「野火」が上映された塚本晋也監督

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 日本ではそれほど知られていないかもしれないが、ベルギーのゲント市で開催されるゲント映画祭は、今年43回目を迎える歴史ある映画祭だ。映画音楽にも趣を置いていることで知られるが、今年はベルギー、日本交流150周年を祝い、スポットライト・ジャパンというセクションが設けられた。13本の日本映画の近作、新作が紹介され、塚本晋也(「野火」)、深田晃司(コンペティションの「淵に立つ」とスポットライト・ジャパンの「さようなら」の2本を出品)、内田英治(「下衆の愛」)、吉田恵輔(「ヒメアノール」)の4人の若手監督がゲントを訪れた。(取材、文、写真/佐藤久理子)

 映画祭のアーティスティック・ディレクター、パトリック・デュインスラーヘル氏は元批評家で、過去に今村昌平、黒澤明、大島渚らをインタビューしたことがあるという日本映画通。現代の日本映画に対する印象をこう語る。

 「欧米映画の影響は感じられるとしても、やはりどこかに日本的なものがあると思います。たとえばコンペティションに出た黒沢清の「ダゲレオタイプの女」や、スポットライト・ジャパンの山田洋次の「母と暮せば」」に見られる、死者に対する観念やそのリアルな描写は、西洋のアプローチとは異なる。日本映画はとてもバラエティに富んでいるのも魅力ですね。「野火」のような強烈で実験的なスタイルのものから、コメディ、バイオレントな作品、さらに「家族はつらいよ」のように小津安二郎の影響を感じさせる伝統的な作風まで異なる持ち味があります。深田監督は新鋭ですが、「淵に立つ」と「さようなら」の異なる作風に感心させられました。今回のラインナップでは日本の監督が今日の日本社会をどう見ているかが感じられる作品と、第2次大戦の影響を描いた作品、その二つを軸に選びました」

 「野火」のQ&Aでは暴力描写について質問が出て、塚本は「実際の戦争というのは人間が虫けらのように死んでいく残酷なものですから、ここまでやらないとそれが伝わらないと思いました」と語った。「下衆の愛」ですでに30各国あまりの映画祭を回ったという内田は、「ニューヨークなどでは(女性蔑視という)批判的な意見もありましたが、ゲントの観客のみなさんは寛容に楽しんでくれたと思います」とホッとした様子。実際上映中にはたびたび笑いが起こっていた。Q&Aでは「日本の映画界の内幕は本当にこの映画のようなのか」といった質問も飛び出し、「ぜったいそうじゃないと否定してこいと、先輩たちから言われて来ました」と監督が語って笑いが起きた。

 またクラシック部門では、大島渚特集が開催され、「絞死刑」「少年」「儀式」「愛のコリーダ」「戦場のメリークリスマス」が上映された。「戦場のメリークリスマス」の上映では、コンペティション部門の審査員長で、栄誉賞も授与されたプロデューサーのジェレミー・トーマスと、同映画祭併設のワールド・サウンドトラック・アワード部門でやはり栄誉賞を授与された坂本龍一が揃ってプレゼンテーションをおこなう貴重な場面も。坂本は当時を振り返り、「最初は俳優としてというお話を頂いてびっくりしました。それでぜひサウンドトラックもやらせてもらえないかとお願いした。最初に作った曲を気に入ってもらってから、あとは100パーセント自由にやらせてもらった。あんなに勇気のある監督はいませんでした」と感慨深げに語った。