新興国生まれの医療機器が日本の医療費を削減する?[医療トリビアpart.7]

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長寿を誇る日本だが、一方で3分診療、介護難民、破綻寸前の医療財政など課題は山積み。誰もが長い人生を健康で送るために、進行中のプロジェクトを紹介する。Part.7では新興国で開発された医療機器を紹介する。
日々、進化を続ける最先端の医療。しかし、経済的な理由から、その恩恵に授かれるのは世界の全人口のわずか2割に満たないと言われている。

中島清一特任教授は、大阪大学消化器外科で内視鏡手術の第一人者として治療にあたる傍ら、同国際医工情報センター(次世代内視鏡治療学)でさまざまな医療機器の開発を進めている。

「現在、手術や検査で医師が使う機器の多くは、極めて高性能ですが、スペックが高過ぎて多くの医師は使いこなせていません。また値段が高く、メンテナンスや付帯設備も必要です。発展途上の新興国では、そのことが導入を妨げる高いハードルになっているのが現状です」

そうした医療の世界的不均衡を正し、医療技術発展の成果を先進国の患者にも還元するべきだー。中島教授は2015年、国内医療機器メーカー等とともに「UHC機器開発協議会(通称HEART)」を設立。「医療機器のリバース・イノベーション」を推進している。
 
リバース・イノベーションとは「新興国で生まれた技術革新を、先進国に逆輸入することで世界に普及させる」ことを指す産業界で注目のイノベーション理論だ。
 
その好例が、GEヘルスケアがインドで開発した携帯型の心電計だ。小型・防塵・充電式のタフな設計で、印字紙には既存のレシート用紙を利用。価格を従来品よりかなり低く抑えた。この製品は、電気供給が不安定な農村部の医師らに歓迎され、あっという間に普及した。それだけではない。悪条件でも使えるため、米国でドクターヘリに導入され、日本では東日本大震災時に活用された。

「今後、世界の医療機器が、現在の大型・高性能・高価格から、こちらの方向にシフトすることは間違いありません」(中島教授)

中島教授が現在、リバース・イノベーションとして具体的に開発を進めているのは、「持ち運べる手術室」というコンセプトの内視鏡手術機器。既存のコンパクトビデオカメラに内視鏡と電気メス、腹腔内に手動でガスを送る小型装置、バッテリー式のLED光源を組み合わせたものだ。現在、全インド医科大学(AIIMS)の医師とともにフィールドワークを実施しており、5年以内の実用化を目指している。日印両国の首脳も支援を表明。今後は内視鏡以外にも、安価で使いやすい医療機器開発を検討する計画だ。
 
長年「ものづくり大国」を自負してきた日本だが、実は医療機器に関しては後進国だ。年間の貿易赤字額は7,000億円近くに上り、現場で使われる機器のほとんどは欧米メーカーのものだ。

「唯一、胃カメラをはじめとする内視鏡はオリンパスや富士フイルムが世界シェアの大部分を握っていますが、それも今後はどうなるか」と中島教授は懸念する。もしグーグルやアップルが、ネットに繋がった、ソフトウェアが自動更新される、性能の優れた低価格の内視鏡を作り始めたら…。あっという間にシェアを奪われることは目に見えている。

「低コストで適正な性能を持つ医療機器の開発は、高騰する医療費の削減にも寄与します。国をあげてこの分野に挑戦することが、医療だけでなく日本社会全体に貢献することは間違いないのです」(同)

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