金正恩氏

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北朝鮮が、極度に情報統制された国家であることは言うまでもない。ただし、金正恩党委員長が最高指導者になった時、スイス留学経験もあり年齢も若いことから(27歳で最高指導者に就任)、金日成・正日氏に比べて開放的な国家づくりをするのではという淡い期待もあった。

しかし、実際は真逆の方向へ向かっているようだ。

女子大生を拷問

金正恩時代に入って、韓流ドラマや海外動画などに対する取り締まりはとくに厳しくなっている。担当するのは秘密警察の国家安全保衛部(以下、保衛部)だ。保衛部は動画ファイルの保有さえも許さず、今年4月には、女子大生に拷問を加えるほどだった。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

しかし、厳しく規制されていても韓流ドラマの拡散は止まらない。その背景には、デジタルメディアの発達がある。かつては、CDやDVDに記録され持ち込まれた裏コンテンツが、今ではUSBメモリ、SDカードを媒体とし、さらに広まる結果となった。

庶民が娯楽のためにデジタルを活用する一方、金正恩氏はサイバー攻撃に注力している。2013年8月には「サイバー攻撃は核、ミサイルと共に軍の打撃力を担保する宝剣」と活を入れた。「飢える軍隊」と揶揄される朝鮮人民軍は、いざ戦争となれば正規戦では到底、米韓軍に勝ち目はない。こうしたなか、破壊力抜群の飛び道具である「核ミサイル」、そしてコストがかからない「サイバーテロ」に力を入れているというわけだ。

ネットで脱北美女を「指名手配」

さらに、金正恩氏は2014年2月には「インターネットをわが国の思想、文化の宣伝の場所にするため、決定的な対策を立てよ」と指示。対韓国心理戦を行っている朝鮮労働党統一戦線部の文化交流局は、全世界の拠点に要員を配置し、ポータルサイトと親北朝鮮サイトにアクセス。北朝鮮の体制を宣伝する書き込みをしたり、コメントをつけたりしている。狙いは韓国国内の懸案をめぐり、韓国国内での意見対立、衝突などいわゆる「南南葛藤」を煽り、社会と政権を動揺させることだ。

韓国の聯合ニュースなどによると、北朝鮮は軍の偵察総局、朝鮮労働党の統一戦線部文化交流局、朝鮮6・15交流社などの対韓国工作を行う組織が、韓国のポータルサイトなどに投稿された根拠の不確かな話やデマなどを、他のサイトにコピペして拡散させる「コメント専門チーム」を運営。いわば「ネット書き込み戦闘」を展開しているとされる。

最近では、中国浙江省の北朝鮮レストランの支配人と従業員13人が脱北した事件をめぐり、統一戦線部は海外駐在の工作員に「『従業員は脱北ではなく拉致された』と書き込みせよ」との司令を下したという。米国にサーバーを置くあるサイトは、従業員の1人が国家情報院の北朝鮮離脱住民保護センター(旧合同尋問センター)で抗議のハンストを行い死亡したというデマを流した。

このような心理戦は韓国社会に対するものだけではなく、脱北した女性たちに向けたものでもある。北朝鮮が運営するサイトは従業員女性達の写真を公開しながら「脱北ではなく韓国側による拉致」と主張。彼女らの奪還を目指している状況下では、写真公開は「指名手配」も同然の効果を持つからだ。

金正恩氏暗殺映画

積極的にサイバー戦を繰り広げる金正恩氏だが、地雷を踏むこともある。

今から2年前の2014年、金正恩氏暗殺を描いたコメディ映画「ザ・インタビュー」をめぐって配給会社であるソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)に対して大規模なサイバー攻撃が仕掛けられた。SPEは一時は映画の公開を見送り、オバマ米大統領がその判断に対して懸念を示すなど大騒動になった。

真偽はいまだに不明だが、米政府は北朝鮮がサイバー攻撃に関与したと見ている。北朝鮮は一貫して潔白を主張したが、日頃からサイバー攻撃を展開していることから犯人扱いされてしまった。さらに極めて低俗な映画だった「ザ・インタビュー」は、「北朝鮮がサイバーテロを仕掛けるほど激怒した映画」ということで話題となり、挙げ句の果てには自国への流通を恐れた北朝鮮当局が禁止令を出して過剰反応するという、まさに地雷を踏む事態となった。

結局、金正恩氏はインターネットを活用し、サイバー攻撃に力を入れたことにより、自身の権威が下がりかねない事態を招く──つまり「やり過ぎてしまった」わけだ。