快適な眠りは「時間」と「質(深さ)」の掛け算で決まる(shutterstock.com)

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 秋は人生の春! 隣人も誰も彼も彼女も、腹がよく減るのでメシがうまい。酒も肴も深く丸い。温冷爽快、気力が揚がる。汗もよし、読書もよし、旅もよし、恋もよし。とりわけ、グッスリと眠れる夜長はありがたい。

 『常用字解』(白川静)によると、睡眠の「睡」は眠くなって瞼(まぶた)が垂れている状態、「眠」は眼晴(ひとみ)を突き刺されて視力を失った人という意味だ。『Online Etymonline Dictionary』をひも解くと、英語の「sleep」は印欧祖語の「sleb(弱い、眠る)」に由来するとある。

 文豪トルストイは「食後の睡眠は銀、食前の睡眠は金」と悦びつつ、ロシアの儚い秋を愛した。ダライ・ラマ14世は、男が秋波(女の色目)に惑わされないように「睡眠は最高の瞑想」と冷徹な眠りを薦めた。まさに快食・快通・快眠は健康の黄金律だ。

 しかし、好事魔多し。秋の夜長を愉しめない不眠症の人が後を絶たない。何ともったいない話ではないか!

5人に1人が不眠症!女性が男性よりも40%以上も多い

 なかなか寝つけない。何度も目が覚める。朝は眠くて起きられない。仕事が捗らない。不眠ストレスで食欲もない。不眠症で悩む人が多い......。

 米国内科医学会の調査(2016年)によれば、成人の有病率は6〜10%。経済的コストは、およそ300〜1070億ドル(3兆〜10兆9800万円)と膨大だ。王立豪州総合医学会の調査(2015年)でも、有病率11〜33%と極めて高い。

 厚⽣労働科学研究班と⽇本睡眠学会ワーキンググループが行った疫学調査(2013年)によれば、5人に1人が「睡眠で休養が取れない」と回答。有病率は、入眠困難が9.8%、中途覚醒が7.1%、早朝覚醒が6.7%。不眠症は女性が男性よりも40%以上も多い。

 小児期や青年期は少ないが、20〜30歳代から中年以降が急増、40〜50歳代でピークに達する。

 寝つきの悪い入眠障害、眠りが浅く何度も目が覚める中途覚醒、早朝に目が覚める早朝覚醒、ぐっすり眠った満足感がない熟眠障害が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感、意欲や集中力の低下、食欲減退、抑うつ、頭重、目まいなどを伴う睡眠障害、それが不眠症だ。

 原因は、過剰なストレスをはじめ、高血圧、心臓病、腎臓病、咳、前立腺肥大(頻尿)、糖尿病、関節リウマチ、アレルギー疾患、脳出血、脳梗塞、うつ病などの心身疾患のほか、降圧剤、甲状腺製剤、抗がん剤、抗ヒスタミン薬、コーヒーや紅茶などに含まれるカフェイン、たばこに含まれるニコチンの副作用など、実に複合的な要因が絡むため、特定は困難だ。

 さらに、不眠症が続けば続くほど、不眠恐怖が生じ、緊張や睡眠へのこだわりが強まるため、さらに不眠が悪化し、QOL(生活の質)が低下する悪循環に陥る。

快眠は「睡眠時間」と「睡眠の質(深さ)」の掛け算で決まる

 不眠症の問題点は何だろう?

 日本人の平均睡眠時間は7時間程度だが、睡眠時間は個人差がある。健康な人でも加齢に伴って中途覚醒や早朝覚醒が増える。不眠症は不眠そのものだけではなく、日中に不調が出るのが問題だ。短い睡眠時間や目覚め回数だけにこだわり過ぎてはいけない。

 長く眠っても睡眠の質(深さ)が悪ければ、疲労は回復しない。グッスリと眠り、自然に目が覚め、疲れが残らないなら、睡眠時間は短くてもいい。何よりも睡眠の質(深さ)が大切。つまり、快眠は、睡眠時間と睡眠の質(深さ)の掛け算で決まるのだ。

不眠症対処法8つのポイント

 では、自律神経を安定させ、睡眠の質(深さ)を高める、不眠症への対処法を整理しよう。たまきクリニックの玉木優子院長によると8つの対処法があるという。

 第1に、就寝・起床時間を一定にする。睡眠覚醒は体内時計が調整しているので、週末の夜ふかし、休日の朝寝坊、昼寝のし過ぎは体内時計を乱しやすい。平日・週末を問わず、同じ時刻に就寝・起床する習慣を身につけよう。

 第2に、睡眠時間にこだわらない。8時間は眠らなければなどのプレッシャーをもたない。眠気がなければ、寝床から出る。日中に眠気があれば、午後3時前までに30分以内の昼寝をしよう。

 第3に、太陽光を浴びる。太陽光は体内時計を調整する働きがあるため、浴びた14時間後に眠気が生じる。つまり、早朝に光を浴びれば、就寝時間が早まるので、朝早く起きられる。早寝早起きではなく、早起早寝をめざそう。

 第4に、適度の運動を続ける。適度の肉体的な疲労は、心地よい眠りにつながる。午前よりも午後に軽く汗ばむ程度の運動をしよう。散歩、ジョギング、ストレッチなどの軽めの有酸素運動を長時間、続ければ効果的。「4秒かけて吸う、8秒かけて吐く」深くゆったりした腹式呼吸を心がけよう。

 第5に、自分だけのストレス解消法を見つける。好きな音楽を聴く、読みたい本を読む、スポーツや旅行を楽しむ。自分ならではの趣味や道楽を見つければ、ストレスと上手につきあえるだろう。

 第6に、就寝前にリラックスタイムを作る。ぬるめのお湯にゆっくり浸かる、好きな音楽や読書などでリラックスしよう。半身浴は副交感神経が優位になり、睡眠の質がアップする。温めたタオルを首に当てて緊張を緩めたり、締め付けないゆったりしたパジャマも大切だ。

 第7に、寝酒は禁物。寝酒をすると、飲酒後は深い睡眠が減るので、早朝覚醒が増える。お酒は、食事の時に楽しもう。食事は、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を摂り、腸内環境を整えよう。

 第8に、快適な寝室をコーディネートする。自分の感性や嗜好に合ったベッド、布団、枕、照明を選ぼう。快眠の適温は20℃前後、湿度は40%〜70%が目安だ。
※参考(https://www.ishamachi.com/?p=2280)

睡眠薬は医師の指導を受けて適切な使用を

 以上は不眠症の悪循環を断つ処方箋だ。

 しかし、実行しても不眠症が改善できない時や、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、周期性四肢運動障害、うつ病による不眠症や過眠症が疑われる場合は、専門医の検査と診断が必要だ。睡眠医療認定医や精神科医に必ず相談しよう。

 最後に睡眠薬についての注意を。現在の不眠治療は、睡眠薬を処方する薬物療法が主流だ。睡眠薬は、不安、緊張、興奮を和らげ、自然な眠りに導く効果が高く、副作用も少ない。

 ただし、アレルギー薬の副作用(眠気)を利用した市販薬は、ドラッグストアで購入できるが、不眠症に対する治療効果は未確定のため、医師の指導を受けて適切に使用してほしい。

 秋の夜長だ。グッスリと眠ろう!
(文=編集部)