覚醒剤常習者の日本人男性の部屋に以前あった吸引器。口紅が付着しており、内縁の妻が使ったものだろうが、今は必要なくなった

写真拡大

バスケットボールを追いかける子供たち、素っ裸で水浴びする赤ん坊、たらいで洗濯に勤しむおばさん……。フィリピンの首都マニラにあるスラムに足を踏み入れると、そんな日常風景が広がる。

家々の間から奥へと延びる真っ暗な狭い通路を少し進むと、空から光が差し込む広場へ出る。周囲はベニヤ板にトタンを張り合わせただけの粗末な民家がひしめく。

2階へ続く木の階段を上った先に、その場所はあった。

天井までの高さ約2m、四畳半の小さな部屋に、10年以上住み続ける覚醒剤常習者の日本人男性(60代)がいる。室内にはベッド1台と衣類の収納ケース、シューズラックなどが置かれているだけだ。薬の影響からか、頬が痩せこけた彼はこう言った。

「最後に覚醒剤を吸引したのは3カ月ほど前かな。ドゥテルテが大統領に就任したらできなくなると、ある程度は覚悟していた。このへんには密売人が4、5人いたんだけど、みんな足を洗ったよ」

彼のような日本人はフィリピンに少なからずいるだろう。みんな認めたがらないが、その目やにおいが明らかに「シャブ中」を物語っていた。

実はフィリピンは、「日本人が最も多く殺されている外国」である。外務省の統計によると、2014年に海外で殺害された日本人13人のうち、7人はフィリピンが舞台だった。児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で昨年4月、横浜の元中学校長が逮捕された事件でも、約1万2000人の女性を買った現場はマニラだった。そんなニュースが流れるたび、何かと負のイメージがつきまとってきたこの国で、ある人物が世界中から注目を集めている。今年6月末に就任し、10月25日に初来日した“フィリピンのトランプ”ことロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71歳)である。

「麻薬密売犯を殺す!」などの過激発言を繰り返し、彗星のごとく登場した彼が今、大統領選で掲げた公約どおりに進めているのが麻薬撲滅戦争だ。密売人や中毒者は警官が射殺しても構わない、という強硬姿勢で、政権発足から3ヵ月半が経過した10月14日現在、殺害された人数は1578人(国家警察発表)。

さらに、“自警団”による殺害なども合わせると、その数は3500人近くに達すると推計され、国際社会からは「非人道的だ」との批判が噴出している。

しかし、それでも国内では8割から9割もの人がドゥテルテ大統領を「支持する」と答える。その背景には、歴代政権が野放しにしてきた根深い薬物汚染の実態がある。

ある治安当局者の言葉を借りれば「この国では、『シャブ』はキャンディを買うように簡単に手に入る」のだ。

そうした現状を知れば知るほど、ドゥテルテ大統領が人気取りの殺人者なのか? それとも国を救う英雄なのか? わからなくなってくる。

発売中の『週刊プレイボーイ』45号では、マニラを拠点に活動するノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、フィリピン麻薬戦争の実態を現地取材。衝撃の現実を是非ご覧いただきたい。

(取材・文・撮影/水谷竹秀)

■週刊プレイボーイ45号「ドゥテルテ大統領初来日!! フィリピン強面大統領『血みどろの戦い』は始まったばかりだ!!」より