「勝ち組中の勝ち組」でも自殺まで追い込まれる--電通過労死事件は、日本の職場が恒常的に抱える闇を浮き彫りにした(写真は本文とは関係ありません)

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理性のタガが一瞬外れただけ…
過労自殺が他人事ではない理由

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 先日の、電通社員の過労死事件は、メディアでも大きく取り上げられたため、ほとんどの読者の方はご存じだろう。

 東大卒、電通入社、容姿端麗、と世間から見れば「勝ち組」と呼ばれる要素をいくつも持っている女性が、よりにもよってクリスマスの晩に投身自殺をしてしまったというニュースは、かなりセンセーショナルに報じられた。

 自殺をするまでに追い込まれていたことは、SNSのメッセージに端的にあらわされていたため、彼女の置かれていた状況は多くの人に知られることになった。

 昔、鉄道会社に勤めている友人から聞いた話だが、飛び込み自殺をした客の遺留品は、とても自殺した者のそれには思えないそうだ。定期券もまだ長期間残っているものが多いし、上演予定のコンサートチケットや映画の前売り券が出てくることも珍しくないという。残されたスケジュール帳にも、几帳面なほど、死んだ後の日々のスケジュールが書き込まれていることが多いという。

また、自殺直後の人の脳の状態を調べたところ、あらゆる部位で脳内免疫細胞が通常では考えられないほど異常活性化していたという報告もある。自殺時の脳の状態は「異常」なのだ。

 つまり、人は自殺しかねないような大きなストレスにさらされていても、普段は理性を働かせて、通常通り日々を過ごしているということだ。実際に自殺に走ってしまうのは、幾重にもある理性的なタガが、何かの理由ですべて外れてしまった一瞬である。そのときに衝動的に自殺に走ってしまうのだ。

 彼女のSNSのつぶやきを読むと、まさにその通りだと思った。相当なプレッシャーとストレスがあったが、それをきちんと客観化して、SNSを読む人の立場になって書いていることがわかる。自分がつらいときにも、なぜつらいかを外部の人にわかるように書いている。これをやるには、一度自分の状況や感情を外側から見て、言語化する必要がある。それができている間は、自分の中にある「死んでしまいたい」という気持ちを抑えることができていたのだと思う。

 だが、慢性的な睡眠不足と疲労の上に、プライベートでもトラブルがあり、仕事ではさらに過酷な状況になったとき、人は正常な判断、つまり自分を客観化することができなくなる。彼女のすべての理性のタガが外れたのが、一瞬だったとしても、それが彼女を自殺行動に走らせてしまったのだろう。

 この事件は痛ましいとしか言いようがない。だが、この問題がこんなに長く議論されている理由は、「勝ち組中の勝ち組」でさえ自殺に追い込むほど、日本の職場がきついという感覚を、皆が共有できるからだ。日本の職場が恒常的に抱えている闇が、この事件に端的に示されたのだと筆者は思っている。

 仕事がつらくて、きつくて、辞めてしまいたいけれど、いろいろ考えるとやめることはできない。上司は理解してくれない。それどころか自分を追い込んでくる。同僚とは通り一遍の関係だけ。かといってプライベートが充実しているわけではない。そもそも仕事が忙しくて、充実したプライベートなど送れる余裕などない。こんな人は、過労死の問題を他人事とは思えない。

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