「イラク戦の日本のマイナス点は3つある。ラインを破るようなパスが乏しかったこと。守備陣が空中戦に苦しんでいたこと。そして、サイドで幅を作るような攻撃ができなかったことだ」

 ミケル・エチャリ(70歳)は端的に指摘した。単純に、詳細に伝える。その点でエチャリの洞察力は、ジョゼップ・グアルディオラにも一目置かれている。その昔、グアルディオラが会長選で「バルサのGMに」と担ぎ上げられたとき、戦略スカウト担当として指名されたのが、エチャリだった。

 リーガエスパニョーラの名門レアル・ソシエダで様々な役職を経て、現在は世界中で指導者のための講習会を開きつつ、バスク代表監督としても活動している。昨年末、カンプ・ノウではカタルーニャ代表を相手に采配を振るい、先発の6人がバルサの選手で占めるカタルーニャ代表の攻撃をシャットアウト。アリツ・アドゥリスの1点で0−1と勝利した。慧眼(けいがん)のプレス理論は、その後にバルサと対戦する他のチームが用いるほどだった。

「日本代表の選手たちのテクニックとスピードを考えれば、もっとボールを早く前に運び、相手がリトリート(後退)する前に攻めるべきだろう」

 エチャリは鋭く意見した。

「イラクは基本的にラインを下げ、中盤に人を集め、2トップのカウンター(サイドからも1人が参加)という戦い方を選択している。一方の日本はボールを失った瞬間、強度の高いプレッシャーをかけ、ショートカウンターを目論んでいた。しかしうまくはまらず、逆に何度か、カウンターを浴びる形になっている。もっとレベルの高い相手だったら、失点を喫していたかもしれない」

 エチャリは序盤の攻防を、プレッシングを軸に説明する。

「日本は、"全速力でのプレッシャーでボールを奪い取る"という意気込みだったのだろう。しかし、少々軽率だった。なぜなら全力でボールを奪いに向かうと、このレベルではわずかなフェイントと方向転換で、簡単にかわされてしまう。ボールを奪うことを目的にしつつも、そのためには相手がボールを失うように仕向けるべきだった。ボールを奪い取るスペースを限定していくべきだろう。

 果敢なプレッシングは、必ずしも適切ではない。例えば柏木陽介は、21番の選手(サード・アブドゥルアミール)に引っ張られすぎ、ポジション的優位性を崩していた。柏木は左足のキックに優れ、運動量が多いのが特長だろう。しかしその動きは規則的でなく、守備では綻びを作ってしまっており、さらに言えば、プレーメイキングも効果的ではなかった。

 秀逸だったのは長谷部誠だろう。CBの前にフタをしながら、いい間隔で中盤全体をサポートしていた。序盤、長谷部が気を利かせなかったら、日本はもっと厳しい攻撃を受けていただろう」

 エチャリは続けて、前半25分の得点シーンまで、ラインを破るパスがなく、サイドが淀み、攻撃が停滞していたことに苦言を呈している。

「攻撃が滞った理由としては、バックラインと中盤でのボール回しが遅すぎた。ボールを失うことを恐れるのではなく、ラインを破るようなパスを打ち込まないと、有効な攻撃は生まれない。結局、GK、CB、SBが長いボールを放り込むだけ。本田圭佑、原口元気のサイドを使えなかった。攻撃が中央に偏ってしまい、幅が作れないことで、立ち往生する時間が続いた」

 前半25分の得点は、原口が帰陣して中央でボールを奪い、それを清武弘嗣が持ち込み、右サイドの本田にパス。さらに本田の外を回り込んだ清武がパスを受け、ニアポストに入った原口のヒールで押し込んだ。

「一連の動きで目を見張ったのが、岡崎慎司だった。清武から本田へパスが出る直前、CBを2人も引き連れ、逆サイドへ流れている。岡崎はとても頭のいい選手。後半の立ち上がりにも、清武のパスを右前のスペースに走って呼び込んでいるが、そのタイミングは喝采に値する」

 エチャリは清水エスパルス時代から岡崎のセンスを高く評価してきた。トッププロならではの着眼点か。

「後半はイラクのペースで試合が進められた。ツートップにボールを流し込まれ、日本は混乱している。そして60分、右サイドから上げられたFKを、21番の選手にヘディングで決められてしまう。酒井高徳が競り負け、空中戦の劣勢は明らかだった。また、GK西川周作は反応が遅れた。西川はボールの軌道を見失ったのか。鈍くバウンドしただけに、止められたシュートかもしれない。

 これで日本はプレッシャーを強め、ポゼッションを高めたが、やはりラインを破るような果敢なパスが出ていない。

 しかし後半67分、柏木に代えて山口蛍を投入し、中盤のバランスは格段によくなった。結果として、原口、本田のサイドもコンビネーションからゴールに向かう回数が多くなってきた。ここでヴァイッド・ハリルホジッチ監督は岡崎、本田をベンチに下げる選択。岡崎の足もとにボールが入り、ゴールのムードが高まっていたし、本田も2度惜しいシュートを放っていた。交代で入った小林悠も空中戦で強さを見せたが、意外な交代だった」

 アディショナルタイムの決勝点は、清武のキックを賛美している。

「得点は清武のキックから。彼のセットプレーは(柏木よりも)得点の確率が高い。精度の高いボールがこぼれた後、いいポジションを取っていた山口が蹴り込んだ。攻め続けていただけに、必然だったろう」

 そしてエチャリは試合を総括した。それは「猫も杓子も反ハリル」のような風潮に釘を刺すものだった。

「DF面は以前よりも問題が解消されていた。まだチグハグなところはあるが、監督のトレーニング練度が伝わってくる。攻撃は鈍かったが、山口投入でポジション的バランスがよくなった。サイドで展開が作られ、多くのことが改善された。なによりも勝利という結果は、チームとして次につながる。強烈な批判が巻き起こっているらしいが、ロシアW杯に向け、悲観するべきではない」
(つづく)

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki