邦画の歴代興行収入ベスト10

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■歴代6位の大ヒット世代を超えた3要因

新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』が、爆発的なヒットを続けている。公開6週目で、興行収入は128.6億円に到達。10月3日の段階で、日本映画の歴代興行収入で6位に入るほどだ。

その内容は、大林宣彦監督の『転校生』を思わせる、高校生男女の入れ替わりものとして始まる。日本の青春映画の王道と言えるような設定だが、中盤から後半にかけてスマホ時代のコミュニケーションや突発的な天変地異など、現代的なモチーフも前面に出てくる。さらに、風景描写をはじめとする新海特有の非常に美しい映像も大ヒットを導いた一因だろう。現在、映画のモデルとなった岐阜県飛騨地方がいわゆる“聖地巡礼”で盛り上がっているのも、この映像美によるところが大きい。

日本映画の文脈、現代性、映像美――この3点が、当初のヒットを牽引したティーン層だけでなく、世代や性別を超えて広く訴求した要因だ。さらに、その勢いは日本に留まらない。既に、全世界89の国・地域での公開も決定した。スタジオジブリ作品や人気アニメシリーズを除けば、全世界から異例の規模で注目されている。

しかし、海外でどれほどヒットするかは未知数だ。日本映画が海外でヒットした例はいくつかあるが、ハリウッド映画のように恒常的にヒットしているわけではない。

日本映画の海外進出の壁は、いまだにとても高い。そこには、大きく分けてふたつの壁がある。ひとつが「文化の壁」、もうひとつが「メディアの壁」だ。

■フランス映画でも主演はアメリカ人に

「文化の壁」とは、作品の内容に関係する事象だ。その最たるものは言語だ。たとえばハリウッド以外で海外進出に成功しているのは、イギリス映画や、中南米市場もターゲットにできるスペイン映画だ。この両国には、英語とスペイン語という言語的な汎用性の高さがある。

映画監督リュック・ベッソンが設立したフランスの映画会社ヨーロッパ・コープも、現在は製作作品の多くが英語だ。全世界的に大ヒットをした『LUCY/ルーシー』のように、主演俳優がアメリカ人であることも珍しくない。世界最大の市場である北米をターゲットとするかぎり、英語化することは必須の戦略となってくる。

日本映画はまずここで大きな壁にぶつかる。観客が字幕で映画を観る習慣が一般化していない英語圏において、日本語の段階ですでに限界が生じている。

ただし、吹き替えを使えるアニメは、この壁を超えられる利点がある。実際、北米でもっともヒットした日本映画は、1999年に公開された『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』だ。興行収入は8574万ドル(当時のレートで約91億円)と群を抜いている(※1)。 『君の名は。』が、世界各国で公開されるのもこの利点があるからだ。

他方、「文化の壁」を考えるときに、頻繁に持ち出されるのが「ガラパゴス化」の議論だ。これは、ガラパゴス諸島の生物のように、文化が独自の進化を遂げてグローバル展開を妨げるという論だ。映画をはじめとするポップカルチャーでも、しばしば「ガラパゴス化」が海外展開の障害だと指摘されてきた。つまり日本独自の文化や表現様式が、海外では見向きもされないという議論だ。

この点には、いささか疑問が生じる。たしかに前述したように、映画を英語化することでグローバル化対応する策は見られる。しかし、たとえば米アカデミー賞作品賞に輝いた『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)や『ラストエンペラー』(87年)が、アジアを舞台としていたように、各文化が壁になるとは限らない。

逆に、独自の文化は利点となる可能性が高い。『君の名は。』で言えば、重要な要素として登場する神事の「口噛み酒」がそうだろう。『君の名は。』のプロデューサーである川村元気も、自身のコンセプトは「スーパー・ドメスティック」だと話す。これは、「超日本的な世界観が、いきつくところ作品の特長となる」ことだ(※2)。 『君の名は。』が世界中のバイヤーに興味を持たれたのも、この「スーパー・ドメスティック」性が作品に強く盛り込まれていたからかもしれない。

■海外で成功する中韓、現地支社もない日本

「文化の壁」よりも深刻なのは「メディアの壁」だ。これは、流通の問題と、国際政治の問題に集約される。

流通とは、映画業界では配給と呼ばれる。具体的には、映画館で映画を公開するための営業および宣伝の壁だ。ハリウッドは、たとえばワーナー ブラザースやディズニーに日本支社があるように、世界各国に拠点を持っている。また、韓国のCJエンターテインメントも日本支社を持ち、独自で配給している。

しかし日本には、海外で配給も行う支社を持つ映画会社はない。日本最大規模の映画会社である東宝ですら、LAと香港に事業所を持っているだけだ。これでは安定的な海外展開は望めない。出版業界に目を向ければ、10年以上前に小学館と集英社は共同で北米展開をするためのビズメディア社を設立したが、こうした努力が見られない。

また世界の映画状況は、20年前とは大きく姿を変えている。とくに成長が著しいのは、中国と韓国だ。15年の中国の年間総興行収入は約441億元(約8569億円)、韓国は約1兆7155億ウォン(約1837億円)だ。日本が約2171億円であることを踏まえると、その規模がいかに大きいかよく分かるだろう。

日本はこのふたつの隣国への進出において、大きく後れを取っている。日本映画が、両国で公開されていないわけではない。たとえば昨年中国で公開された『STAND BY ME ドラえもん』は、中国・香港で興行収入9297万ドル(約114億円)の大ヒットとなった。

しかし、言論統制が敷かれている中国では、映画を自由に公開できるわけではない。現在の中国は、外国映画の公開本数を制限している。こうした中国政府に対し、アメリカも外交交渉を行ってきた。12年にジョー・バイデン副大統領が習近平副主席(当時)と会談し、輸入枠を20本から34本にまで拡大させた。韓国も14年に中国と政府間で映画共同製作協定を結んだ。これにより、中韓合作映画が中国映画として扱われ、輸入制限を受けなくなった。これによって、15年に公開されてスマッシュヒットした『20歳よ、もう一度』のように、韓国の映画会社が出資した作品も目立っている。

日本映画は、韓国市場への進出も上手くいっていない。昨年、韓国で公開された日本映画の総興行収入は、全体の1.8%の約306億ウォン(約33億円)にしか過ぎない。アニメやヒット作も公開されてはいるが、その規模は小さく、一部のマニア向けのレベルに留まっている。

東アジアにおいては、「文化の壁」は欧米よりも低い。テレビを通じた日本文化への親しみもあるし、そもそも文化的な近接性も高い。しかし、映画においてはこの「メディアの壁」がそびえ立ったままだ。

『君の名は。』は「文化の壁」を簡単に超えられる作品の力がある。ただし、これまでのような配給体制である以上、大ヒットは難しいだろう。

日本の映画マーケットは、今後生じる急激な人口減によって小さくなっていく。残された道は、積極的に海外展開する以外にはない。しかし、映画業界も政府もあまりそこに手を打てていないのが実情だ。産官が連携して「メディアの壁」をいかに下げるか――それが急務である。

※1:各データは、『Box Office Mojo』(http://www.boxofficemojo.com/)を参照。
※2:Q&A: Genki Kawamura "The Hollywood Reporter!" 2010年10月26日(http://www.hollywoodreporter.com/news/qa-genki-kawamura-32504)。

(ライター、リサーチャー 松谷創一郎=答える人)