よりよい結論を導く「じっくり考える」トレーニング法

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上司からも部下からも結論を急かされる時代。あらゆることで即断即決をすることが常に良い結果をもたらすか。心理学者・植木理恵氏がベストな方法を伝授する。

■なぜ女性上司は「いいから早く決めて!」と急かすのか

じっくり考えて結論を出すのは、その間にリソースをたくさん集められるメリットがあります。しかし一方で、不利な点も。なかなか結論を出さないため、上司が「あいつはやる気あるのか?」「いつも仕事が遅い」と悪印象を抱く可能性があります。

これには「進捗を報告する」という方法で対処しましょう。

遅刻を例に説明しましょう。たとえば3時に約束していた人がその時間に来なかったら、待たされた人は怒りますよね。これは何に怒っているかというと、「3時に来なかった事実」にではありません。漠然と待たされる不安にさらされたことに、怒りを感じるのです。

実験をしたところ、約束の時間にきっちり現れる人より、遅刻しても「すみません。今、途中まで来ているので、何分遅れます」と連絡を入れる人のほうが、信頼度が上がることがわかりました。

同様に上司は、ゆっくり考えている事実には怒りません。その間、進捗状況が伝わってこないことが不安なのです。なので「今、こんなことを考えています」という中間報告をすれば、即決する人より優秀だと評価される可能性は大です。

上司対策としては、女性上司への気遣いも必要でしょう。というのは、男性と女性の心理的時間は異なっているので。特に20代から40代は、同じ1日、同じ1週間でも、女性のほうが時間を早く感じます。

出産適齢期がある女性は年をとることに敏感で、男性よりも焦っています。よく女性は「早く決めて!」って言いませんか? あれは「私たちには時間がないんだよ」ということ。また男性にはない生理周期があるため、時間の経過を知らしめられる機会が多い。男性のみなさんのように、のんべんだらりと生きていないんですよ(笑)。

だから女性上司に対しては、中間報告をして、より見える化に励んだほうがいいでしょう。そうすれば「いいから早く決めて!」と急かされることは減るはずです。

■自分の中にある言葉をただ「書き出す」だけ

物事を深く考えるのが苦手、という人にお勧めしたいトレーニングがあります。そのひとつが、文章化です。

私たちが悩んでいるときは、第1層ネットワーク(http://president.jp/articles/-/20439?page=2)をさまよっているような状態です。これは「もうダメだ」という箇条書きの一文が頭を占領して、ぐるぐる回っているようなもの。あまりに近視眼的で、これでは解決へつながっていきません。

そこでまず頭の中に浮かんだことを、単語でもいいから書き出してみる。そして関連ある言葉をつなげてネットワークの図にします。マインドマップ(http://president.jp/articles/-/20439?page=2)、心の地図ですね。それを見ながら考えていることを整理して、最終的に文章化できたら完璧です。いきなり「もっとよく考えろ」と言われると怖気づく人でも、自分の中にある言葉をただ「書き出せ」と言われたら、できそうな気がしてきませんか? そしてそれこそが深く考える行為なのです。

文章はしんどくて書けない! という人は、“色の日記”を試してください。まず用意するのは、24色の色鉛筆とノート。そして1日の終わり、今日の気分に合う色でページに小さくマルをつけます。どんなとき、どんな色を塗るかは感性次第。正解はありません。そして翌日、マルの横にその日の新しいマルをつけていく……。

この日記は大体、毎日、色が変わります。それを眺めると、人間の感情はその日その日で全然違って、あてにならないことが強く実感できるんですね。さらに継続すれば、自分の感情の流れをつかめるようになります。「この色の日に決めよう」「この色のときは考えないほうがいい」と判断できるようになるのです。

こんな実験結果があります。暗い音楽をずっと聞かせて気持ちが沈んでいるグループと、アップテンポの曲を聞かせて昂揚しているグループに、アイデアを出させたり、計算問題を解かせたりしました。すると前者は計算間違いをしなかったのです。ネガティブな感情のときは慎重になって、精密な判断ができる。一方、興奮状態のときは、質はともかく、たくさんのアイデアが出ることが判明しています。

感情というのは揺れ動くのが当たり前のもの。そして感情に合わせた思考があるわけで、その相性をうまく利用すればいいんです。たくさんのアイデアを出したいときは、ポジティブな気持ちのときを見計らい、ネガティブな気分のときに、正確な答えを出そうと努めてみる。考え事をする際、「今の感情で適しているかな?」という視点を1つ持つと、よりよい結果が導けるはずです。

■結論を決めてしまわないほうがいい理由

ビジネスシーンでは早急に正しい決断をしなければいけないときもある。日頃から深く考えるトレーニングをすれば自然と決断速度は上がるはずです。

教育心理学において、若い教師とベテラン教師では、生徒への評価の仕方が違うことがあると言われます。若い先生の場合、生徒を1学期見た時点で、「この子はこうだ」と評価を下しがちです。それに対してベテランの先生は、子どもを見て、今のところの評価を出します。そしてしばらくしたら、その評価をリニューアルする。この方法は一番モチベーションが上がり、総じて子どもの能力を伸ばしているそうです。

暫定的な結論を早々と出し、後でゆっくり考えてリニューアルしていく。そんな中庸策も使いながら、時には早く、時にはゆっくり、仕事に合わせて決断してみてください。

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心理学者、臨床心理士 植木理恵
東京大学大学院教育心理学科修了。日本教育心理学会で最難関の「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を史上最年少で連続受賞。現在、カウンセラーおよび慶應義塾大学で講師をつとめる。著書に『脳は平気で嘘をつく──「嘘」と「誤解」の心理学入門』『人を見る目がない人』など。

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(心理学者、臨床心理士 植木理恵 構成=鈴木 工 撮影=奥谷 仁)