金正恩氏

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北朝鮮が、情勢の緊張を理由に国民に対する統制を強化している模様だ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が19日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市在住の情報筋の話として伝えたところでは、保安署(警察署)が16日に地域住民を対象に開いた講演などを通じ、「外国勢力の侵攻より恐ろしいのが内部の反共和国勢力である。社会主義制度をけなす些細な言動も反共和国の敵対行為と見なし、厳罰に処すと宣言した」という。

ここで言う「厳罰」に、「収容所送り」が含まれるのは確実だろう。そしてそこに至るまでには、秘密警察・国家安全保衛部(以下、保衛部)による拷問が行われることになる。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

正恩氏が「笑いもの」に

では、具体的にどのような言動が処罰の対象になるのか。

この消息筋によれば、最も重い罪に問われるのは、中国キャリアの携帯電話による海外との通話だとのことだが、これは以前から厳しく取り締まられてきた。

呆れてしまうのは、食料をはじめとする物価の変動や交通のトラブル、電力難などについて、市場などの公共の場所で話し合うことすら処罰の対象になるということだ。

これらは、北朝鮮の庶民にとって最大の関心事である。物価情報がなければ商売ができないし、電力事情や交通事情は生産と流通に直結する問題だ。国家の情報をあてにせず、市場での商売で生計を立てるようになった北朝鮮の人々にとって、触れずにはいられない情報なのである。

果たして、そんな情報のやり取りまで統制することができるのか。いくら何でも、無理なのではないか――日本で暮らす我々の感覚からすると、このように思える。

しかし、北朝鮮の事情は異なる。デイリーNKジャパンは最近発表したムック『脱北者が明かす北朝鮮』の中で、保衛部元中佐の脱北者、崔見準(チェ・ヒョンジュン)氏のインタビューを行っている。そこで明かされたのは、保衛部が国内に張り巡らせた密告情報網が100万人以上に及ぶという事実だ。

北朝鮮の人口は約2500万人だ。ここから子供や病床の高齢者などを除けば、密告ネットワークが人口に占める「濃度」は5パーセントを超える。そんな中に身を置いている人々は、「いつ密告されるかわからない」と疑心暗鬼になり、物言いが慎重になる。結果的に、当局は国民統制の目的を遂げることになるのである。

ちなみに、密告ネットワークに網羅された人々は、何を目的にそんなものに加わっているかと言えば、決して「思想」や「愛国心」などのためではない。「生き抜く」ためである。泣く子も黙る秘密警察から「手下になれ」と迫られて、拒むことのできる人がどれだけいるだろうか。

一方、権力と癒着し、そこから経済的利益を得ている密告者たちもいる。それとて、「生き抜く」ことが目的であるのに変わりはない。

もっとも、たとえそこまでされても、北朝鮮の人々はもはや、思考まで体制に縛られてはいない。頭の中では、金正恩体制の権威を笑い飛ばすユーモアをたくましく維持している。

今回の統制で「生き抜く」ための商売を邪魔される庶民は、正恩氏への不満をいっそう募らせ、心の中で彼の権威を笑い、思考の自由をさらに広げるに違いないのだ。