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●全世界120カ国から1万7000人が参加
米IBMコーポレーションは、2016年10月24日〜27日(現地時間)の4日間、米ネバダ州ラスベガスのMandalay Bay HotelおよびT-Mobile Arenaにおいて、「IBM World of Watson 2016」を開催した。

「IBM World of Watson」は昨年までの「World of Watson」と「Insight」を融合。略称を「WoW」呼ぶ。全世界120カ国から1万7000人が参加。ライブストリーミングで数1000人が視聴したという。

「約1年前に、ブルックリンで第1回目のIBM World of Watsonを開催したが、1000人強が参加する会議だった。それが、わずか1年で、約2万人が参加するものになった」と、米IBM コグニティブソリューションリサーチ担当のJohn Kelly ? シニアバイスプレジデントは語る。

今回のイベントでは、コグニティブビジネスを実現するために必要な要件を、それぞれの業界の専門家から学ぶ「Transforming Industries」、最新のデータサイエンスや先進 アナリティクスを活用して これまでにない洞察を導き出す「Monetizing Data」、コグニティブテクノロジーやAI、機械学習によって、経営や人事、ITなどのプロフェッショナルが持つ専門能力をより高める「Reimagining Professionals」、アナリティクスやインテリジェントな APIの利用により、画期的なイノベーションを起こし、顧客に対してコグニティブな体験を提供する「Redefining Development」の4つのテーマから、データ、アナリティクス、そしてWatsonがどのように業務を変革し、コグニティブビジネスを実現するのかを具体的事例を通じて紹介するイベントとなった。

開催2日目となった10月25日の基調講演に登壇したIBMのKellyシニアバイスプレジデントは、自らをWatsonのゴッドファーザーと名乗り、2007年8月に、Watsonの研究開発がスタートした当時を振り返ってみせた。

「2007年8月に、少人数の人工知能の研究者が、IBMの研究所にやってきて、コグニティブコンピューティングを開発したいと言った。だが、50年も、60年も、第一線の研究者たちが挑んだものの、すべて失敗に終わっている。なぜ、それがうまく行くのか。彼らの言い分は、巨大な量の非構造化データを取り扱うシステムであり、いままでにない人とのインタフェースの手法を採用するものだという。この提案をどう判断するのか。ラスベガスのカジノで、すべての資金をひとつの数字に賭けるようなものだ。だが、彼らの言っていることは正しいと思い、そこに賭けることにした」と、その当時を振り返る。

それから5年を経過した2011年2月14日、Watsonは、人気クイズ番組「Jeopardy!」において、クイズチャンピオン2人を破ってみせた。

「クイズ番組で勝つのが目的ではなく、コンピューティングの新時代の幕開けを示すものであり、意思決定を支援し、それによって世界を変えていくことができることを示すものだった」とする。

当時から、Watsonはヘルスケアでの応用、金融機関での応用などを視野に入れていたという。

「それから5年を経過してどうなったか。Watsonは、わずか5年でクイズ番組に挑む立場から、人類の課題を解決する役割を果たすようになった。世界中で勉強を行い、あらゆるところで活用されるようになっている。癌の専門医を支援するといったことも行っている。この進化は驚くべきものである。私は、ムーアの法則をはじめ、驚くべき進化の経験を繰り返してきたが、それでもWatsonの進化には驚く。すでに、多くの場所で使われており、意思決定の品質を上げ、企業活動を支援している」と語る。

そして、「今後、Watsonはどう進化するのか」とKelly シニアバイスプレジデント。これまで予言することを避けてきたというKelly シニアバイスプレジデントが、あえてそれに触れた。

「3年後、5年後にWatsonは、何をするのか。医療に従事しているすべての関係者がWatsonを使いたいと思うことになるだろう。また、Watsonは、あらゆる企業のプロファイルを持っていることから、企業の買収案件の意思決定のためにWatsonを使わない会社はなくなるだろう。では、10年後、15年後はどうなるのか。これは難しい質問だが、テクノロジーのペースが加速し、特定の領域においてはWatsonが推論し、未来を予測できるようになるかもしれない。たとえば、ヘルスケアでは、診断および治療のデータから、糖尿病を予測できるようになるだろう。数週間先に、人間に起こり得る病気はどんなことかといったことも予測できるようになる。また、自然災害を予測するといったことも可能になるかもしれない。また、すでに新たなレシピを考えたり、新たな曲を作っているという例からもわかるように、クリエイティブな領域にも踏み出していくことになるだろう。Watsonが人間と協力する形で、より良い意思決定を支援することになる。Watsonによって仕事の仕方をどう変えていくのか、業界を破壊するにはどうするのか、ということを多くの人が考えてほしい」とした。

一方、IBM アナリティクス担当のBob Piccianoシニアバイスプレジデントは、「Watsonは、インサイトエコノミー(洞察を活用した経済活動)におけるターボチャージャーになる。ダークデータを光で灯すことができるものであり、CEOやHR、営業/マーケティング部門、開発者、データアナリティストなどの、すべての人の仕事を変えることができる。データを活用して変革することができる」などと発言。

「2年前に発表したWatson Analyticsは、データの専門家だけでなく、現場のユーザーが利用できるものであり、すでに200万人が利用している。アナリティクスの民主化を目指したもので、市民の分析者が活用できるようになった」とした。

