、海外組織と手を組んだ。

さらに報道によると、カード犯罪に長けた者たちは、出し子らがお金を引き出す間、南アフリカ銀行のシステムにハッキングして、システムの誤作動を引き起こさせ、しかも引き出す際の暗証番号も同じものになっていたという。このような行動は日本の振り込め詐欺の出し子にはできないテクニックだ。

機会という点をみれば、日本はセキュリティの強いICカードではなく、脆弱性のある磁気カードの使用が一般的である。IC化されていない、今の日本では犯行をしやすい。しかも、東京オリンピックを迎えて、海外カードを使うためのインフラも整備されてきており、タイミングがベストだと判断したのだろう。

ワルたちにとっての脅威は、多額の現金を引き出すと犯行がばれて逮捕されてしまうところだ。そこで、日曜日の朝という人の少ない時間帯を狙い、短時間で犯行を行う計画を立てた。

■ワルに学ぶ、儲かる「プライドの捨て方」

逆の立場から見れば、海外の組織は、大人数を集めて現金を引き出させ、お金を持ち逃げされることなくしっかりと金を回収するといった、統率のとれた組織的手法を持ち合わせてはいない。ハッキングなどを行うグループと実行犯、まったく違ったスキルをもつ者が連携した結果の犯罪であるといえる。犯罪集団はお金をだまし取るという共通した目標が一致すれば、体面など気にせずに手を組み合う。

一般のビジネスにおいても、SWOT分析を通じて、自社の販売商品の強みを把握しつつ弱みがあれば、それを克服する方策を検討することが基本だろう。もしその方策が自社内では対応できないものだとすれば、他社との連携を模索することで、シナジー効果を狙うという戦略を取るべきだ。しかし時に、(人の手を借りるといった)体裁の悪さが壁となるかもしれないが、そこは、たとえ相手がライバル会社や下請け会社であっても、プライドを捨てて組むことで、大きな結果が生まれる。

ビジネスパーソン個人においても、同様である。相手が「自分にないものを持っている」と思えば、自尊心などかなぐり捨てて、謙虚に耳を傾ける。それにより、自らをより高い位置にステップアップさせることを期待できる。

組織であれ、個人であれ、プライド・体裁といった壁を乗り越えた先にこそ、シナジー効果を生み出す鍵があるといえる。

(ルポライター 多田文明=文)