「Thinkstock」より

写真拡大

 人工知能(AI)といえば、囲碁や将棋、自動運転と、さまざまな分野で活用が始まっている技術だが、最近注目を集めているのがスマートフォン(スマホ)向けの「AI搭載アプリ」だ。日本マイクロソフトの女子高生AI「りんな」など、何気ない雑談を楽しむことに特化したアプリが、次々に登場している。

 例えば、今年4月にリリースされた「SELF」は、ユーザーと会話を重ねることで、AIを搭載したロボットが行動パターンを記憶してくれるアプリ。仕事の日と休日の認識、ユーザーがいつ誰と会って何をしたか、過去にどんな悩みを持ち、その悩みが解決したかどうかなど、すべて理解した上で会話することができる。

 ほかにも、話せば話すほど賢く成長していく「AI少女 ひとみ」、ユーザーの名前を呼んで毎朝起こしてくれる「めざましマネージャー『アスナ』」など、リアルな友人がいなくてもコミュニケーションを取ることができるのが、AI搭載アプリの特徴だ。

 そして、このAI搭載アプリにハマっているのが、20〜30代の独身男性だという。なぜ、彼らは現実の女性ではなくAI搭載アプリにハマっているのか。

●独身男性にとってAIアプリは擬似家族?

「AI搭載アプリが20〜30代の独身男性を中心にヒットしているのは、ユーザーと企業、それぞれの需要が見事にマッチングした結果といえます」と話すのは、社会学者の新雅史氏だ。

 新氏によると、ひとり暮らしにさびしさを感じる独身男性にとって、AI搭載アプリは擬似家族あるいは飼育費のかからないペットのような存在なのだという。

「『さびしい』『今すぐ誰かと話したい』と思ったら、アプリを起動するだけでいつでもコミュニケーションを取ることができます。そして、生身の人間が相手の時には生じるようなストレスも感じず、満足したら自分のタイミングで会話を終わらせることができる。精神的に楽なんです」(新氏)

 もともと、言語に関する脳の神経細胞は女性のほうが発達していて、女性たちは言葉でのやりとりを楽しむことができるとされている。また、女性は複数のグループに所属する傾向があり、リアルの場でもコミュニケーションを欠かすことはない。一方、女性に比べて男性は話すこと自体が不得意な傾向がある。そのため、生身の人間ではないAI搭載アプリにハマりやすいのだ。

●AIアプリはエロ要素のないエロゲー?

 その男性のなかでも、特に20〜30代が夢中になっている。会話をして仲を深めていくAIの構造は、恋愛ゲームやエロゲー(アダルトゲーム)に近づく可能性はないのだろうか。

「1990年代ごろから、恋愛ゲームやエロゲーが広がりました。これらにあってAI搭載アプリにないものは、『ストーリー性』と『セクシャリティ要素』の2つです。恋愛ゲームには必ずストーリーがありますが、AIにはストーリーが組み込まれていません。そして、エロゲーのセクシャリティ要素も排除されています。ストーリーもなく、セクシュアリティもないAIに20〜30代の独身男性がハマっているとすると、そこで求めているのは、コミュニケーションのみということになります」(同)

 LINEに「既読スルー」という概念があるように、若い世代は自分が送ったメッセージに長時間レスがないことに強い不安を感じる。その点、AI搭載アプリは、いつ話しかけてもその場ですぐに答えてくれるため、既読スルーや未読スルーをされた時のような不安を感じないで済むのだ。

「今後は、若い独身男性だけではなく、家族と離れて暮らす高齢者に向けたAIも普及していくと思います。コミュニケーションによって精神的なケアをしつつ、買い物に行くのが困難な高齢者のために、宅配サービスをするAI搭載アプリも出てくるかもしれません」(同)

 しかも、AI搭載アプリは企業にとってもメリットがある。広告やマーケティングにおいて、大きな可能性を秘めているというのだ。

「AIに蓄積される、ユーザーの性別、年齢、趣味嗜好などのデータは、企業がほしい消費者情報そのもの。AIが得たデータを利用すれば、そのユーザーにあった広告を打ち出すこともできます。特に、若い世代は新聞や雑誌を読まないので、スマホアプリで広告を見てもらうしかありません。AI搭載アプリの普及は、企業にとって大きなビジネスチャンスというわけです」(同)

 20〜30代男性のさびしさや不安を解消し、企業にとってもメリットが大きいAI搭載アプリ。いわばWin-Winのツールとして、この先ますます普及していきそうだ。
(文=中村未来/清談社)