【コラム】10年ぶりに世界への扉をこじ開けたU19日本 勝因は一大決戦でも貫き通した「平常心」

写真拡大

 10月24日、勝てば世界切符獲得となるAFC U−19選手権準々決勝。日本とタジキスタンの間に力の差があることは事前に予想されていた。さらに中3日の日本に対して、タジキスタンは中2日。「2日で回復できる状態ではない」とヴィタリー・レフチェンコ監督も認めたように、フィジカルコンディションでも日本にまさしく“一日の長”があった。

 となれば、あとのポイントは心理面である。カタールとのグループステージ最終戦で見せた勢いを持続しつつ、油断や慢心は避け、かといって過緊張にならないようにすること。言ってしまえば、「普通にやること」(FW小川航基=ジュビロ磐田)が大きなテーマとなった。一大決戦だからと気負うことなき自然体。直前の練習になっても、気合いの声掛けをするとか特別な練習メニューを組むといったことはなく、いつもどおりの支度を続けた。「普段しないことをしない」といった構えである。

 言ってしまえば少々「ゆるい」のかもしれないが、今回のメンバーにはこれが合っていたのだろう。内山篤監督は「メンタルの話はあまりしない。元より気持ちの弱い選手は選んでいない」と以前語っていたが、そのスタンスは大会に入ってからも大きく変わることはなかった。「普段通りの力を出せばやれると思っていた」と言う木村康彦コーチも、「(カタール戦からの中3日で)メンタルも体もリフレッシュさせることだけを意識してきた。感情的にならずに力を出し切る」ことを選手に促した。

 イエメンとの初戦は、まさに昂ぶるモノを抑えきれずに感情的になってしまったことで試合開始からチームは空転。培ってきたものが何も出せず、個人技しかない信じられない内容となり、「どうにもならない」(木村コーチ)状態に陥ってしまった。それだけに、首脳陣にも選手側にも深い反省があった。練習であらためてサイド攻撃を基軸にするベーシックな戦術的方向性を確認しつつ、気持ちの部分では平常心であることに努めた。気合いは必要なのだが、気負いは要らない。その心理的なバランスが整って臨んだ準々決勝だった。

 試合開始当初から日本の状態は安定しており、小川の先制点が前半8分という時間に決まったところで、早くも勝利を半ば確信できた。そのくらいの充実感があり、最終的に4−0という結果に表れることとなる。

「90分の笛が鳴った後、こみ上げてくるものがあって、すごくうれしかった。2年間ずっとこの日のために、ここで勝ちたいと思ってやってきた」(MF坂井大将=大分トリニータ)

 冷静沈着にプレーを続けた主将が、ホイッスルの瞬間から感情的になったのは、ここに至る流れを何とも象徴する光景だった。一大決戦に際して慌てず騒がず、「普段通り」を貫いた東京五輪世代が、10年ぶりの世界への扉を、しっかりこじ開けてみせた。

文=川端暁彦