「日本はいいゲームをした。前半は戦術コンセプトで完全に試合を支配し、満点に近い。ラインをコンパクトに保ち、距離感がよく、相互関係を作っていた。そして攻撃のスピードと深さも文句なしだった」

 ミケル・エチャリは、日本が敵地に乗り込んだオーストラリア戦を称揚(しょうよう)している。

 エチャリはレアル・ソシエダ、エイバル、アラベスなどで強化や育成やスカウトを歴任。プレミアリーグ、ウェスト・ブロムウィッチでスカウトを担当した経験もある。客観的で精緻な観察力は、欧州のトップレベルで高く評価されている。

「完璧すぎる」ともいわれる慧眼(けいがん)が見抜いた、日本代表のオーストラリア戦の真実とは――。

「すばらしいタクティクスゲームだった。前半30分まで、日本はオーストラリアに危険なゾーンへの侵入すら許していない。中盤の長谷部誠、山口蛍を中心に、選手たちがそれぞれゴムでつながれたように引っ張り合い、それぞれが補完し合い、ポジション的優位を作っていた。トレーニングの賜物だろう。各ラインがソリッドなブロックを作り、オーストラリアになにもさせなかった。

 4−2−3−1の布陣(オーストラリアは4−4−2で中盤はダイヤ型)で、トップの本田圭佑はCB同士のパス交換を遮断。トップ下の香川真司はアンカーの選手をフタし、原口元気、小林悠の2人はサイドバックをはめ込んでいる。原口と小林はサイドよりやや内側にポジションを取りながら(攻撃時は大きくサイドに展開も)、インターセプトも同時に狙っていた」

 前半5分の先制点は、戦術の結晶だった。原口が自陣内でパスカットに成功し、長谷部に渡した後、長谷部は前線の本田に縦パスを素早く打ち込み、本田はそれをダイレクトで原口に流し、持ち込んだ原口は冷静に逆サイドに流し込んだ。

「『教科書に載っているようなカウンター』に成功している。オーストラリアの右サイドバックはパスを受けるために上がっており、原口は完全にフリーだった。日本の戦術的プレッシングが機能し、守から攻のトランジションも抜群。刻々と起きる変化によって生み出されるピッチの混乱を、秩序正しく使うことができた。数少ないタッチから目も眩むスピードでゴールを決め、監督学校のテキストにそのまま使えるだろう。

 もっとも、オーストラリアは少々無垢だった。パスの出しどころのないなか、無理に狙わず、CBのいずれかが持ち上がって、日本の守備に混乱を生み出していたら......。打開策に消極的。戦術的な動きはできていなかった」

 エチャリは冷静に得点シーンを分析した。スペインの慧眼が注目したのは、本田と小林の役割だった。

「本田は抜け目なくサイドに流れ、パスを引き出していた。オーストラリアのSBは攻撃色が強く、前のめりで、本田は巧みにその裏に回った。そこに原口や小林が連係し、攻撃を生み出した。一方、小林はハイボールの競り合いで重要なパートを担っている。イラク戦でもそうだったが、空中戦に強さを見せ、日本代表では異色の存在だ。終盤には地面に叩きつけるような際どいヘディングシュートも放っている(GKに防がれた)。
 
 本田がサイドに流れ、槙野智章からのパスを前線でキープしたところから、この試合、最高の攻撃が生まれた。本田は自分を追い越していった原口にパス。原口は深いところまでドリブルで進入する。このとき、小林はニアポストに突っ込み、香川が迂回してファーポストで待ち構え、山口蛍が2人の間に入り、本田がペナルティアークの近くで待つ、万全の形ができていた。

 結局、本田の左足のシュートはGKにブロックされたが、論理的にサイドで展開を作り、バランスよく人がゴール前に入った点を、高く評価するべきだろう。小林、香川、山口でディフェンスを釣った巧妙な動き。それは特筆に値するほど、戦術水準が高かった」

 日本はタクティクスで優っていた。ところが後半52分だった。原口がトミ・ユリッチを倒し、PKを与えて同点にされてしまう。

「PKの前に、右SBの酒井高徳が不用意にボールを取りに行ってしまった。これは私に言わせれば、守備者としての原則を破っている。『最後尾のディフェンスは、前線から2人目にいるアタッカーに対し、チャレンジしてはいけない』という鉄則がある。もしチャレンジして自分が空けたポジションを他の選手に使われたら、為す術がないからだ。プレーを遅らせる(他の選手に守らせる)が正解だった。プレーに熱くなると、罠に陥りやすい」

 エチャリは一貫して、透徹した意見を口にする。

「同点にされてからも試合の様相は変わらなかった。日本は敵にボールを持たせ、カウンターで決定機を作っている。交代出場した浅野拓磨は、原口の左からの千載一遇のクロスに合わせられなかった。浅野はスピードを過信しているのか、タイミングが悪い。カウンターチャンスで2度もオフサイドにかかっており、決定的な仕事をするには選手として未熟だろう」

 中立的立場で、一流の見識を持つ人物の意見は興味深い。その意見には、しがらみや好き嫌いがないからだ。

「後半、日本のペースは落ちたが、確実にカウンターを仕掛けた。空中戦の個人の弱さは一朝一夕に解決できないが、この試合では決定的に崩されていない。なにより、ディフェンス全体の安定感が増した。槙野という選手には不安定さを感じたが......。チームとしてトレーニングによる上積みを感じる」

 オーストラリア戦を終えてのエチャリの総括である。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki