みうらじゅん1958年生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、漫画家、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍中。「仏像スクラップ」から生まれた、いとうせいこうとの共著『見仏記』シリーズ(角川文庫)や『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)など著書多数。

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■スクラップとは「編集」である

スクラップを始めたのは小学校1年生のときだから、かれこれ50年になりますね。始まりは「怪獣スクラップ」。当時、発売されたばかりだったコクヨのスクラップ・ブック「ラ-40」に、雑誌や新聞で見つけた怪獣の記事を手当たり次第に切っては貼る毎日でした。その後、「仏像スクラップ」を経て、現在の「エロ・スクラップ」に至るわけですが、文字通り「ラ-40」とともに歩んできた「スクラッパー」人生でしたね。

エロだけでも458巻に達していますが、過去の「作品」を見返すことはありません。1980年代のAVを観ても、もうグッとこないでしょう? ビジネス情報も同じでしょうが、どんどん時間が過ぎるのが早くなっているので、振り返ることにはあまり意味がない。そこはドント・ルック・バックで、自分の琴線に触れた何かを次々と貼りたおしていくのが「スクラッパー」としては気持ちいいわけです。

今思えば、子供の頃から「情報」そのものよりも、自分なりに情報を「編集」したいという思いが強かったんでしょうね。怪獣や仏像をどれだけ好きかという「熱量」を表現するため、売られていた状態とは違うものとしてスクラップ・ブックの見開き2ページにどうレイアウトして見せていくかということだけに心血を注いできました。

当然、熱量は高くなる。でも、見ているほうにとっては、「ツー・マッチ」で辛いんです。初めは友達に見せていましたが、「もう見たくない」と言われるようになって……。それからは、自分編集長、自分レイアウター、自分読者でやってきました。

大事なのは「自分読者」の存在です。好きなものは誰しもありますが、自分が好きなことが、即他人に伝わるほど世の中は甘くない。プレゼンでもそうですが、「自分」が出すぎるとウザいんです。多くの人に思いを伝えるためには、たとえ自分作業であっても「読者」という第三者の目が必要です。伝えたいものが「格好いい」なのか「いやらしい」なのかは別にして、伝えたい主題をより目立たせるようにするのが「編集」という作業。ある意味、「自分」を消していくことなのです。「エロ・スクラップ」でも、常に「どノーマル」でいることを心がけています。

一方で、スクラップを続けていると、自分自身を知ることにもなります。「この娘いいなあ」とグラビアを眺めるだけでなく、切って、貼るという作業をやると「ほんとにこの娘が好きなのか?」とか「ここがこうなっていたほうがもっとグッときたのに」とか、「もう少しローアングルで撮ってほしい」「露出はもっとアンダーのほうがいい」と思い始めます。

そうやって自分の性癖のようなものを突き詰めていくと、今まで漠然と言ってきた「好き」の底の浅さを痛感させられると同時に、自分がほんとうに伝えたいエロの世界観が見えてくるんです。自分のフィルターを通すことで、他人が構成したものには「なかった世界観」が際立ってくるわけですね。

みなさんは仕事で、まったく新しい物事を生み出そうと頭を悩ませていると思いますが、世の中に完全なオリジナルなんてありません。ただし、自分で情報を切り取って、並べて貼ることで化学反応が生まれ、より「ないもの」に近づけることはできる。例えば「プレジデント」に載っている偉い社長の写真とエロ写真を組み合わせたら、相当おもしろいことになりますよね。

「おもしろいこと」は常に違和感から生まれるんです。その違和感を楽しむのが「マイブーム」の原点。世間的な価値はないかもしれないけれど、いつか誤解されたり、世の中が変化したりして、誰かに評価されることがあるかもしれません。「ゆるキャラ」だって、初めは地方自治体から「うちはゆるくない」って抗議が殺到したんです。でも、今では「おもしろい」ということになっている。そうやって価値観は裏返ることがあるんです。それも違和感があればあるほど大きく裏返る。

■貼りたいと思ったときが始めどき

スクラップを始めようと思い立ったら、近くの文具店で「コクヨ ラ-40」を買い占めましょう。「こんなにいるか?」という疑念を打ち消すためにも、まず棚の端から端まで抱えてレジまで運ぶ。買った後、たぶん「しまった」と思うだろうし、しばらくは部屋の隅に放置されたままでしょう。でも、何かの瞬間に「貼りたい」って思いが湧くときがあるんです。たとえ100万分の1の可能性であっても、その瞬間を逃さないために用意しておかなければなりません。

スクラップは見つけ次第、切って、貼るのが原則です。以前、作業がはかどるように、水着の色でファイル分けをしたこともあるのですが、肝心の「カーッ」とくる気持ちが抜けちゃうんです。リアルタイムが大事なんですね。備えあれば憂いなし。防災用品と同じように用意しておきましょう。

「コクヨ ラ-40」と「アラビックヤマト糊L」とハサミ、それから糊を塗るときの下敷きにする不要な雑誌を1冊、いつもカバンに入れて持ち歩き、ノート・パソコン代わりに使うくらいの気持ちでもいいと思います。そして、打ち合わせや会議で配られた資料を、ノート・パソコンにデータを取り込むように、その場でどんどん貼っていく。

ものすごくできる奴と思われるか、ものすごくできない奴と思われるかは知りませんが、目を引くのは間違いありません。パソコン全盛の時代におもむろにスクラップ・ブックを開いて、しかも、その場でじゃんじゃん貼っていくわけですからね。特にスクラップ経験のある年配のクライアントや上司には確実に受けますよ。プレゼンだって企画会議だって基本は「接待」。相手を喜ばせてなんぼですから、ぜひチャレンジしてみてください。「何冊ぐらいやっているの」と聞かれたとき、2、3冊では熱量が不足するので、堂々と「もう100冊です」と言えるように、背表紙に書く巻数は「101」から始めるといいでしょう。

(田端広英=構成 市来朋久=撮影)