過去4大会、進むべき道をふさいでいた巨大な岩が、ついに動いた。それもあっけないほど簡単に。

 アジアU−19選手権準々決勝。勝てば、来年韓国で開かれるU−20W杯への出場が決まる大一番で、日本はタジキスタンを4−0でねじ伏せた。

 攻めては、試合開始早々に生まれた先制点を皮切りに、前後半2点ずつを奪い、守っては相手にまったくと言っていいほど攻撃の機会を与えず、完封した。

 この大会が現行方式(16カ国出場で、グループリーグ4組の各上位2カ国が準々決勝に進出する)になった2002年大会以来、日本は8大会すべてで準々決勝に進出しているが、4−0は過去最大得点差での勝利である。

 率直に言って、両者の間にある実力差は、グループリーグを見ている段階から明らかだった。早い時間帯に先制できれば、一方的な試合展開になることは十分に予想できた。

 ただ、唯一の不安材料は、相手が戦術的にかなり徹底されたチームであること。要するに、なりふり構わず守備を固め、カウンターでのワンチャンスを狙ってくることだった。

 例えば、前線にロングボールを蹴り込み、ヘディングで競り合ったこぼれ球を力づくで拾い、ゴチャついた状況を一か八かで抜け出す。タジキスタンの攻撃はそんなイメージだ。日本の守備の要、DF中山雄太(柏レイソル)も「相手の狙いが、そういう"事故"だというのはわかっていた」と語る。

 引いて固める守備を崩せず、日本が時間とともに焦(じ)れて雑な攻撃を増やすようだと、相手の思うつぼ。カウンターから失点、あるいはスコアレスのままPK戦突入といった最悪のシナリオも、考えられないわけではなかった。

 しかし、試合が始まってみれば、立ち上がりからボールを支配して攻め続ける日本が、8分にFW小川航基(ジュビロ磐田)のゴールで先制。両者の本来的な実力差を考えれば、この時点で、もはや勝負あった、である。

 U−19日本代表の内山篤監督に、勝利を確信したのは何点目のゴールだったかと尋ねてみても、返ってきた答えは「1点目」。内山監督が続ける。

「リツ(MF堂安律/ガンバ大阪)もあまり点が取れていなくて、仕掛けるのはいいが、無謀なところに入っていってボールを失うことがあった。でも(1点目の場面では)初めてシンプルにクロスを上げた。そこに小川が寄ってきた。その判断を共有し、お互いのプレーが合えば得点になる。(グループリーグ1、2戦目は)間違った判断でプレーしていたから、なかなか得点が生まれなかったが、それを改善できた彼らはすばらしかった」

 早々にリードを奪った日本は結局、過去4大会苦杯をなめさせられ続けてきた"鬼門"の準々決勝を、拍子抜けするほどの楽勝で悠々と突破した。

 確かに、勝負の準々決勝は楽勝だった。決勝トーナメントの組み合わせ全体を見ても、日本とは逆の山に強豪国が集まった。日本が負け続けてきた過去の準々決勝と比較すれば、とりわけ今大会は対戦相手に恵まれた感が否めない。その意味で言えば、日本は運もよかった。

 しかしその一方で、グループリーグはかなり厳しい対戦を強いられた。イエメンはともかく、イランは過去の大会でことごとく苦戦させられてきた相手であり、カタールは前回王者。今大会の最激戦区と言ってもいいグループを首位通過した事実を忘れてはならない。日本に次いで2位通過したイランもまた、ベスト4進出を果たしたことも、このグループのレベルの高さを裏づける。それらを無視して、今回の日本の勝ち上がりの理由を「巡り合わせのよさ」や「幸運」だけに求めてしまうのは、フェアではないだろう。

 実際、内山監督も「今大会のターニングポイントはカタール戦だった」と振り返り、こう語る。

「一番プレッシャーがかかった試合は、おそらくカタール戦。最初の1、2戦はサッカーに戦術的な問題があって、なかなか点が取れなかったなかで、カタール戦は(負けはもちろん、0−0、1−1の引き分けも許されず)点を取らなければいけなかった」

