ドイツの家電展示会「IFA 2016」に展示されたGalaxy Note7

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 韓国サムスン電子の最新スマートフォン(スマホ)「Galaxy Note7」が、世界を揺るがしている。8月の発売後、世界各国で発火・爆発問題が続発し、10月には製造中止へと追い込まれた。その後も航空機内への持ち込み禁止や部品メーカーへの補償、関西空港での発煙騒ぎ、日本国内での発売中止など、話題には事欠かない状況だ。

 スマホ世界シェア1位を独走するサムスンにとって、これまでにない試練となったNote7問題。改めて振り返ってみたい。

●リコールによるバッテリー交換では解決せず、製造終了へ

 10月19日、冬モデル発表会を開催したNTTドコモは、「Note7をラインアップに加える予定だったが、発火などの問題があり、取り下げた。サムスン電子からも発売を見送りたいとの話があった」とコメント。Note7の国内発売を断念したことを認めた。

 Note7がここまで大きく注目される理由は、どこにあるのだろうか。一連の問題は、大きく2つの段階に分けられる。まずは、発火・爆発に至る重大な問題を出荷前に発見できず、市場に出荷してしまったことだ。

 実は、スマホなど多くの電子機器が利用するリチウムイオン電池は、絶対に安全なものとはいえない。動作保証された充電器を使い、正しく制御しなければ異常発熱や発火に至ってもおかしくない性質がある。だがNote7では通常利用中でも発火しており、発売から短期間で多数の事故が起きたことが特異な点だ。

 もしサムスンが原因を正しく解明し、最初のリコールで問題を解決していれば、騒ぎはここまで大きくならなかったはずだ。だが、サムスンが原因として発表したサムスン子会社製のバッテリーを交換しても、Note7からの発火は収まらなかった。

 真の原因はどこにあったのか。充電を制御する基板や、スマホの構造設計に問題があった可能性も指摘されている。いずれにしても、サムスンが販売再開を急ぎすぎた感は否めない。10月11日、サムスンはNote7の製造と販売を終了することを発表した。

●Note7問題でサムスンの損失は数千億円規模に

 こうして製品としての寿命が断たれたNote7だが、韓国では回収に応じず使い続けるユーザーが多いとの報道もあり、当面この問題は収束しそうにない。2016年内にも世界で1400万台の出荷が見込まれていた大型商品だけに、その影響範囲は各国にも及んでいる。

 日本国内では大手キャリアの冬モデルにも影響が及んだ。発売見送りを明らかにしたNTTドコモに加え、KDDIも冬モデルとしてNote7の発売準備を進めてきたとされる。夏モデルのGalaxy S7 edgeの販売は好調としているものの、国内でようやく人気が上向いてきたGalaxyブランドのイメージダウンは免れない。

 各国の航空会社は、機内アナウンスでNote7の電源を切るよう求めてきた。さらに10月には米国で機内への持ち込み自体が全面的に禁止され、日本の国土交通省もこれに準ずる措置をとった。これにより海外旅行からNote7を持ち帰れなくなったユーザーが続出、サムスンは韓国や米国などの空港に専用カウンターを設け、Note7の交換に応じるという。

 また、サムスンが展開する交換・返金プログラムでは、Note7本体だけでなくアクセサリーも対象になる。さらにNote7に向けて部品や材料を供給する70社以上のメーカーに対しても、部品の在庫などについて全額補償することを発表している。

 一連の問題でサムスンが被る損失の全体像も見えてきた。サムスンは16年度第3四半期の営業利益見通しを23億ドル(1ドル104円換算で2400億円)引き下げたが、Note7に関する損失は50億ドル(同5200億円)以上、ブランド全体での機会損失は100億ドル(同1兆400億円)相当との試算も出ている。

 ここまで大きな機会損失が見込まれる理由は、世界のスマホ市場でサムスンが依然としてシェア1位をキープしているためだ。1万円台の格安機からハイエンドまで、サムスンはあらゆる価格帯にラインアップを展開する。また、テレビや生活家電などの分野でもサムスンはトップシェアを占めており、ブランド価値の毀損は影響範囲が大きい。

 他のスマホメーカーも楽観してはいられない。たしかにNote7ユーザーの一部は米アップル製iPhone 7 Plusなど他社製品に乗り換えると予想されている。だが、最近ではバッテリーの急速充電がブームになっており、いかに短時間で充電するか各社がしのぎを削っているのだ。

 スマホ市場でシェア1位のサムスンには、スマホの設計や製造にトップクラスのノウハウがあるとみる関係者は多い。つまり先頭を走るサムスンに起きた問題に、他のメーカーも遅かれ早かれ直面する可能性がある。サムスンには多少時間をかけてでも、問題の原因を正確に特定し、公表することを求めたい。
(文=山口健太/ITジャーナリスト)