前戦のマレーシアGPでは、2台とも10位以内でポイントを獲得するも、鈴鹿ではアロンソ16位、バトン18位という昨年を下回る散々な結果に

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トップを交代し、着実にポイントを重ね、満を持して臨んだ2年目の鈴鹿での戦い。その結果は予想外の厳しいものだった…。

しかしなぜ、よりによって鈴鹿の日本GPで満足な走りを披露できなかったのか? 「世界屈指のサーキット」と評される鈴鹿。そこで見えた「惨敗の理由」を徹底分析した!

■誰もが予想外だった悪夢のような惨敗

「惨敗ですね…。今シーズンで最悪の内容です。個人的にもガッカリしていますし、ファンの皆さん、ホンダの皆さん、そしてチームで頑張ってくれているみんなに対しても、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…」

日曜日の決勝レース後、三重県・鈴鹿サーキットのパドックで取材陣に囲まれるホンダのF1プロジェクト総責任者・長谷川祐介氏の表情は暗く、厳しかった。

無理もない。今年2年目のシーズンを戦う新生マクラーレン・ホンダにとって、その「進化」と「真価」を披露するはずだった地元・鈴鹿でのF1日本GP(グランプリ)で、まさかの大苦戦。目標としていた2台そろっての入賞&ポイント獲得どころか、フェルナンド・アロンソが完走22台中16位、ジェンソン・バトンが18位という、文字どおりの惨敗に終わってしまったのである。

ちなみに、ホンダ製パワーユニット(PU)の非力さにブチ切れたアロンソが、レース中の無線で「GP2(ジーピーツー・F1の下部カテゴリー)エンジン! GP2エンジン!」と叫んだ去年の日本GPですら、アロンソは11位完走を果たしている。

単純にリザルトだけを見れば「昨年以下」。この結果には、これまで第4期ホンダF1に辛口な批判を続けてきた週プレですら、一瞬、言葉を失うほどガックリしてしまった…(涙)。

「今回の日本GPは久しぶりにホンダを褒める記事が書けるかなあ…」。実を言えば、鈴鹿へと向かう新幹線の中でそんなことを考えていた。

開幕戦のメルボルンで長谷川氏が語っていた、「予選ではトップ10圏内を、レースではコンスタントにポイント獲得を争えるようになりたい」という今季の現実的な目標が、ここまでのシーズンで着実に達成されていると感じていたからだ。

鈴鹿前の第16戦マレーシアGPを終えた段階で、アロンソはモナコでの5位入賞を筆頭に6位1回(ロシア)、7位4回(ハンガリー、ベルギー、シンガポール、マレーシア)と6戦でポイントを獲得。

一方、チームメイトのバトンも6位1回(オーストリア)、8位1回(ドイツ)、9位3回(スペイン、モナコ、マレーシア)、10位1回(ロシア)と6戦で入賞している。ちなみに、第2戦のバーレーンGPを欠場したアロンソの代役として出走したS(ストフェル)・バンドーンの10位入賞も含めれば入賞は計13回となる。

また予選でも上位10台で争うQ3に、ここまでアロンソが6回、バトンが4回進出を果たしていて、依然メルセデス、フェラーリ、レッドブルのトップ3との差は大きいものの、見るも無残な状況だった昨年と比べれば飛躍的な進歩を見せていたのだ。

なかでも印象的だったのが日本GPの1週間前、前戦マレーシアGPで見せたアロンソの鮮烈な走りだろう。

エンジン交換によるペナルティを受け、最後尾グリッドからのレースとなったアロンソはスタート直後の1周目に10台をごぼう抜き! その後も力強い走りで7位入賞を果たし、9位でフィニッシュしたバトンと共に、マクラーレン・ホンダの進化を多くのファンに強く印象づけた。

 

■惨敗の原因はPUじゃなく車体?

そんなわけで、事前の期待が思いっきり膨らんでいた今年の鈴鹿…。ところが、フタを開けてみればマクラーレン・ホンダは予選からドツボにハマり、Q3進出どころかバトンは予選Q1で敗退、アロンソも昨年の14位を下回る15番グリッドがやっとというありさまに終わった。

決勝レースに至っても、「アクシデントも、レース戦略上の駆け引きもまったくなく、なんの波乱もなく、ただそのままなすすべもなく下位に終わってしまった」(長谷川氏)のである。

この惨敗の原因はなんなのか? 長谷川氏は「マシンはシャシー(車体)とPUの一体で評価すべきもので、どちらが悪いという問題ではない」と明言を避けるが、鈴鹿での惨敗に関していえば、その主な要因はホンダのPUではなく、むしろマクラーレン側の「車体」にあるといえそうだ。

今回の日本GPで、ふたりのドライバーが声をそろえて訴えていたのがマクラーレン・ホンダのマシンと鈴鹿サーキットのコース特性の「マッチングの悪さ」だった。

多くのドライバーが「世界一のサーキット」と称賛する鈴鹿は、高いスピードを維持しながら連続するコーナーをリズミカルに的確なラインでクリアすることが求められるF1屈指の難コース。なかでも1、2コーナーからS字へと続く前半のセクションはその典型で、当然、マシンにも高いレベルの総合力が求められることになる。

