森見登美彦一年半ぶりの新刊は、怪談×青春×ファンタジーのかつてない物語

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『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』など、数多くのヒット作品を生み出してきた森見登美彦氏。独特な文体や世界観に惹かれる読者も多い。

そんな森見氏の待望の新刊であり、「作家生活10年目の集大成」となるのが『夜行』(小学館刊)だ。

■10年前に失踪した一人の女性と、旅先で経験した不思議な物語

主人公の「わたし」は、学生時代に通っていた英会話スクールの仲間5人と京都の「鞍馬の火祭」を見に行こうと、10年ぶりに集まることになる。

中井さん、武田君、藤村さん、田辺さんと「わたし」の5人は、10年前にも鞍馬の火祭を訪れていた。ただ、そのときは6人いた。10年前の夜、まるで虚空に吸い込まれたかのように、一緒にいた長谷川さんという女性が姿を消してしまったのだ。

そしてこの10年間、「わたし」たちは誰ひとりとして彼女を忘れることはなかった。みんなに集まろうと呼びかけたのは、彼女に呼びかけられたからではないだろうか。そう、「わたし」は思っていた。

京都に着いた「わたし」は、失踪したはずの長谷川さんにそっくりな女性を見かける。

「彼女であるはずがない」と思いつつ、胸の高鳴りを感じながら追いかけていくと、彼女はある画廊の中に入っていった。

そこで開かれていたのは「岸田道生個展」。そして、一点の銅版画が展示されている。タイトルは「夜行――鞍馬」。夜の木立の向こうを駆け抜けていく列車に、一人の後ろ姿の女性が呼び掛けるように右手を挙げている。心惹かれる絵だった。

この絵の作者は岸田道生という銅版画家で、3年前の春に亡くなっていた。画廊主によれば、岸田が遺した連作絵画は「夜行」というタイトルで、48の作品から成るという。そして48枚の絵画には、地名のタイトルが名付けられ、謎めいた「女」が描かれていた。

10年ぶりに集まった「わたし」たちは、宿で10年の間に旅先で出会った不思議な思い出を語る。そして偶然にもみな、旅先で岸田道生が描いた「夜行」に出会っていたのだった…。

■不思議な読後感を味わうことができる一作

本書に収録されている5作は、小説雑誌『STORY BOX』に掲載されていた短篇を改稿したもので、「怪談」の体を持ちつつも、青春小説、ファンタジーの要素が織り込まぜられており、森見ファンにとって見逃せない一冊となっている。

いったい「夜行」とは何なのか? 「わたし」が京都で見かけた長谷川さんにそっくりな女性の正体とは…。奇妙に絡み合う5人の物語、そして不思議な読後感を味わうことができるエンディングへ…。

思う存分、森見登美彦ワールドに浸ることができるはずだ。

また、同日には自身初めての対談集『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』(小学館刊)が発売される。森見ファンならばこちらも見逃せないだろう。『夜行』と合わせてぜひ手にとってみてほしい。

(新刊JP編集部)

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