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Qualcommは米国時間の9月29日、IoT市場に向けて同社のSnapdragon 410/600の組み込み向け製品となる「Snapdragon 410E/600E」を発表すると共に、この2製品を同社からの直販ではなくArrow Electronics経由で購入できるようにしたことをアナウンスした。この発表に関して、10月14日に都内で説明会が開催された(Photo01)のでその内容をご紹介したい。

Qualcommそのものは、いまさら説明の必要もないほどメジャーなスマートフォン(スマホ)向けSoCベンダであり、もちろん競合は少なくないものの大きなシェアを獲得している。ただそこから一歩IoTなどの分野に踏み出そうとした場合に、既存のQualcommのラインアップや体制は必ずしも最適とは言えない。Qualcommの培ってきた要素技術は、工夫すれば「同社にとっての」新規市場にそのまま利用する事が可能である(Photo02)が、ただそのままというわけには行かない(Photo03)。従来Qualcommはスマホベンダに直販という形でチップを卸し、また技術サポートも直接行っていたが、組み込みでは対応すべき会社の数が桁違いに増えるし、出荷数量やライフサイクルなどすべてが異なる。これはQualcommだけで解決できる問題ではない。

そこでこの業界に経験の長いArrow Electronicsと組み、Arrowが組み込み向けSnapdragonの販売とサポートを行う、というコラボレーションが取られることになった(Photo04)。またQualcommとしては初の、10年以上の長期供給保障を行う事となった。もちろんサポートをすべてArrowに丸投げする訳ではなく、Qualcomm自身もQDN(Qualcomm Developer Network)というコミュニティサイトを立ち上げてサポートを行うが、いわゆるプロフェッショナルサービスはArrowに任せる形だ(Photo05,06)。

さてSnapdragonの話は後にするとして、次にArrow Electronics Japanの高乗正行氏によりArrows側からの説明があった。Arrows Electronicsは巨大な電子部品の総合商社であり(Photo07)、日本ではArrow Electronics Japanの下にアロー・ユーイーシー・ジャパンとチップワンストップが置かれている。高乗氏はこれら全体を統括する立場にあるため、肩書きが長くなっている形だ。

先のプレスリリースにもあった通りArrow ElectronicsはQualcommとの契約に基づき、全世界でSnapdragon 410E/600Eの販売を行う。プレスリリースでは"initially through Arrow Electronics"という表現になっており、将来的には他のディストリビュータとの契約もありえる含みを持たせているが、現時点ではArrow Electronicsの独占契約であり、これに基づく形で国内でもアロー・ユーイーシー・ジャパンとチップワンストップの2社がこの販売を行う形になっている。

そのターゲットだが、組み込みの中でも比較的プロセッシングパフォーマンスが必要なマーケットである(Photo10)。この分野、先駆者はFreescale(現NXP)のi.MXとかTIのOMAPなどだが、最近はMediaTekのHelioとかAPMのHelixなどかなりハイパフォーマンスのコアまでが組み込み向けとして投入されている。そもそもほとんどのモバイルSoCベンダはモバイル向けだけでなく組み込み向けにも同じ製品を投入しており、実際、須永氏も質疑応答の中で「私たちはFollower(後発者)」であるとはっきり明言している。このマーケットに対してのArrowの強みは、やはり長い歴史と幅広いサポート体制(Photo11)にある。実際同社はDragonBoardの販売ですでに実績もあり、また他のSnapdragonベースのSOM/SBCも扱っているため、開発のさまざまな場面で提供できる製品やサービスがあることが強みでもある(Photo12)。

実際同社が取り扱う製品は評価ボードやSBC/SOMなど幅広い(Photo13〜22)。

その妙に注目されているDragonBoard 410cであるが、これは本来Qualcommが開発したものであるものの、Arrow Electronicsが独占的に販売を行っている。国内での販売価格は9,800円であり、性能的にはかなりのものである(Photo23)。実のところスペック的にはRaspberry Pi 3 Model Bにかなり近いというかいい勝負である。ただRJ58コネクタの有無とかオンボードeMMCの有無など、完全にスペックが同じ訳ではないが、手軽さという意味では甲乙つけがたいものがある。実のところArrowはRaspberry Pi 3も扱っているので「ユーザーの望むほうを提供できる」と言うことだった。

また、アロー・ユーイーシー・ジャパンとチップワンストップの違いであるが、チップワンストップはチップあるいは完成品を少量から購入できるが、あくまでも製品の販売にとどまる。対してアロー・ユーイーシー・ジャパンは本格的な開発や量産段階でのサポートや製品供給を行う立場である(Photo24)。実際次に出てくるサポートパートナー企業との協業は、アロー・ユーイーシー・ジャパン経由になるという話であった。

そのパートナーであるが、現状こんな感じである(Photo25)。直接Qualcommのサポートは現状は無く、ハードウェアは各ボードパートナー、ソフトウェアは富士ソフトとサンダーソフトがサポートを行う形になるという話であった。

さて、発表会の話はこの程度にして、もう少しSnapdragonチップの話をしたい。まずチップの提供価格であるが、アロー・ユーイーシー・ジャパン経由は個別対応に近く、現状価格が出せないとしている。ただチップワンストップの方はすでに受注を開始しており、原稿執筆時点の価格で言うと

となっており、そう高い値段ではない(Snapdragon 600Eはまだラインアップされていない)。本格的に量産となると最小ロットで1万個とかなので、その場合はもっと価格は下がると思うが、50個の場合の半分まで下がることは無いだろう。

そのSnapdragon 410E/600Eであるが、どちらも特に組み込み用に何かをしているわけではないという話で、通常のスマホ用のものをそのままという話であった。なので、例えば動作温度範囲はSnapdragon 410Eが-30℃〜+90℃、Snapdragon 600Eが-30℃〜+85℃(どちらもTcaseの数値)となっており、微妙に産業用とは異なる温度範囲になっている。またスペックも通常のSnapdragon 410/Snapdragon 600と同じで、相違点はモデムを内蔵しないことだという。これは、モデムを内蔵した場合には色々と難しい問題があるからで、将来的にはモデム内蔵製品もラインアップするかどうかも含めてまだ検討中、という話であった。

実のところ、Qualcommが今回Arrow Electronicsと組んだ最大の理由は、現状、組み込み向けのハンドリングを行うだけの経験が無く、これを習得するために実績のあるArrow Electronicsと組んだというのが一番正確なところではないかと思う。こういう状況ではむやみに品種を増やしたりするのは危険で、まずは少量製品に限って実績と経験を積んでからその先を考える、というあたりではないかと思う。

Qualcommほどの大会社にしては随分と用心深いアプローチ、という気もしなくはないのだが、逆に自身が組み込みの経験が無いことをよく熟知した上での方法論だとすると、逆に経験をある程度積んだ数年後がちょっと楽しみというか怖いと感じられる内容であった。

(大原雄介)