スピードスケートの国内開幕戦で、今季W杯前半戦の代表選考会も兼ねた、10月21日からの全日本距離別選手権。初日にいきなり爆発したのは、昨季の女子チームパシュートでW杯種目別総合優勝の立役者ともなった高木美帆(日体大)だった。

 この日出場したのは、昨季の個人のW杯種目別総合で6位になっていた1500m。例年、この大会は調子が上がりきらない状態で臨んでいたが、今年は昨季この種目の日本記録を出している押切美沙紀(富士急)と同走となる。レースはスタートから飛ばす押切に差をつけられたが、次の周回で逆転すると、ラスト1周も全選手中の最速を出し、1分56秒25で優勝した。

 このタイムは、昨年の全日本選手権で菊池彩花(富士急)が出していた日本人の国内最高記録を1秒54更新するもの。08年にアンニ・フリージンガー(ドイツ)が出したリンクレコードにもあと0秒19まで迫る大記録だった。

「今回は、練習でも1周29秒台や30秒台の速いラップをキープできていたので、自分をコントロールしていかなければいけないと考えていました。1分57秒中盤はいくかなと思っていたのですが、56秒台前半は想定外でした。でも今は、初戦からこのタイムを出してしまったので、『ここからもっと上げられるのかな?』という不安の方が大きいです」

 こう言って苦笑する高木だが、チームパシュートで一緒に戦った押切と同走だったというのも大きかった。昨季も、高木がインレーンで押切がアウトレーンスタートというレースを何度も経験して、「ここで頑張れば勝てる」というポイントを見つけていたという。それが1100mまでの1周だった。今回も、落ち着いて自分のレースができた。

「夏以降の練習では3000mを意識する部分が大きかったので、1500mのためとは思っていませんでしたが、3000mの課題を意識したお陰で1500mの落ち着きが出てきたのかなと思います」

 昨季は自分の好調の理由を、「1000mや1500mをどういう風に滑ればレースで100%出し切れるかという戦術的なことを考えられるようになったことで、以前より練習に集中できるようになりました」と話していた。さらにナショナルオールラウンドチームは今季、姉の那菜や、佐藤綾乃(高崎健康福祉大)などが加入して新たな刺激も生まれ、「もっとこうしなければ」と考えるようになったという。

「今年は五輪のプレシーズンだから、世界がどこまで伸びてくるかわからないので......」と高木は言うが、昨季の世界距離別選手権では8位ながらも、3位に1秒74差までに迫っていて、表彰台も手が届く状態だった。それを考えれば今回の結果は、今季の彼女の飛躍を期待させるものである。

 大会2日目の22日には、高木が3000mでも安定した滑りで初優勝を果たしたが、それ以上の結果を出したのが、昨季はW杯500m種目別総合11位と苦しんでいた小平奈緒(相沢病院)だった。

 スタートこそ「ビデオを見直したらすごくバタついていた」という状態だったが、キレと躍動感のある動きで、自身が持つ日本人の国内最高記録を3年ぶりに更新する37秒75を出した。

「氷から伝わってくる力をうまく体でコントロールしながら素直に滑りたいと思っていました。でも国内最高とはいっても、李相花(韓国)のリンク記録(37秒60)には届いていないので、まだ改善するところはあると思います。それでも実力が上がってきているのがわかったので、自信を持っていきたいと思います」

 こう話す小平は今季、2年間本拠地を置いたオランダから帰国した。昨季の不調はオランダの食材が合わず、食べてから4〜5日後に症状が出てくる遅発性アレルギー反応で苦しんでいたからだったという。帰国後は食材も自由に選べるようになり、自炊もすることでその問題を解決した。

 指導する結城匡啓(ゆうき まさひろ)コーチも「栄養学は私の方が教えてもらうほど詳しくなっています。4月にトレーニングを始めた時は2年間オランダにいた影響で体力が落ちていて、3カ月で取り戻しながら7月の氷上練習で大丈夫、という状態になった」と言う。

 その小平は大会最終日に、ここ数年は世界レベルから離されて苦しんでいた1000mでも、スタートからミスのない滑らかな加速を見せる。ラスト1周は疲労をにじませながらも、昨年、高木美帆に塗り替えられていた国内最高記録を0秒66更新する1分15秒08でゴールした。

「氷もよかったのですごく感謝したい。記録は出るときにはあっさりと出るものだなと思ってびっくりです。ただ、ラスト1周は前の周のラップより2秒21落ちたので......。自分の体の中のメトロノームをずっと同じようなテンポで刻んでいけるように作っていけばいいのかなと思いました」

 こう振り返る小平は、今は滑りに迷いがないという。オランダはスケートが文化として根付いている国で、氷結した運河を使う200kmレースなどもある。そういうスケートのDNAを組み込まれた選手たちの巧みなストレートの滑りや、06年トリノ五輪から14年ソチ五輪まで3大会連続で金メダルを獲得しているイレイン・ブスト(オランダ)の滑りを近くで見て、一緒に練習をする中で体が覚えたものが大きい。

 小平は元々、500mから1500mまでのすべてを極めたいという気持ちを持っていた選手だったが、バンクーバー五輪後は、500mで結果が出ることが多くなり、比重が傾いていた。それがオランダでの2年間を経験したことで、再び3種目を視野に入れられるようになってきたという。

「1000mはまだ完全に自分のものになっていないと思うし、また楽しさがわかったので、これから味付けをする白米のようなものですね。レース展開やペースはW杯で同じくらいのタイムで滑る選手とレースを重ねていく中で、こうやって滑るんだというのを体の中で覚えていければいいと思います」

 ソチ五輪では世界との差を見せつけられたスピードスケートだが、オランダ人コーチを招聘するなどの努力を重ね、昨季は女子オールラウンドチームがパシュートで表彰台の常連になるなど力をつけてきた。高木を中心とするチームのさらなる成長と、短距離のエース小平の復活。2018年に迫る平昌五輪へ向けての期待が大きく膨らみ始めた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi