F1第18戦・アメリカGPでの5位フィニッシュ――。これは、マクラーレン・ホンダが発足した2015年からの2年間で最高位タイとなる結果だ。さらに、フェルナンド・アロンソは終盤にウイリアムズとトロロッソをコース上で抜き去って、このポジションを手に入れた。

 しかし、レース後のアロンソは厳しい表情を見せた。

「結果には満足だけど、ペースには満足していないよ」

 喜びのコメントを期待していたレポーターたちに対して、アロンソはそう言い切った。

「最後はタイヤ戦略の違いで5位を獲得することができたけど、レッドブルやフェラーリのリタイアがあっての5位だ。今週末はずっとペース不足に苦しんできたし、実際のところレースでもペース自体はそんなによくはなかった。だから、タフなレースだったよ。その理由をきちんと分析し、理解しなければならないと思う」

 アロンソが目の前の結果に浮かれることなく現実を見ようと言ったのは、チームに対してのメッセージだった。もちろん、2週間前の鈴鹿での大惨敗を忘れるな、という意味だ。

 ホンダの地元・日本GPでマシンの性能不足を突きつけられたマクラーレン・ホンダは、事態を重く見て「ビッグミーティング」を開き、その分析と原因究明のために徹底的な話し合いを行なった。日本GP後に栃木県のHRD Sakuraに立ち寄って来季に向けた技術ミーティングを行なう予定だったマクラーレン側の上級エンジニアたちも、その予定をキャンセルして急きょイギリスの本拠地へと戻ったほどだ。

 パワー不足ゆえのストレートの遅さ、空力性能不足ゆえの高速コーナーの遅さ、そして脚回りのしなやかさを欠くがゆえのトラクション不足――。今まで目を背けてきたMP4-31が抱える問題に、ようやく正面から向き合うことになったのだ。

「ようやく今ごろになってというのは遅すぎるかもしれない。でも、来年のマシン開発を考えれば手遅れではないからまだマシだった」

 あるチーム関係者はそう語る。

 問題はマクラーレンがシミュレーションで算出したものが、コース上での実走できちんと再現されないことだという。そのシミュレーションをもとにセットアップを用意してくるが、マシン挙動が不安定でセットアップ変更に追われることになる。ラップタイムも想定どおりに出ない。鈴鹿を例に取れば、シミュレーションで算出していたラップタイムよりも1秒から2秒も遅いタイムでしか走ることができなかったという。

 つまり、車体のシミュレーションモデルと実走の相関関係に致命的なズレを抱えているのだ。どんなシミュレーションにも現実との誤差というものは存在するが、多くのチームは経験とデータ収集に基づいてその誤差をコラレーション(誤差修正)して運用している。マクラーレンはそれがまだ完璧ではなく、鈴鹿ではそのズレがより大きく出てしまったというわけだ。

「実際のパフォーマンスが想定していたよりも低かったんだ。サーキットが求めるものが、まさに僕らマシンの弱点と言える部分だった。パワー不足もそうだし、空力面のある部分だ。他チームと同じレベルのパフォーマンスを発揮することができないタイプのコーナーがあり、鈴鹿ではそれが多かった。日本GPの後、ファクトリーでは徹底的に鈴鹿でのパフォーマンスの分析が行なわれた。このクルマの長所と短所をしっかりと把握し、このクルマで学んだことをもとに来年のマシン開発に生かさなければならない」(アロンソ)

 マクラーレンはカメラやセンサーなど数々の計測機器をアメリカGPの開催地オースティンに持ち込み、金曜日のフリー走行では2台のマシンを使ってさまざまなデータ収集を行なった。2台でサスペンションを柔らかめと硬めに大きく振り分けて比較してみたり、フロービズという揮発性ペイントによる気流の確認や、カメラによる空力パーツやタイヤのたわみの計測など、そのプログラムはとにかく多岐にわたった。鈴鹿で突きつけられた問題点を、改めて確認するためだ。

 アメリカGPの金曜フリー走行は、完全にテストセッションと化していたのだ。

 それはアメリカGP以降の結果を良くするためのものというよりも、来季型マシン開発の方向性を誤らないための再確認作業のようなものだ。シーズンの残りが4戦を切った10月を迎えてからやるようなことではないが、その過ちを見過ごしたまま2017年型マシンを完成させてしまうよりはずっとマシだった。

 金曜のデータを分析しながら臨んだ予選では、12位と19位。ジェンソン・バトンはソフトタイヤでQ1を突破できるだろうという判断ミスを犯し、慌ててスーパーソフトに履き替えて2回目のアタックに出たが、渋滞の真っ只中でアタックすることになり、Q1敗退を余儀なくされた。アロンソはQ2に進んだが、フォースインディアだけでなくウイリアムズ、トロロッソを上回る速さはなかった。

「今回セットアップの方向性を(従来とは違う方向に)振ったのは事実で、それはうまくいったけど、がんばってもこれが実力なのか、(セットアップ変更のせいで)悪い方向に行ってしまったのか、今の段階ではまだよくわかりません」(ホンダ長谷川祐介F1総責任者)

 苦しいポジションからの決勝レースとなったが、スタート直後の混乱をうまくぬって1周目の時点で9位・11位へと順位を上げたことが大きかった。

 アロンソが語ったとおり、ペース自体はそれほどよかったわけではない。1回目のピットストップでは遅いルノーやザウバーの後ろに戻ってしまい、「なんて災難だ!」とアロンソがチームの判断を避難するように叫ぶ場面もあった。

 しかし、2回目のピットストップをしようとした矢先にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)のリタイアでVSC(バーチャルセーフティカー)導入となり、このスロー走行の間にピットインを済ませたことで大きな得をした。

 それでも、マシンを接触させながらもフェリペ・マッサ(ウイリアムズ)のインに飛び込んで抜き去り、自分より柔らかいタイヤのグリップ低下に苦しむカルロス・サインツ(トロロッソ)も冷静に抜き去って5位をもぎ取ったのは、アロンソの腕によるところが大きかった。

 ピットガレージのスタッフは喜び大騒ぎだったというが、長谷川総責任者は冷静に状況を見て、アロンソの巧みさに舌を巻いていた。

「実はレースの早い段階でジェンソンより1秒くらい速いペースで走っていましたから、今井弘エンジニアは、『これではちょっとタイヤが厳しい』と言っていて、『あんまりプッシュするとタイヤが保たないからプッシュすべきじゃない』という話が出ていたんです。でも、最終的にはアンドレア・ステラ(チーフエンジニア)が、『残り何周だよということだけ伝えて、あとはフェルナンドに任せよう』と決めたんです。正直言って、今日はドライバーに尽きます」

 鈴鹿での大敗は、MP4-31の弱点が特に強調されるコース特性であるがゆえのものだった、という結論に落ち着いたようだ。しかし、空力・メカニカル・パワーという3大要素のすべてを高いレベルで求める鈴鹿で遅いというのは、F1マシンとして失格の烙印を押されたに等しい。コース特性の異なる場所で好成績を収めたからといって、そのことを忘れてはいけない。

 だからこそ、アロンソは「結果には満足だけど、ペースには満足していない」と語ったのだ。

 今、マクラーレン・ホンダが見詰めるべきは目の前の結果ではなく、2017年という新たな挑戦へ向けた基礎の固め直しなのだから。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki