リーダーシップコンサルティング代表 岩田松雄氏●1958年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。UCLAでMBA取得後、日本コカ・コーラ、スターバックスコーヒージャパンCEOなどを経て現職。

写真拡大

注目ベンチャー企業の社長から伝説の営業マン、最年少開発責任者、外資系企業の社長まで、彼らのキャリアを好転させた渾身の資料を大公開。

■セールスマンから外資系企業CEOへ

自動車会社のセールスマンから外資系企業のCEOまで上り詰めた岩田松雄氏。現在のキャリアを築く最初のきっかけとなったのは、職務経歴書に書かれた一言だった。

「他の人と特別違ったフォーマットではありません。違いがあるとしたら、それは書かれた内容です。私の場合はセールスマン時代に受賞した『社長賞』という言葉。この実績があったからこそ、海外留学させてもらえたし、MBAを取得したから外資系コンサルティング会社に転職できた。そして、3つの会社で社長になることができました」

新卒で日産自動車に入社した当初から、周りの人たちに「社長を目指して頑張る」と公言してきた。それまで購買部門で働いてきた岩田氏は、入社3年目に突然、大阪の販売会社への出向を命じられる。

「正直がっくりきました。しかも、飛び込みセールスです。それでもめげなかった。絶対に社長賞が獲れるような実績を挙げてやろうと誓いました」

一軒一軒チラシを配り、名刺を車のワイパーにはさむ。飛び込み営業を繰り返す日々が続いた。結果、1年半後にはそれまでの販売記録を更新する。本社から販売会社に出向している中ではダントツの1位。2位の3倍の成績を挙げ、プロパー社員を含めた全営業マンの中でも粗利益2位に。日産自動車本社から「社長賞」を受賞した。

「『セールスマンを経験しました』という一行では、その後のキャリアは開けなかったでしょうね。『社長賞を獲りました』という一行で、経歴書に価値がついた」

その後、米ビジネススクールへの留学、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラを経て、プリクラの開発で知られるゲーム会社「アトラス」へ入社。経営に関わり、2001年、初めて社長に就任する。

「コンサル会社に入ったのは経営者になるための準備です。日本コカ・コーラでは購買に戻って常務まで務めました。しかし、やっぱりどこか物足りない。その後は外資系企業を渡り歩くのが王道でしょうが、私はどうしても社長をやってみたかった。数百万円以上も給料が下がりましたが、リスクを取って転職することに決めたんです。おもしろいことに、アトラスの創業者は私の経歴については全く関心がなくて、人柄を気に入ってくれたようです」

ひと言で「人柄」といっても、何時間も接しないと伝わらないケースもある。岩田氏のもうひとつの転機を支えたのは、人柄を伝える資料だった。

「3期連続で赤字だったアトラスを立て直し、親会社のタカラの常務になりました。でも、やはり社長をやりたくなった。その頃紹介されたのが、『ザ・ボディショップ』を運営するイオンの子会社のイオンフォレスト。そこでイオンの人事トップの専務さんに母校の大阪府立北野高校での講演原稿を送り、読んでもらいました。『私の履歴書』のような体裁で、仕事のエピソードを細かく書き連ねた。字数を数えたら3万字もありました」

大学卒業後から40代半ばまでの20年の自分史。たとえば、「社長賞受賞」と経歴書では5文字で記される事実が、「バイクで配達していた酒屋の店員さんと接触事故を起こし、その謝罪と容態を伺うために毎日酒屋に通う。するとある日、当初はぶっきらぼうだったご主人に『一番高い車のカタログを持っておいで』と言われた」といったエピソードなど、苦労した実体験が書かれている。

この自分史を気に入ってもらい、イオン子会社3社から社長のオファーがきた。

■面接で聞くのは「一番輝いた過去」

「そのとき書いたエピソードは、今では自分の著書の随所に出てきます。いいことだけでなく、つらい思い出も振り返ることで、ひとつひとつの経験が自分の財産になっていることを実感しています。実際に経験したストーリーは、読む人にとっても印象深い。私が採用する立場で人を見るときも、プロフィールや職務経歴書の裏に隠れているストーリーが気になります」

岩田氏は採用の面接で、役員でも新卒でも同様に必ず尋ねる質問がある。ひとつは、長所と短所を3つずつ。長所の裏返しとして表れやすい「短所」を自分自身で把握しているかがポイント。社交性を長所に挙げる人は「八方美人」、リーダーシップを長所にする人は「強引すぎる」という裏面を意識している人が望ましい。そして、もうひとつが「あなたが一番光り輝いていたときはいつですか」という問いだ。

「仕事でなくても、趣味でも、新卒ならばアルバイトでも部活でもいい。自分がもっとも楽しかった経験、具体的なストーリーを聞けば、その人の価値観がわかるし、会社へ貢献してくれるかどうかも判断できる。『チームをまとめるのは大変だったけど、力を合わせて実績を挙げ、皆で喜びを分かち合った』などうれしそうに語ってくれれば、採用ですね(笑)」

■社長就任オファーが舞い込んだ「奇跡の資料」

【大学卒業後からの20年を記した自分史】
岩田氏が2社目に就任したイオンフォレストの社長になるきっかけとなった自分史。全3万字の一部。自身の過去を、良いことだけでなくつらかった出来事や、その当時考えていたことまで、詳細に記している。岩田氏は自分史の作成は自己分析にもなると、若手ビジネスマンにも作成を薦めている。

(小檜山 想=構成 宇佐美雅浩=撮影)