 無得点に終われば、試合結果にかかわらず、その時点で敗退が決まる可能性が高かったグループリーグ最終戦。しかも、相手はディフェンディングチャンピオン。選手たちには相当なプレッシャーがあったに違いない。指揮官が続ける。

「でもそのとき、選手たちは点を取るためにどうしなければいけないか、というところを改善できた。プレッシャーがかかるなかで、あのパフォーマンスを出せた。彼ら自身にカタール戦は手応えがあった。だから、(準々決勝は)相手がタジキスタンだろうが、オーストラリアだろうがどこが出てきても(問題ない)という感じはあった。相手が引いていても、90分のなかで必ずチャンスはある。選手は慌てずによくやったと思う」

 大きな山を乗り越えた自信は、間違いなく選手たちを変えた。その結果が、傍目には楽な試合に見えた準々決勝の勝利である。中山が語る。

「自分たちのサッカーができれば、こういう展開で終わらせられるという自信になった。試合を通して、チームとして成長しているのが感じられたので、こういう結果で終われたのだと思う」

 世界行きのキップを大きく手繰り寄せる先制点をはじめ、この日2ゴールを挙げた小川も、「イラン戦で点が取れなくて、『ここで取っておけば楽だったのに』という気持ちがあった」と語り、「カタール戦は必ず点を取らないと(グループリーグを)突破できない」というプレッシャーがあったことを認める。

 だが、「それを乗り越えて、(カタール戦で)いつもどおりできたのがよかった」と小川。「タジキスタンが引いてくるのはわかっていた。イラン戦がいい経験になっていた」と、会心の勝利に笑顔を見せた。

 内山監督にとっては、コーチとしてチームに参加し、悔しさを味わった2年前の経験が大きな糧となっている。指揮官は語気を強めて語る。

「たまたま南野拓実のPKが外れて(負けて)、あれで日本人は勝負弱いと評価されるのは、僕は正当ではないと思う」

 2014年の前回大会。日本は準々決勝で北朝鮮にPK戦の末に敗れた。攻勢に試合を進めながら、守りを固める相手を最後まで崩し切れなかった結果だった。

 だが、聞こえてくるのは、勝負弱さや精神的な弱さといった言葉ばかり。内山監督は違和感を覚えずにいられなかった。

「メンタル(の強さ)は誰でも持っている。ここにきたら負けたくないからみんなやる。でも、メンタルだけでは勝てない。背負うものがあって気持ちが入っていても、必要以上にそれだけにとらわれてしまうと、一番大事な、つまりピッチで何が起きているかを判断することや、技術的なこと、戦術的なことを忘れがちになってしまう。自分がやらなければいけないという意識が、逆にいい判断を消してしまうことがある」

 そして指揮官は、「カタール戦では、彼らはいい判断を共有して(試合内容を)改善した。でも、それはメンタル(が理由)ではない」と言い、こう続ける。

「メンタルはすごく大事だが、相手があり、いろんな状況が起こるなかで、やっぱりピッチのなかできちっとサッカーをしないと。まだまだミスがあるが、的確に自分たちのプレーをする流れが少しできてきたのはよかった」

 勝利のあとにもかかわらず、険しい表情を崩すことなく話し続けた内山監督は、そう言うと、最後にほんの少しだけ表情を緩ませた。それはこの大会を通じ、選手の成長を実感できたからに他ならない。

 今回、2007年のU−20W杯出場を最後に続いてきた"負の歴史"にピリオドを打った選手たちは、決してタレント豊富な世代として注目されていたわけではない。心もとない試合をすることも多く、どちらかと言えば、それほど期待されていなかったと言ってもいいのかもしれない。

 だが、そんな世代の選手たちが重い岩を、いとも軽々とどかしてみせた。勝負の準々決勝は史上稀に見る楽勝で。

 5大会ぶりのU−20W杯出場なるか、と前のめりで見ていた者にとっては、何とも拍子抜けするような、あっけない結末だったが、歴史が動く瞬間というのは案外こういうものなのかもしれない。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki