連載「ドキュメント 妻ががんになったら」が書籍化されました!『娘はまだ6歳、妻が乳がんになった』(プレジデント社刊)

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■がんのことを話しても話さなくてもストレスがある

9月20日、フリーアナウンサーの小林麻央さんが、ブログで自身のがん進行状況を明らかにしたのは、すでに多くの人が知っていることでしょう。その日以降、ブログのネタが毎日ネットの記事になるほど注目を浴びており、励みになっているがん闘病者もかなりいます。その反響に対して、麻央さんも「苦しいのは私ひとりではないんだ。」とブログに書いており、頑張ろうと力が湧いてくるみたいです。

がんの進行状況が深刻であるにもかかわらずブログで明らかにし、自分の姿まで載せる麻央さんを、多くの人が応援しています。麻央さんの場合、夫の海老蔵さんをはじめ、身内も献身的なサポートをしてくれるので、それに応えるためにも、がんと対峙する覚悟がよりできたのだと思います。この点においては、ベストな状態で闘病生活を送ることができているといえますが、それでも、ここまで強くなれるのは、ふたりのお子さんに対する思いが強いからだと思います。

ただ、がんの進行状況を明らかにすると、邪推する人も出てきます。そのため、かなり勇気がいることといってもいいでしょう。私の妻の場合、もうすぐ亡くなる人のことのように噂されたことがありました。「お金に困っているのなら離婚したほうがいい」と勧めた人もいます。このようにがんであることを周りの人に話すのは、リスクを伴うのです。一部の人に話しただけでも、このようなことをいわれてしまうのですから、麻央さん、海老蔵さんがいかに大変な目に遭っているかは、想像ができます。

逆に、妻ががんであることを隠していたため、娘の習い事で「協力的でないママ」と見なされたこともありました。一部のママから憎まれたため、しかたなくがんで急に体調が悪くなる日もあることを話しました。一応、理解してくれたみたいなのですが、逆に腫物に触るような扱いといったらいいのでしょうか……これからどうしたらいいのか、わからない状態です。がん闘病者の子どもは、保護者のサポートが大変な習い事は避けるべき、といっても過言ではないくらいです。かなりのストレスになり、病状が悪化するからです。

■麻央さん、海老蔵さん夫婦はレアなケースか

麻央さんのがんと対峙する姿はがん闘病者の励みになるだけでなく、乳がん検診を受ける人の増加にもつながっていると思います。夫婦で人間ドックを受診し、健康を心がけるようになった人も多いかと思います。そして、夫婦のどちらかががん闘病になってしまった場合、麻央さんと海老蔵さん夫婦のようにがんと対峙していけたら、と考える夫婦も多いのではないでしょうか。ただ、麻央さん、海老蔵さん夫婦に近づくのは、かなり難しいと思います。

夫婦愛が強くなければ、どちらかががんになった場合、闘病もサポートもうまくいきません。お金がかかり、精神的に追い詰められることが多いからです。サポートする人のなかには、「わが家がやすらぎの場でなくなった」と感じる人もいます。闘病生活を送るほうもパートナーの愛が感じられないサポートでは、不満、不安が募るばかりです。闘病だけでも大変なのに、これでは生き地獄のようなものです。実際、夫婦のどちらかががんになると、夫婦の関係も悪くなるのは、決してめずらしいことではありません。ですから、夫婦で健康に気をつけるだけでなく、夫婦の愛を築いていくことも忘れてはならないと思うのです。

私の場合、妻とは見慣れた近所を散歩するのも楽しく、そんな妻と結婚できたのは幸せだと思っていますが、それでも限界を感じることがあります。ときには妻に対して、心ない発言をしてしまうこともあります。

批判を承知で書かせてもらうと、娘は私や妻のようなリスクを負わないよう、結婚をしてほしくないと思っているくらいです。若い頃からひとりで生きていく覚悟を決め、生涯の仕事を見つけて健康に気を使いながら生きていくほうが幸せに思えるからです。悲しい考え方ですが、娘を愛すからこそ、そう思わずにはいられないのです。

私のことを「ダメ夫ではない」といってくれるやさしい人は少なくないのですが、このことだけでも、どれほど私がダメ夫なのか、わかっていただけるかと思います。揺るぎない夫婦愛がないと、闘病者もサポートするほうも、がんと対峙するのは難しいのです。

■がん闘病者とその家族は、ときには現実を見てほしい

家族ががんになると、がん闘病記を読む人は多いと思います。なかには前向きになれるものだけを読みたがる人も少なくありません。ただ、前向きなだけでは、がんと対峙することはできません。現実逃避につながることも少なくありません。

きちんとがんと対峙するには、現実に叩きのめされながらも立ち上がり、現実を受け入れながらも、前向きになる方法を必死で模索すべきだと思っています。実際、がん治療専門の医者で、「前向きな人ほど検査の結果が悪いと落ち込みやすい人が多く、治療がうまくいかなくなることがある」といったようなことをいう人もいるくらいです。長期戦になりやすいがんと闘うには、まずは現実を見据え、時には後ろ向きな気持ちになってもいいから、持久力をつけていくことが大切なのです。

私の妻の場合、主治医から「治るとは思わないでください」といわれていますが、いい加減にがんと対峙しているところもあります。できるだけストレスをためないように、夜更かしを楽しむこともあり、好きな発泡酒(お金に余裕があれば、ビールを飲ませてあげたいのですが)を毎日のように飲んでいます。甘いものや脂っこいものを食べることもめずらしくありません。治ることはないため、ある意味あきらめなければならないため、できるだけ長く生きるには、これくらい肩の力を抜かないと、やっていられないからです。このことについて、私もあまりうるさくいうことはありません。

「最悪の顔つき」といわれるリンパ節転移の乳がんが見つかったのが5年半前、肝臓に転移したのが4年前ということを考えると、よく頑張ってくれていると思います。抗がん剤の副作用で体調が悪くなることもありますが、肩の力の抜き方がいいためか、ほぼ普通の人と同じような日常生活を送っています。月曜日と火曜日は朝9時から昼の3時まで働いているくらいです。

妻の闘病がいいとは決していえないでしょうが、がんで闘病しているからといって、日々が色あせるようでは、生きる気力がなくなってしまいます。ですから、たまには自分がしたいように過ごしてみるのもいいかと思います。麻央さんはまじめで忍耐強い人だと思いますし、現実を見据え、十分にがんと対峙できているため、ときには不摂生をしてでも、心から楽しいと思えるひと時を過ごしてほしいような気がします。無責任な意見なのかもしれませんが、十分に頑張っているからこそ、その権利があるように思えてならないのです。

(ジャーナリスト 桃山透=文)