その鈴鹿で今年、マクラーレン・ホンダのドライバーたちを悩ませたのが、深刻な「タイヤグリップの不足」。連続するコーナーでマシンが安定せず、立ち上がりで「アクセルを思いっきり踏めない」状況がラップタイムに大きく影響している可能性が高いのだ。

「事前に行なったコンピューターシミュレーションよりもラップタイムは悪いですね。それが、この週末のマシンセッティングの問題なのか、それとも車体そのものに起因する問題なのかはわからないのですが、いずれにせよグリップが不足して(アクセルが)踏めていないのは事実。特にS字で大きくタイムを失っています」(長谷川氏)

もちろん、長谷川氏が「今も我々の一番のウイークポイントがエンジンパワーであることは否定しません」と認めるように、ホンダのPUがメルセデスやフェラーリといったライバルと同じレベルに達していないのは事実だろう。しかし、コーナーでマシンの挙動が安定せず、ドライバーが思い切ってアクセルを踏めなければ、PUが持つ本来のパワーを生かし切ることはできない。

ドライバーふたりの「グリップ不足」「ダウンフォース不足」を訴えるコメントを聞く限り、今回の鈴鹿の惨敗は、ホンダのPUのパワー不足というよりも、マクラーレンの車体の持つ「弱点」が露呈してしまった。あるいは、重大なマシンセッティングの失敗があったと考えるほうが自然なのだ。

「去年はホンダ製PUの出来があまりにもひどかったせいで目立たなかったが、現実にはマクラーレンの車体もトップレベルとは言い難い」と語るのは、某チームの関係者だ。

「ホンダがわずか1年足らずで見せた進歩には正直、我々も驚いているんだ。特に今シーズンの初めにプロジェクトの責任者が代わってからは開発のスピードが劇的に上がり、成果も着実に出ていると思う。

ただし、このスズカはマシンの高い空力性能とサスペンションの生み出すメカニカルグリップが極めて高い次元でバランスする必要がある。今回のマクラーレンのマシンは、その部分でだいぶ苦しんでいたように見えたね」(某チーム関係者)

ああ、なんてこった(涙)。「GP2エンジン!」とあきれられた去年とは違い、今季はなんとかホンダのPUが「まともに戦える」レベルの戦闘力を手に入れたと思ったのに、今度は逆にマクラーレン側の車体が抱える深刻な課題が浮き彫りになってきたということなのか?

しかも、よりによってその「課題」がホームグラウンドの鈴鹿で露呈しなくたっていいのになぁ…と、思ってしまうのが人情だが、鈴鹿がドライビングテクニックとマシンの総合力を問われる「世界一のサーキット」だからこそ、浮かび上がってきた課題だといえるだろう。

■結果は去年以下でも見える景色は違う!

このように、結果だけを見れば「ガッカリ」としか言いようのないマクラーレン・ホンダ、2年目の日本GP。

しかし、それでも去年の日本GP直後に比べれば、取材を終えた今の気分ははるかに「ポジティブ」だ。なぜなら結果は去年以下でも、その先に見える「景色」が、去年とはまるで違うと感じることができたからだ。

率直に言って去年の今頃、マクラーレン・ホンダの未来には何も希望を感じられなかった…。

前任の「総責任者」は、口を開けば非現実的な威勢のいいコメントばかりで、周囲の期待とコース上の現実のギャップは開くばかり…。去年の日本GPの頃には「ホンダの何を信じ、何に期待すればいいのか誰もわからない」という状態になっていた。

もちろん、我々プレスにデタラメを語るのは勝手だが、そこにはホンダを応援してくれる熱心なファンたちへの敬意すらなく、結果、ホンダのF1活動は正直「信頼」も「尊敬」も、その先につながる「希望」も失いかけていた…。

だが、長谷川氏を総責任者に迎えた今年のホンダはすべての意味ではるかに地に足が着いている。開幕戦以来、常に自分たちの実力や相対的なポジションを冷静に見極め、現実的な目標を一歩ずつクリアしていく姿に、ホンダのファンは安心して自分たちの思いを乗せることができる。

だからこそ、今回の日本GPのように大きくつまずくことがあっても、彼らが直面する課題やそれを乗り越えるための苦しみを(可能な範囲で構わないから)率直な言葉で語ってくれるなら、ファンはたった1戦の結果で簡単に「失望」したりはしない

ファンだけではない。今回、日本GPの現場で海外のメディアやF1関係者たちと話していても、ライバルチームやパドックの「ホンダ」に対する視線が去年と比べて、確実に「信頼」や「尊敬」を取り戻していると感じた。

だから、ホンダのスタッフはもちろん、それを見守るファンもまた、今回の「日本GPの惨敗」を乗り越え「前を向いて」いいと思う。

もちろん、この先、マクラーレンと共に戦う第4期ホンダF1が優勝を争えるような本当の「トップチーム」になれる保証はないし、ホンダだけでなく、マクラーレンの車体部門にも頑張ってもらう必要があることが、今回の鈴鹿であらためてハッキリした

ちなみに、来季は車体のレギュレーションも大きく変わり、PU開発の制限も大幅に緩和されることになる。果たしてマクラーレン・ホンダはこの「変化」をチャンスに生かすことができるのか?

あ、まずはその前に、今季の残り4戦で鈴鹿の惨敗を帳消しにするような胸躍る戦いを見せてほしいなぁ…。

(取材・文/川喜田 研 撮影/池之平昌信)