表彰状

ムッシュ・タケシ・キタノ

あなたは、大胆で独創的な創造性により生み出した作品で、芸術ジャンルの限界をやすやすと乗り越え、演劇・テレビ・映画・文学などの約束事を変革し、現代のアートシーンに影響を与えてきました。その功績を讃え、ここにフランス政府になりすまして、勲章を授けます。


なお、今回の授章決定に際して、あなたの連絡先として教えられた番号に電話をかけたところ、ゴンゾー・オニガワラというエージェントを名乗る人物が応対し、「(本人は)寝ている」と言われました。それから2時間半ほどして、再び連絡をとると、今度はドン・カヤクダと称する人物が電話に出て、すぐに切られてしまいました。このあと数日にわたり電話がつながらず、一時はあなた本人への連絡を断念することも検討しましたが、何と、あらためて調べたところ、ゴンゾー・オニガワラもドン・カヤクダも、その正体はあなただというではありませんか。何のことはない、私たちはとっくにあなたと連絡がついていたとわかり、安堵した次第です。

それにしても、あなたが本名以外に「ビートたけし」という芸名で日本のテレビでコメディアンとして活躍されていることは存じ上げておりましたが、ほかにも名前があったとは! あなたには一体いくつ名前があるのですか?

さて、今回授けるのは、レジオン・ドヌール勲章のなかでも「オフィシエ」という4等にあたる勲章です。誠に手前味噌ながら、オフィシエはこれまでに元ビートルズのサー・ポール・マッカートニー、また、あなたの国のマエストロ、ムッシュ・セイジ・オザワやムッシュ・リューイチ・サカモトにも贈られた誉れ高いものです。そういえば、サー・ポールはロンドン、オザワはナガノ、サカモトはバルセロナと、いずれもオリンピックの開会式でパフォーマンスを披露していますね。ここはぜひ、4年後のトーキョーのセレモニーでもあなたのパフォーマンスを拝見したいところです。今回の勲章がそれを後押しすることになれば幸甚です。

おっと、失礼いたしました。ジャポンからオフィシエを受章したなかには、あなたが映画に開眼するきっかけとなった「俘虜」の監督であるムッシュ・ナギサ・オーシマがいたことをすっかり忘れておりました。今回、あなたに俳優の才能を見出した名監督と同等の勲章を授けられることを、大変うれしく存じます。

私どもが聞きおよぶところでは、じつのところ、あなたもムッシュ・オーシマも、ジャポンではあまり栄誉に恵まれていないそうですね。いくら年功序列が重視される社会とはいえ、もはや十分なキャリアも実績もあるあなたでさえ、自国のエスタブリッシュメントから正当な評価を得られていないことが、不思議に思えてなりません。ひょっとすると、あなたにしてもオーシマにしても、テレビ出演が多く、そこでのトリックスター的な役回りから、不当に貶められているということはないでしょうか。

あなたの国ではまた、それまで大して評価されてこなかった人物や作品に、ひとたび欧米から権威ある賞などが授与されると、たちまち人々が手のひらを返したように褒め出す傾向が強いとも聞きます。ノーベル賞受賞者ですら、その受賞決定後に文化勲章があわてて贈られるケースが少なくないそうですし、ほかならぬあなたの映画もこの例に漏れなかったとか。あるいは、マンガやアニメも、やはり欧米で人気が出たり評価されたりすることで、ようやく国内で一つの文化として認められるようになったというのも同様でしょう。

今回の授章をきっかけに――というのも僭越ではありますが――タケシ・キタノというアーティストの存在意義が、ジャポン本国においていまいちど顧みられ、相応の評価、栄誉が与えられることを願ってやみません。たとえば今年、ムッシュ・マーティン・スコセッシに授与されたという高松宮殿下記念世界文化賞(まるで競馬のレースのような名前の賞ですが)あたりで、そろそろあなたが選ばれてもおかしくないはずです。というか、この賞にはフジサンケイグループという、あなたが長年にわたり貢献してきたメディアグループが深く関係していることを思えば、いまだに授与されていないのが不可解なほどです。

あなたの国に対し、批判めいた物言いをしてしまったことをお許しください。そもそも私がこのような文章を書こうと思い立ったのは、受賞に際してのあなたのコメントがあまりに鹿爪らしく、硬い印象を受けたからでした。ムッシュ・キタノに子供のころより親しんできたジャポネならおそらく、あなたにはこういうときにこそ、笑い飛ばしてほしかったところではないでしょうか。

余談ながら、Tキョー・ユニバーシティの元総長で、早い時期よりあなたの映画を高く評価してこられたムッシュ・Sヒコ・Hスミは、つい最近、ユキオ・ミシマの名を冠する文学賞を授与されるにあたり、「はた迷惑な話です」と言い放ったそうですね。その上から目線な態度は置くとしても、会見で不勉強な記者たちからの質問をことごとく斬り捨てたと聞いて、ジャポンにもそういう人物がいるのだといささか感服したのを思い出しました(関係ないですが、大柄なムッシュ・Hスミがあなたの「アウトレイジ」シリーズにでもヤクザのボス役で出演したら、さぞ迫力があると思うのですが、いかがでしょう?)。すでに今回の受章について、ムッシュ・キタノにもジャポン国内のメディアから取材依頼が多数寄せられていることでしょうが、ここはぜひ、いつもの「タケシ節」が聴けることを期待しております。

聞くところによると、近年のあなたは、めでたい席に出るたび祝辞と称して、時事ネタや著名人のゴシップをふんだんに盛り込んだブラックジョークを披露しているとか。私のこの拙い文章が、それにならったものであることは言うまでもありません。

もっとも、いざ書き出してはみたものの、発表されたときの反応が気になって、過激と思われる言葉を削ったり、つい持って回った表現を選んでしまったりと、結果的に毒気も何もありゃしない文章になってしまいました。思えば、ネット上では毒舌家を自称して、単に乱暴なだけの言葉を刃物のごとく振り回す輩があとを絶ちません。しかし毒舌とは本来、己の立場や言葉に対する自覚と責任と、他者への十分な気配りと、そして言わずもがな、視点や表現において高いセンスを持ち合せた者にしか許されないものなのではないでしょうか。今回、およばずながらあなたの真似をしてみて、そのことを思い知りました。

と、フランス政府の中の人になりすましたつもりが、いいかげん化けの皮がはがれてきたので、そろそろ締めに入ります。ここまでたいした情報もなく、ギャグとしても滑っている与太話を延々と読まされて、「これだからネットニュースは」とすっかり呆れられている向きもあることでしょう。そんな方々のために、口直しといってはなんですが、じつは私、講談社の現代ビジネスというサイトで目下「ビートたけしが演じた戦後ニッポン」と題する連載を進めているところです。ちょうど本日、その最新回(第4回)が公開されたことですし、お読みいただけるとありがたいです。なおバックナンバー(下記リンク参照)が閲覧できるのは、恐れ入りますが、有料会員限定となります。
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最後にあらためて、ムッシュ・キタノの受勲を心よりお祝い申し上げたところで、私どものあいさつと代えさせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。コマネチ!
(近藤正高)