また、IBM Cloud担当であるRoert LeBlanc シニアバイスプレジデントは、「多くの人が求めているのは、コストやスピードだけのクラウドではなく、高い価値を提供できるクラウド。IBM Cloudは、コグニティブ時代を意識したクラウドサービスだ。Watsonによって新たなインサイトを提供することができ、課題を解決できる」と語ったほか、IBM Watson Internet of Things担当のHarriet Green ゼネラルマネージャーは、「IoTにおいてもWatsonは重要である。IBMはIoTに5億ドルを投資しており、Watsonとの組み合わせによって実現されるコグニティブIoTは世の中を変えるものとなる。すでに、新たな製造体制の構築や新たなサービスの提供、デザインの仕方の変化などにおいて実績がある」などとした。

●目玉のIBM Watson Data Platformを発表
今回のIBM World of Watson 2016では、IBM Watson Data Platformの発表が目玉となった。

IBM Watson Data Platformは、データ専門家向けに提供する世界最速のデータ処理エンジンにより、企業の意思決定を可能にするプラットフォーム。データセットを使った連携が可能で、好みの言語、サービス、ツールを適用できるため、データサイエンティストやデータエンジニア、ビジネスアナリスト、開発者などが高レベルで連携し、企業全体での洞察を簡単に視覚化および共有できるようになる。

具体的には、最速のデータ処理エンジンを活用し、様々なソースから提供される大量で、多様なデータを処理できるほか、データのクレンジング、編集、形成によって簡素化されたモデリングの提供、バージョン管理の保守時において、共同研究者の追加や削除の適宜実行、生産性と時間管理の向上を目的としたサービスの提供、アナリティックノートブックへのドラッグ&ドロップなどを提供する。

また、IBM Watson Machine Learning Serviceの提供により、機械学習を簡単に実行できる点も大きな特徴だ。Watson Machine Learningは、Apache Spark上に構築されており、データをもとに、モデルを自動構築。ニーズに合った提案が行われ、そのモデルをビジネス業務へと展開できる。

米IBMのPicciano シニアバイスプレジデントは、「IBM Watson Data Platformは、データアナリティクスの新たな力になるもので、AIによる意思決定をコグニティブサービスに内蔵して提供。今後、データとのかかわりあい方が変わり、情報を価値のあるものに変えることができる革命的なものになる。複数のプロフェッショナルがセルフサービスデータとアナリティクスプラットフォームの間でコラボレーションできる。また、オープンソースを活用しているため、幅広いパートナーと連携したソリューションを提供できる。新たなレベルで、インサイトエコノミーを提供できる。クラウドファーストのサービスであり、組織のサイロを崩すことができるものにもなる。データをアクションにつなげることができ、チーム全体が利用でき、より競争力を高めることができる。データに対して、シンプルにアクセスしやすくなる」としたほか、「データ専門家は、機械学習をビジネスに活用する技能と、データセット上で効率よく連携させる能力に欠けている。最大の課題は、データに対して機械学習を有効化できるかどうかという点。Watson Machine Learning Serviceは、機械学習の民主化が進むものであり、データをビジネスユーザーの手に届けることができ、様々な用途で利用できる」と述べた。

2017年には、欧州のGDPR(一般データ保護規制)にも対応することにも言及した。

さらに、米IBMでは、Watsonを活用する新しいコグニティブサービスとして、クラウドビデオテクノロジーを提供。人手による処理が一般化しているため、困難で時間がかかるビデオコンテンツの分析を自動化できるのが特徴。SNSへの投稿を分析して、ほぼリアルタイムで反応を追跡できる。

デジタルビデオでは、80%を超えるデータが構造化されていないため処理が難しく、洞察についてほとんど手つかずのまま。「IBMのコグニティブ機能とクラウド機能を使用して、企業が持つビデオデータから、個別の視聴者に対して意味のある情報を発掘し、特定の顧客向けにカスタマイズしたコンテンツを作成して届けることができるようになる大きな一歩」としている。

また、IBMは、視聴者の嗜好や感情に関するより深い洞察を提供できるように、IBMのコグニティブテクノロジーをIBM Cloud Videoプラットフォームと統合することも計画しているという。

さらに、Watson Virtual Agentも発表した。企業の顧客対応力向上という観点から開発されたもので、顧客の問い合わせに対する迅速な対応と、潜在的な問題を迅速に解決することが可能になるという。会話エージェントを簡単に作成して展開できることから、ユーザーは、事前に訓練した業界間共通のコンテンツを最小限の構成で実現。ボットをより迅速に展開できるようになる。

また、The Weather Channelが、IBM Watsonを活用した Facebookメッセンジャー向けボットサービスの提供を開始すると発表。Watsonの自然言語分類(Natural Language Classifier)やAlchemyLanguage APIなどの機能を活用し、ユーザーの好みを学習し、個人に合わせて気象に関するニュースや予報などを提供するという。ボットは39言語に対応しているという。さらに、The Weather ChannelではWatson Adsも提供。Watsonの機能を利用しながら、個人が企業と対話をしながら、最適な情報を得ることができるサービスとなる。たとえば、「大雪に備えるにはどんな準備が必要か」、「いま、どんなアレルゲンが浮遊しているのか」といったことを問いかければ、最適な回答を得られる。すでにトヨタ、ユニリーバ、キャンベルなどが採用しており、「次の大きなフロンティアになるものであり、1対1とのパーソナルな関係を提供するサービス」(ウェザーカンパニーのCameron Clayton CEO)とした。

そのほか、新たなIBM DB2において、Linux、UNIX、Windowsおよびz/OSで使用可能なハイブリッドトランザクション分析処理(HTAP)を組み込む予定であることも発表。「IBMは、顧客との対話の点でリアルタイムの洞察を提供することにより、それらのデータからより多くの価値を生み出すことができるようになる」(米IBMのPiccianoシニアバイスプレジデント)とした。

(大河原克行)