「喜びの涙を流してもらいたい」と語る吉田康弘監督

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娘が10歳のときに亡くなった母から、毎年届く“バースデーカード”を通して、親子の絆や深い愛を描いた作品・映画「バースデーカード」が10月22日に公開された。

【写真を見る】「バースデーカード」に出演した橋本愛(写真左)と宮崎あおい(写真右)/(C)2016「バースデーカード」製作委員会

今回、本作の監督・脚本を務めた吉田康弘氏にインタビューを行い、作品に込めた思いや、出演した橋本愛、宮崎あおいとの撮影秘話などを語ってもらった。

――今回の映画ができるまでを教えてください。

今回の作品は、悲しい涙を流す映画ではなく、喜びの涙を流してもらいたいという気持ちで作りました。なのでユーモアもあり、悲しい方向ではなく前向きな気持ちになるよう心掛けました。なので、芳恵(宮崎)が亡くなる瞬間とか葬式のシーンは省いて、亡くなっても芳恵が紀子(橋本)のすぐ隣にいるような、母と娘が共に生きていくというのがコンセプトです。

――残された家族の描き方として、気を付けたところはどんなところですか?

子供の成長物語にしたかったので、紀子自身の新しい生活が始まって、彼女の成長を見せるということを気を付けました。手紙がきて、手紙に感動しましたという話で終わってしまうのではなく、手紙をふまえて紀子がどう成長していくかを見せるのかが大事だと思いました。

――どういったところで紀子の成長を表現できたと思いますか?

紀子が一度、手紙を見ないという場面があるんですが、あそこは橋本愛さんの言葉をヒントに生まれたシーンなんです。台本の感想を聞きに行ったとき、「紀子がすごくいい子過ぎるんじゃないですか?」と言われたんです。健全な女の子なら、成長していくにしたがって、お母さんに反抗したくなる気持ちは当然あるはずという同性ならではの意見をいただいて、普通の親子のように、お母さんのことを疎ましく思って、拒否するくだりを考えてみようかなと思ったんです。

――台本をそこで変えられたのですか?

すぐ変えました(笑)。オリジナルストーリーだから、どこでどう変えてもいいので、それが一番の強みでもあります。現場でもどんどん変えますし。重要だと思っていた台本のセリフを、現場で無くしたこともあります。

――無くしたセリフというのは、どのシーンのどんなセリフでしたか?

20歳の手紙を読み終えた紀子が、「ママずるいよ。手紙は一方通行だから、私の思いを伝えられない」というセリフがあったんですが、手紙を読んでいるシーンを撮っていたら、愛さんの芝居が、この手紙を読めたことによってスッキリした表情に見えたんです。台本では涙があふれて、お母さんにありがとうと自分も言いたいのに、もう届かないという流れの中のセリフだったんですけど、そのセリフに違和感が出たんです。それで、その場で家族と一緒に星を見るだけのシーンに変えてしまいました。

――今回、紀子を演じた橋本愛さんの印象を教えてください。

もちろん芝居のうまさは間違いないですし、彼女は今までも難しい役どころが多かったと思うんです。でもこの役は普通の女の子の役なので、彼女が等身大の女の子をやれば、新鮮なんじゃないかなという思いがありました。実際に撮影して、親近感のわく無邪気な顔とか、彼女の新しい魅力を引き出す映画になったんじゃないかと思います。

――橋本さんは、紀子の子役の芝居をそばで見ていたという話をうかがいました。

子役の芝居を見るというより、宮崎あおいさんの顔を見たかったと言っていました。自分が大人になった紀子を演じるとき、お母さんのことを思い出して恋人に語るシーンで、お母さんの具体的な顔とか、言葉とかを自分の記憶の中にちゃんと持っていたかったそうです。

――母・芳恵役の宮崎あおいさんの印象はいかがでしたか?

まだ母親役がそこまで定着していない中で、新鮮なキャスティングになるんじゃないかという思いでした。透明感と優しさと強さがあり、適役だと思いました。実際、子役とのお芝居見ていたら、あふれんばかりの母性で、スクリーン端々からこの子が大事なんだっていうことを全身で表現してくれていました。言葉だけじゃなくて、手を握る手元とか、思わず撮りたくなりましたね。

――確かに、手を握ったり、“手”のシーンがとても印象的でした。

手縫いの編み物もアイテムとして出てくるし、お母さんの手というのがポイントでした。手紙も手で書いているし、手触りとかぬくもりというのを大事にしたかったんです。手を握るところや、紀子が手紙を受け取ったとき、触りたいという気持ちで文字をさすったりとか、そういうこまやかな表現ができたところが気に入っている一つですね。

――作品の中で登場するバースデーカードは、どなたが書かれたものなのでしょうか。

美術部の中で、字のオーディションしました(笑)。なおかつ選ばれた人にも、何度も何度も書き直してもらいました。「まだこの字には母性が足りない」「ここははねるところが雑だよ」とか。「会議室じゃなくて、太陽が出ているポカポカとして日なたで書いてごらん」って言ったりして、本当に芳恵の気持ちになって書いてもらいましたね。

――メールやSNSが当たり前の世の中で、手書きの手紙を届けるというのはポイントでしょうか?

文字は表現がすごく豊かで、見ただけで書いた人の顔が浮かぶんです。「ママの字だ」っていうセリフがあるんですけど、文字を一瞬見ただけで、お母さんの顔がパッと浮かぶ。それは携帯のメールの文字を見ただけでは浮かばないんですよね。芳恵は紀子が年頃になって読んでいくことをすごく豊かに想像を働かせて書いています。手紙で気持ちを伝えることはとても大きいことなんだなって、この映画を作って改めて思いました。

――監督自身も、よくご家族とかに手紙は描かれるんですか?

そうですね、これから書きます(笑)。見た瞬間、相手が強く受け止めることができるのは手で書いた手紙なんだと思います。これから“バースデーカード”を書いてくれる人が増えてくれたらいいですよね。