飲食店と常連客のウィン・ウィンな関係

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■「新規性」以外の店の価値って?

先日発売されたグルメ雑誌「dancyu」は、特集テーマの1つとして、さまざまな居酒屋の「系譜」を紹介していました。今や大繁盛している店であっても、もともと店主はどこか別の店で修行をして、下積み生活を送っていたことがほとんどです。私が所属する組織は、グループで和食を中心に飲食店を経営しているのですが、今回の特集においてそうした系譜の大元として紹介されました(代表店舗「並木橋なかむら」にちなんで、「なかむらの系譜」として卒業生の店がいくつか取り上げられています)。

なかむらグループの代表はその記事を見て非常に喜びました。というのも、系譜ができるということは、それだけ長く店を続けている証であり、そうした価値をメディアが取り上げてくれたからです。メディアが飲食店を取り上げる際には、「新規オープン」や「海外ブランドの日本初出店」など、「新しさ」が前面に出ていることがほとんどなのです。

もちろん、新しさに光を当てるのは、そちらのほうに情報価値があるとメディアが判断している(少なくともそう思い込んでいる)からに違いありません。老舗であってもたびたび取材をされる店はありますから、「新しい店ばかりに注目しやがって」とうらやむのは、自店の魅力の乏しさを棚あげしていることになってしまいます。それでも、長く続けている店舗の経営者にはそうしたほろ苦い思いを抱いている人は少なくありません(ひょっとすると若さへの嫉妬みたいなものでしょうか)。

■新規客だけではしんどい

以前、ある飲食店経営者のネット上での投稿が物議を醸したことがあります。内容を端的にまとめると、「『あんないい店が閉店しちゃうなんて残念』という人がいるけれど、それはいい店だと思っているのに通わなかったあなたのせいでもある」というものです。これに対しては、飲食店関係者からは共感する声が大きかった一方で、「結局、ファンをつくるだけの魅力がなかった店舗の言い訳でしかない」というネガティブな反応も強くありました。

本当にいい店はきちんと繁盛しているので、「言い訳」と言われれば確かにそうだなと思います。とはいえ、今時の飲食店とお客の関係性には難しい点もあるような気がしてなりません。それは「ホッピング」とでも表現すべき、店から店へと移り歩くお客の消費スタイルに起因します。グルメガイドやグルメサイトをもとに評判の高い店を訪れ、「次はどこの店に行こうか」と新規開拓を続ける人が世の中にはたくさん存在します。

お客としては、いつも新鮮な気持ちで店を「評価」できるので、それは楽しいことかもしれません。

しかし店側からすれば、いつもいつも新規客を迎え入れるばかりでは、そのお客に何を出して、どんな風にもてなせば喜んでくれるかは、なかなかつかむことができません。新しいお客さんに来てもらうことは大切なことではありますが、そればかりではしんどいというのが正直なところです。

このような事態を招いているのは飲食店自身の責任でもあります。店が行う売上アップのための「販促」と言えば、露出を増やしたり、クーポンで強引に集客したりと、新規客獲得のための手ばかりでした。しかし、ビジネスの基本と言えば、いかにリピート客を増やして安定的な収益に繋げるかに他なりません。多くの飲食店は「常連さんを大事に」と口では言いながらも、肝心の打ち手は「金を使って新規客を呼び寄せる」ことに終始してきたのです。

■常連づくりは「自衛」でもある

そんな中、きちんと工夫をしている店もあります。私の知るある居酒屋は、人気のあまり予約が取れないことで有名です。しかし、常連さんが当日電話をするとスルリと入れることが実は多いのです。それはなぜか。この店では、常連さんの気が向いたとき立ち寄れるように、彼らのための席を毎日キープしているのです。

あてにしていた常連さんが来なければ、機会損失になってしまう可能性は当然あります。それでもホッピングして二度と来ないかもしれない新規の予約を断ってでも常連客を大切にしているのです。これは常連へのホスピタリティという面があるには違いありませんが、何よりも「自衛」の意識の表れです。リピーターをきちんとつかんでさえいれば、飲食店はそうは潰れません。

昔のような店とお客の関係は良かったと懐古主義に陥っても仕方ありません。しかし、飲食店は今こそ自身の店を長く続けていくために常連客を大切にすべきですし、常連客候補には「えこひいき」をしてでも、繋ぎとめる努力が必要です。最近では、予約関連ツールが出揃ってきて、顧客の識別や分析が格段にしやすくなってきているのは追い風です。

また訪れる側にとっても、同じ店を何度か訪問するうちに、好みを理解してもらったり、ちょっとしたサービスをしてもらえたりとメリットはあるものです。季節でメニューが変わるような店ならば、1年の移ろいを食材や料理を通じて感じることもできます。さらには、スタッフと顔なじみになれば、自分の「居場所」という価値も生まれてくることでしょう。次の外食は新規開拓ではなく、以前行って良かったあの店に、もう一度顔を出してみてはいかがでしょうか。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)