指揮官は、その小さな体に満ちあふれる自信を隠そうとはしなかった。

「私自身は選手の雰囲気だとかを見たとき、ある程度自分たちのものが出せれば、こういうゲームになる可能性は十分あると思っていた」

 アジアU−19選手権グループリーグ第3戦。日本はカタールを3−0で下し、決勝トーナメント進出を決めた。

 これまでの2試合を1勝1分け(3−0イエメン、0−0イラン)で終えていた日本。勝てばグループC1位での決勝トーナメント進出が決まる一方で、負ければもちろん、0−0、あるいは1−1の引き分けでもグループリーグ突破が難しくなる状況で、勝負の第3戦を迎えた。

 しかも相手は、2年前の前回大会を制しているカタール。言うまでもなく、2022年に開かれる自国開催のW杯へ向けて強化を進め、急速に力を伸ばしている国だ。日本にとっては、かなり厳しい戦いになることが予想された。

 ところが、終わってみれば、日本が3ゴールを奪っての勝利。内容的に見ても、カタールにチャンスらしいチャンスを与えない完勝だった。

 2−0のリードで迎えた後半立ち上がり、攻撃のギアが一段上がったカタールに対し、日本が守備に追われる時間もあったが、90分全体のなかで見れば、それは限られたもの。日本が62分にダメ押しの3点目を決めたあとは、カタールの選手の足も止まり、最後は危なげなく押し切った。

 U−19カタール代表のオスカル・モレノ監督も「最初の失点は(GKとDFの)コンビネーションのミス」と嘆きながらも、完敗を認めるしかなかった。

「誰も負けようと思ってプレーはしていない。だが、2チームが対戦すれば、どちらかしか勝つことはできない。それは論理的に明白。日本のほうが我々よりずっとよかったということだ」

 試合前の予想に照らせば、あまりに意外。拍子抜けしてしまうほどのワンサイドゲームで、日本は1位でのグループリーグ突破をあっさりと決めてしまったのだ。

 そこでU−19日本代表を率いる内山篤監督に、これほど楽な試合展開になることを予想していたか、と尋ねたところ、返ってきたのが冒頭のコメントである。

 正直なところ、「スコアのうえでは楽勝だったが、相手も力があり、厳しい戦いだった。実際はそんなに楽な試合ではなかった」といったくらいの答えが返ってくるだろうと想像していた。特に公式会見の場では、本心はさておき、相手を立てておくのが一般的だからだ。

 しかし、内山監督は「こうなる可能性は十分あると思っていた」と言い切った。要するに、自分たちの力さえ出せれば、前回王者と言えども負ける相手ではなかった、と。

 日本はU−20W杯出場を、2007年大会を最後に4大会連続で逃している。当初は衝撃的だった出来事も、今では当たり前のことになりつつある。

 その雰囲気は当然、選手たちにも伝わる。

 彼らにしても世界大会に出たいとは思っているだろうが、先輩たちの成功体験を見聞きすることのない分、「出て当たり前」、あるいは「出なければいけない」の感覚は得られにくい。それどころか、「出られなくても仕方がない」という意識さえ生まれかねない。少なからず自信を持てず、自分たちが出場権を勝ち取ることに半信半疑になったとしても不思議はないだろう。

 だからこそ、指揮官の自信が頼もしい。

 もちろん過信は禁物だが、相手を分析したうえで対策を講じ、それができれば十分勝てると選手に自信を植えつけていく。その結果が2勝1分けでのグループリーグ首位通過である。

 今回のカタール戦に関して言えば、相手センターバック(5番のDFバッサム・アルラウィ)からのロングフィードをいかに防ぐかが、キーポイントだった。

 育成年代にスペイン人スタッフを揃え、個々のテクニックとパスワークの強化が目立つカタールだが、その反面、このチームは最終ラインから放たれるロングボール一発で、前線のスピードを生かすシンプルな攻撃も大きな武器。日本はこれに細心の注意を払った。センターバックを務めるDF冨安健洋(アビスパ福岡)が語る。

「カタールの分析ビデオを見て、5番からのロングボールが(カタールの攻撃の)特徴だと聞いていたので、そこはしっかりと注意した。相手がロングボールを蹴るモーションに入ったら、先に(ボールの行方を)予測して下がること。でも、ズルズル下がるのではなく、このチームのコンセプトであるコンパクトを保ちながら対応することを意識していた」

「相手はかなり質の高いボールを蹴ってきたし、FWもスピードがあったので、つながれるより、ロングボールのほうが怖かった」と冨安。カタールの脅威を素直に認めつつも、「チーム全員で(やるべきことを)やろう。そして、自信を持って戦おうと、みんなで話をしていた。しっかり自信を持って戦った結果が、この結果ではないのかなと思う」と話し、自ら貴重な3点目のゴールも叩き出したセンターバックは胸を張った。

 過去4大会、日本はすべて準々決勝で敗れ、準決勝進出の4カ国に与えられるU−20W杯への出場権を逃してきた。だが、結果として準々決勝敗退ではあっても、グループリーグの段階からおぼつかない戦いが目につくことは少なくなかった。つまりは、起こるべくして起きた準々決勝敗退でもあったのである。

 しかし、今回は違う。3試合で6得点、無失点。グループリーグを通して、攻守に落ち着いた試合運びが目立つ。例えば、3大会前の宇佐美貴史や、前回大会の南野拓実のような、際立った存在の選手がいるわけではないが、特徴の異なる選手が互いのよさを引き出し合い、うまくチームとしてかみ合っている印象だ。

 グループリーグ第3戦から中3日の10月24日、いよいよ勝負の準々決勝である。

 相手はグループD2位のタジキスタン。勝てば5大会ぶりとなるU−20W杯出場が決まる。小柄な指揮官が強い決意を語る。

「コンパクトに攻守していくこと、そしてプレーの精度を高めることによって、相手(の特徴)も消しながら勝機を見いだす。それが、一番難しい次のゲームのハードルを越えることにつながる。選手のコンディションを整えて、しっかりしたパフォーマンスを出せるようにしていきたい」

 世界行きのキップを逃した過去4大会との比較で言えば、日本は間違いなく最高の状態、雰囲気で大一番を迎えられる。

 負の歴史にピリオドを打つ準備は整った。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki